長野県の南部・上伊那郡中川村に蔵を構える米澤酒造は、豊かな自然環境と良質な水に恵まれた土地で、地元の米にこだわった酒造りを行う酒蔵です。

米澤酒造

後継者の不在や設備の老朽化などの問題に直面し、一時は廃業の危機に立たされますが、2014年、同じ長野県にある寒天メーカー・伊那食品工業が事業継承し、新体制で酒造りを続けることに。

酒蔵のリニューアルに加えて、伊那食品工業が培ってきた衛生管理のノウハウも取り入れることで、着実に酒質を向上させていきました。

近年は、数々の日本酒コンテストで受賞を重ね、国内外から高く評価されている米澤酒造ですが、その勢いは2023年も変わりません。

世界最大規模のワイン品評会「International Wine Challenge」(以下「IWC」)のSAKE部門や、フランスで開催されている日本酒コンクール「Kura Master」といった、権威のある日本酒コンテストで上位賞を獲得しています。

米澤酒造の日本酒

今回は、米澤酒造の日本酒の美味しさを確かめるべく、同社の銘柄「今錦」「年輪」「おたまじゃくし」の各商品を飲み比べ。それぞれ、どのような個性があるのでしょうか。

「日がさ雨がさ」店主・宮澤さんが飲み比べ!

「日がさ雨がさ」の店主・宮澤一央さん

「日がさ雨がさ」店主・宮澤一央さん

米澤酒造の日本酒を飲み比べていただくのは、東京・四谷三丁目に店を構える銘酒居酒屋「日がさ雨がさ」の店主・宮澤一央さんです。

2008年に開店した「日がさ雨がさ」は、"日本酒の聖地"と呼ばれる四ツ谷エリアの中でも、たくさんの日本酒ファンに愛されてきた名店のひとつ。創業当時から提供している「飲み放題プラン」は、選りすぐりの日本酒を少量ずつ楽しめるとあって、約半数のお客さんが注文するほどの人気ぶりです。

居酒屋「日がさ雨がさ」

そのメニューの中でも、宮澤さんの出身地である長野県の日本酒は、都内でも屈指の品揃え。たびたび酒蔵にも足を運んでコミュニケーションを取り、過去には長野県の日本酒だけを集めた1,000人規模の飲み歩きイベントを開催するなど、長野県の日本酒の魅力を伝え続けています。

米澤酒造とは事業継承前から交流があり、酒蔵にも訪れたことがあるという宮澤さん。今回は、「今錦」「年輪」「おたまじゃくし」の定番商品を中心とした8種類のほか、試飲会で人気だという2種類のお酒も含めた計10種類をピックアップし、香りや味わいにどのような違いがあるのか、飲み比べをしていただきました。

長野県の酒米の個性を活かした「今錦」

「今錦」は、1907年の創業当時から造られている代表銘柄。長野県の酒米を中心に使用し、普通酒から純米大吟醸酒まで、幅広いラインナップを揃えています。雑味のないやわらかな口当たりのあとに感じる米の旨味、そして甘味と酸味のバランスに優れた、飲み飽きしない味わいが特徴です。

今錦 純米吟醸 美山錦

長野県の代表的な酒米である「美山錦」を、精米歩合55%まで磨きあげた一本。"米澤酒造のスタンダード"とも言える商品です。

2023年は、スペイン政府公認の国際酒類コンクール「CINVE」の日本酒部門で最高賞を獲得。また、世界一美味しい市販酒を決める「SAKE COMPETITION」の純米吟醸部門では、数々の銘酒の中で4位に。そして、世界最大規模のワイン品評会「IWC」のSAKE部門では、純米吟醸酒部門のゴールドメダルに輝きました。

今錦 純米吟醸 美山錦

「品のいい、 優しい吟醸香を感じます。口当たりはやわらかく、甘味がほどよく控えめに仕上がっています。香りと甘味がどちらも前に出過ぎていないので、単体で楽しむのはもちろん、食中酒としても優れたお酒だと思います。

また、『今錦』シリーズの特徴のひとつとして、旨味に奥深さをもたらす、ポジティブな意味での渋味や苦味である『滋味』が豊かな点が挙げられますが、特に『美山錦』は滋味が出やすい傾向があります。このお酒は澄んだ印象がありながらも、ほどよい肉付きを兼ね備えているので、『美山錦』の良さがしっかりと表現されていると思います」

◎商品情報

  • 商品名:今錦 純米吟醸 美山錦
  • 原材料名:米(長野県産美山錦)、米こうじ(長野県産美山錦)
  • 精米歩合:55%
  • アルコール度数:16度
  • 販売価格(税込):1,980円(720mL)

