「世界最高品質」をモットーに、高い技術力を保ちながら消費者のニーズに合わせた幅広い商品を提供する月桂冠。生産量は年間27万石と日本酒業界で圧倒的な地位を築きながらも、決しておごることなく日々研究を重ね、よりよい商品を消費者に届けています。

そんな月桂冠を支える職人たちは、どんな情熱を持って酒造りに取り組んでいるのでしょうか。

今回は、月桂冠株式会社醸造部 生産技術課長の阪本充さんにお話をお伺いしました。
阪本さんは、98年に月桂冠に入社し、6年間の研究所所属後、酒造りの修行を経て米国月桂冠で5年間醸造の責任者を経験。日本に帰国後は"製品分析のプロ"として月桂冠の酒造りを支えています。研究者としての知識を持ちながら、先端技術を酒造りの現場へと反映する仕事に携わる阪本さんの想いに迫ります。

数ある製品を研究する中で、思い出深いのは「生酒」

様々な製品の分析を手がけた阪本さんですが、もっとも印象深い商品のひとつは「生酒」だと言います。月桂冠は1984年、日本酒で初めて常温で流通可能な「生酒」を発売し、その技術の高さで業界をあっと驚かせました。

その「生酒」は、2014年にリニューアル。阪本さんはその時の改善に尽力したそうです。「生酒」にはしぼりたての鮮度感が大事で、お客様からはフレッシュさが求められます。そのようなお客様に喜んでいただけるよう、さらに「生酒」の貯蔵環境に問題意識を持って取り組み始めました。建屋の特性上、室内の湿度が高すぎるなどで商品への影響が出かねない状態だったのに対し、3年もの時間をかけて試行錯誤しながら解決策を探したそうです。

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阪本「コロンブスの卵と同じで、原因箇所を突き止めるのに本当に苦労しました。何十回何百回データをみてサンプリングしても原因にたどり着けないんです。原因らしいものを見つけてもその時々で違う問題が起きました。結局3年もかかってしまい、大変でしたね」

常温流通のしくみは、「超精密ろ過」という酒を分子量レベルでろ過する技術により、火入れをすることなく酵素を取り除き、酒質の変化を少なくして鮮度を保持することです。

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「生酒を火入れをせずに鮮度を保って飲みたいというお客さんはほんの一部かもしれません。しかし、どんな消費者のニーズにも素早く対応し品質の高い商品を届けることが、月桂冠のあるべき姿勢だと思っています」と阪本さんは言います。

米国月桂冠勤務を通して感じた、ものづくりの醍醐味

阪本さんは、4人目の駐在技術者として2005年から2010年に米国月桂冠に出向し、醸造に関わる全工程を指揮していました。米国月桂冠は日本での経験とは異なり、製造全体を束ねるリーダーとして即断即決が求められました。自分自身がすばやい判断で責任を持って進めていかなければならない環境だったそうです。

「アメリカの1年目は、トラブル対応もわからないし、時差があるから日本に質問もできない(笑)。走りながら体を動かしていくしかない苦しい一年でした」と阪本さんは笑いながら当時を思い返します。


米国月桂冠時代の阪本さん

阪本「前任者の1人目はゼロからイチを創り、2人目、3人目の前任者たちはイチをいかに大きくするかに注力しました。次の私の役割は、誰がこのポジションになっても酒造りが続くように、様々な要素を仕組み化することだと思っていました」

米国月桂冠で造られる日本酒は、伏見で造られる日本酒とはひと味違っています。使用する水は超軟水で、仕上がりの味は甘く飲みやすい。熱燗で飲まれる機会が多い米国では適切な甘みなのだそうです。

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また、米国月桂冠では従業員の文化も異なるため、阪本さんは採用にも力を入れていました。
キャリアとして酒造りに携わっていた経験のある方々からもたくさん応募がきましたが、阪本さんが重視していたのは器用で要領の良い人より、むしろ実直で”鈍い”くらいの人でした。”鈍い”人とは、打たれ強く、やるべきことをきちんとやることができ、長続きのできる人のことです。

阪本「みんなとても個性が強く、何が起こるかわからない醸造の現場に耐えることができ、どんな環境にも馴染むことのできるメンタリティを持っていました。日本の月桂冠と比べると、文化は違えど人間性は変わらないのかもしれません」

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阪本さんが月桂冠の酒造りに携わる中で一番嬉しかったことは、米国月桂冠勤務3年目に世界的なコンペティション「THE JOY OF SAKE」で金賞を取ったことだといいます。

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阪本「その時のチームでの酒造りが認めれたことがとてもうれしかったです。この賞も含め、僕はものづくりの楽しさを米国月桂冠で強く感じることができました。自分が全工程に責任を持って造ったお酒が世界各地で喜んで飲まれる……その緊張感と喜びにワクワクしました」

研究と感性はどちらも必要不可欠

阪本さんの考える月桂冠の造り手に共通するポリシーは、”実直であること”です。造り手たちは、与えられた役割に対してプライドを持ち、決して手を抜くことがありません。また、長年の研究や分析を積んできた阪本さんは、「日本酒造りは分析値だけでは語れない」と言います。

阪本「データに基づいた数字の解析で、大部分の人が好きなお酒の傾向などはつかむことができます。しかし、人間の好き・嫌いの感覚を完全に把握することは困難です。その一手を、造り手の感性で補うのかもしれません。
そのため造り手は、自分の物差しを明確に持ち、自分の感性を日々磨いてこそ、真に良い酒造りができるのだと思います」

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研究に基づいた鋭い視座を持ちつつ、感性や人間性も同時に大事にする阪本さんは、「より多くの人に月桂冠を美味しいと飲んでもらいたい」というシンプルな目標を掲げます。そのために、「すべての商品に対して、自分たち自信を持って美味しいと言えるようになることが第一歩だ」と語ります。

阪本「月桂冠は、世の中全般の企業と比べると決して大きくはありません。日本酒業界では規模も大きいかもしれませんが、そこに落ち着いていてもなんの面白みもないですよね。私は、自分の子どもが大きくなったときに月桂冠に入社したいと思ってくれるような会社の魅力を創っていきたいと思っています。もちろん月桂冠は長年の伝統により成り立っていますが、一方で”今”を創っているのは紛れもない自分たちです。人も、ものづくりも、そんな魅力を創っていける要素は揃っています。月桂冠のこの人に会いたい、ここはどこにも負けないという文化を築いていきたいです」

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阪本さんは、酒造りに対する冷静で論理的な考えとともに、月桂冠の今と未来を真剣に考え取り組む情熱的な想いを持っていました。

一人ひとりが自らの考えを明確に持ち月桂冠の未来を語る姿勢こそに、月桂冠のDNAが流れているのかもしれません。

(取材・文/石根ゆりえ)

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