今錦 純米吟醸 山恵錦

2017年に品種登録された長野県の酒米「山恵錦(さんけいにしき)」を使用。酒米違いの純米吟醸シリーズとして、「今錦 純米吟醸 美山錦」と「今錦 純米吟醸 金紋錦」との飲み比べが楽しめます。

日本国外でもっとも歴史の長い日本酒品評会「全米日本酒歓評会」の吟醸酒部門では、2022年度に続き、2023年度も金賞を受賞しました。

今錦 純米吟醸 山恵錦

「先ほどの『美山錦』と比べると、全体的に軽やかでスマートな印象です。『山恵錦』は、軽快ですっきりとした酒質になりやすい点が魅力のひとつだと感じていますが、このお酒も酒米のキャラクターがうまく表現されていると思います。

一方で、香りは控えめで、後味にはじんわりとした滋味が続くので、『今錦』らしさも感じられます。ほどよい肉付きがある『今錦 純米吟醸 美山錦』に対して、こちらは軽やかな味わいが楽しめる、スレンダーな印象の一本ですね」

◎商品情報

  • 商品名:今錦 純米吟醸 山恵錦
  • 原材料名:米(長野県産山恵錦)、米こうじ(長野県産山恵錦)
  • 精米歩合:55%
  • アルコール度数:16度
  • 販売価格(税込):1,980円(720mL)

今錦 純米吟醸 金紋錦

長野県のみで栽培されている希少品種「金紋錦」を使用した一本。こちらも、酒米違いの純米吟醸シリーズである「今錦 純米吟醸 美山錦」と「今錦 純米吟醸 山恵錦」との飲み比べが楽しめます。

「全米日本酒歓評会」の吟醸酒部門では、2020年度から2023年度まで、4年連続で金賞を受賞。また、「IWC 2023」の純米吟醸酒部門では、ゴールドメダルを獲得しました。

今錦 純米吟醸 金紋錦

「上品な香りや、滋味が豊かな点など、味わいの方向性は『今錦 純米吟醸 美山錦』『今錦 純米吟醸 山恵錦』と似ています。ただ、こちらは爽やかな甘味が広がりつつも、それがふわっと溶けるように消えていく感覚が心地よく、ほかのお酒とはまた違った個性を感じますね。

『金紋錦』には独特の深みがあり、幅のある味わいのお酒になりやすいと言われていますが、この"味わいの立体感"がしっかりと表現されています。緩やかに広がる余韻も相まって、ひと口飲むと、心が落ち着くような雰囲気を持ったお酒です」

◎商品情報

  • 商品名:今錦 純米吟醸 金紋錦
  • 原材料名:米(長野県産金紋錦)、米こうじ(長野県産金紋錦)
  • 精米歩合:55%
  • アルコール度数:16度
  • 販売価格(税込):2,200円(720mL)

今錦 特別純米酒

長野県産米を全量使用し、精米歩合59%まで磨いた特別純米酒。今回紹介するラインナップの中では、特にコストパフォーマンスに優れた一本です。

「全米日本酒歓評会」の純米酒部門では、2020年度から2023年度まで、4年連続で金賞を受賞。また、「ワイングラスでおいしい日本酒アワード 2023」のメイン部門でも、金賞を獲得しました。

今錦 特別純米酒

「精米歩合という観点から見ると、純米吟醸シリーズとの間に大きな差はありません。ただ、純米吟醸シリーズは全体的に余韻が長く、お酒の世界に浸れるような上質感があるのに対して、こちらはほどよい長さで余韻が切れるので、つい『もう一口』と手が伸びてしまうような一本です。飲み会に用意しておくと、場を盛り上げてくれるお酒ですね。

また、リーズナブルな価格帯でありながらも、『今錦』らしさは健在です。価格と味わいのバランスに優れているので、『今錦』の入り口としてぴったりな一本ではないでしょうか」

◎商品情報

  • 商品名:今錦 特別純米酒
  • 原材料名:米(長野県産)、米こうじ(長野県産米)
  • 精米歩合:59%
  • アルコール度数:16度
  • 販売価格(税込):1,430円(720mL)

今錦 純米大吟醸

長野県産の「美山錦」を精米歩合39%まで磨きあげた、「今錦」シリーズの中で最高峰の日本酒です。

フランスの日本酒コンクール「Kura Master 2023」の純米大吟醸酒部門では、金賞を受賞しました。

今錦 純米大吟醸

「華やかな吟醸香を感じますが、決して派手すぎません。やわらかく、透明感にあふれた飲み口のあとに、豊かな滋味と『美山錦』由来のほどよい苦味が続き、全体的にとても上品な味わいに仕上がっています。

一般的な純米大吟醸酒と比べると、米の旨味が前に出ているお酒ですが、それこそが『今錦』の魅力です。精米歩合39%という高精白ならではのクリアな酒質と、良い意味での"田舎っぽさ"が両立できている一本ですね」

◎商品情報

  • 商品名:今錦 純米大吟醸
  • 原材料名:米(長野県産美山錦)、米こうじ(長野県産美山錦)
  • 精米歩合:39%
  • アルコール度数:16度
  • 販売価格(税込):2,926円(720mL)

最上の酒米で、最高の一本を目指す「年輪」

米澤酒造のフラッグシップ商品である「年輪」は、事業継承のあとに誕生した銘柄です。「最上の酒米を使い、最高の酒造りを目指す」というコンセプトのもと、「酒米の王様」として名高い兵庫県産の山田錦を精米歩合30%台まで磨きあげ、年輪を重ねるように、毎年、着実に進化する造りに挑戦しています。

年輪 純米大吟醸

「酒米の王様」と呼ばれる兵庫県産「山田錦」を精米歩合39%まで磨きあげた、米澤酒造のフラッグシップ商品です。

フランスの日本酒コンクール「Kura Master 2023」の純米大吟醸酒部門では、金賞のさらに上位であるプラチナ賞を受賞しました。

年輪 純米大吟醸

「雑味がとても少なく、透き通ったような、きれいで上品な甘味が特徴的です。軽やかな酒質や、澄んだ吟醸香も相まって、引っ掛かることなくスルスルと喉に吸い込まれていきます。

山国で生まれた『美山錦』などの米には、その土地の"ノイズ"のようなものが宿っていて、それがお酒の複雑味につながっているといった印象があるのですが、『山田錦』は余計なものが少なく、味わいに無駄がありません。米澤酒造のほかのラインナップとの比較が面白く、『山田錦』のポテンシャルが感じられる一本に仕上がっています」

◎商品情報

  • 商品名:年輪 純米大吟醸
  • 原材料名:米(兵庫県産山田錦)、米こうじ(兵庫県産山田錦)
  • 精米歩合:39%
  • アルコール度数:16度
  • 販売価格(税込):3,146円(720mL)

地元・中川村の米にこだわる「おたまじゃくし」

事業継承の前から造り続けている「おたまじゃくし」は、休耕地となっていた地元・中川村の棚田で栽培した「美山錦」を100%使用。さらに、田植えから稲刈りまでを村民とともに行うなど、まさに"地酒"を突き詰めた一本となっています。

おたまじゃくし ひやおろし

中川村の棚田で栽培した「美山錦」を使用した特別純米酒。「おたまじゃくし」には通年商品がなく、季節限定商品のみがラインナップされているため、今回は秋まで低温熟成させた「ひやおろし」を選びました。

おたまじゃくし ひやおろし

「穏やかな香りのあとに、『ひやおろし』らしいふくよかな印象と、穀物感のあるまろやかな旨味を感じます。味わいの要素が多く、複雑味にあふれているため、少し温めると、それぞれの要素がさらに引き立って感じられると思います。

中川村の棚田は、その形状から日当たりに差があり、収穫される米の品質にもばらつきがあります。このお酒には、その"野性味"のようなものが反映されていると感じますね。中川村の美しい景色が思い浮かぶ、味わい深い一本です」

◎商品情報

  • 商品名:おたまじゃくし ひやおろし
  • 原材料名:米(長野県産美山錦)、米こうじ(長野県産美山錦)
  • 精米歩合:59%
  • アルコール度数:16度
  • 販売価格(税込):1,595円(720mL)

中川村のたま子 特別純米酒

「おたまじゃくし」シリーズの中には、妹分として「中川村のたま子」という商品もあります。「おたまじゃくし」は、中川村の棚田で栽培した美山錦のみを使用しているため、多くを仕込むことができません。

そこで、同じ造りをベースにしながら、原料米には中川村の平地で栽培した美山錦を使用したのが「中川村のたま子」です。

2023年度の「全米日本酒歓評会」の純米酒部門では、部門最高賞の「グランプリ」に輝きました。

中川村のたま子 特別純米酒

「『おたまじゃくし』と比べると、やや複雑味が控えめで、クリアな印象があります。口当たりはすっきりとしていて、軽快な旨味が続き、喉を通ったあとには、ほどよい爽快感と心地よさを感じます。『おたまじゃくし』の妹分として、一歩引いた立ち位置にいるような酒質です。

同じ『美山錦』を使っていても、田んぼの場所によって、味わいのニュアンスに差が生まれるのが『おたまじゃくし』と『中川村のたま子』の面白いところ。ぜひ、両者の飲み比べを楽しんでみてほしいですね」

◎商品情報

  • 商品名:中川村のたま子 特別純米酒
  • 原材料名:米(長野県産美山錦)、米こうじ(長野県産美山錦)
  • 精米歩合:59%
  • アルコール度数:16度
  • 販売価格(税込):1,540円(720mL)

番外編

今回は、番外編として、試飲会で人気だという2種類のお酒も試飲していただきました。

HAKUMEI(薄明)

「日本酒に馴染みがない方でも、気軽に手に取っていただける一本を」という思いから生まれたのが、低アルコール日本酒の「HAKUMEI(薄明)」。甘酸っぱく、ジューシーな味わいが特徴で、ワイングラスで楽しみたい一本です。

HAKUMEI(薄明)

「ひと口飲むと、爽やかで優しい甘味と酸味が広がります。精米歩合は非公表となっていますが、雑味がとても少ないので、米をしっかりと磨いているような印象がありますね。やや低めのアルコール度数なので、食前酒や食後酒など、幅広いタイミングで活躍しそうな一本です」

◎商品情報

  • 商品名:今錦 HAKUMEI(薄明)
  • 原材料名:米(長野県産)、米こうじ(長野県産米)
  • アルコール度数:13度
  • 販売価格(税込):1,375円(500mL)

今錦 梅酒

伊那盆地の特産品である「竜峡小梅(りゅうきゅうこうめ)」を使用した、日本酒仕込みの梅酒です。

今錦 梅酒

「さっぱりとした甘味と、竜峡小梅ならではの、軽やかでチャーミングな酸味のバランスが心地よい梅酒です。米澤酒造の日本酒で仕込むことで、やわらかい飲み口に仕上がっています。一般的な梅酒よりも爽やかで軽快なテイストなので、幅広い年代の方に楽しんでいただけると思います」

◎商品情報

  • 商品名:今錦 梅酒
  • 原材料名:日本酒(中川村製造)、梅、氷砂糖
  • アルコール度数:11度
  • 販売価格(税込):1,375円(500mL)

個性あふれるラインナップから、好みの一本を

最後に、それぞれの銘柄に合う料理を教えていただきました。

「『今錦』の純米吟醸シリーズは、バターやオリーブオイルなどを使った洋食全般と相性がいいと思います。『今錦 純米大吟醸』や『年輪』は、より上品なテイストなので、牛肉や中トロなど、高級な脂がある食材と合いそうですね。

『おたまじゃくし』と『中川村のたま子』、そして『今錦 特別純米酒』は、毎日の食卓に寄り添ってくれる味わいだと思います。あまり難しく考えずに、煮物や肉じゃが、カレーなど、普段のメニューに合わせてみるのがおすすめです」

「日がさ雨がさ」の店主・宮澤一央さん

これまでに「今錦」を提供してきた経験や、米澤酒造に訪れた過去を振り返りながら、ひとつひとつのお酒をじっくりと評価していた宮澤さん。すべてのお酒の評価を終えると、次のように話してくれました。

「改めて感じたのは、南信州の風土が感じられる『今錦』、最高を突き詰める『年輪』、真の地酒と言える『おたまじゃくし』と、それぞれの個性がしっかり際立っているということ。事業継承が行われてからの数年間は、さまざまな意見に耳を傾け、試行錯誤の連続だったかと思いますが、今は目指している方向に迷いがないように感じます。

近年、日本酒コンテストで好成績を残していることについても、そのブレのない酒造りの姿勢と、酒蔵のリニューアルに伴う徹底的な衛生管理がうまく噛み合った結果ではないでしょうか。ぜひ、多くの方に味わっていただき、米澤酒造の実力を感じてみてほしいですね」

米澤酒造の日本酒

今回ご紹介した米澤酒造のラインナップは、全国の取り扱い酒販店や、公式オンラインショップなどから購入することができます。ぜひ、酒米違いや銘柄違いで飲み比べて、好みの一本を見つけてみてください。

◎「今錦」販売場所

(取材・文・編集:SAKETIMES)

Sponsored by 米澤酒造株式会社

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