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魚沼の食文化・発酵文化を伝えるために──八海山が手がけるショップ「千年こうじや」が魚沼とお客様をつなぐ

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南魚沼が誇る銘酒「八海山」を製造する八海醸造は、酒造りの他にもさまざまな事業を手がけています。中でも近ごろ注目を集めているのが、八海醸造の手がけるアンテナショップ「千年こうじや」です。地元・魚沼の発酵文化をベースに、酒粕を使った加工食品や発酵食品を独自に製造・販売し、神楽坂や日本橋などの一等地に店舗まで展開し、人気を博しています。

しかし、なぜ、酒造りが本業である酒造メーカーが、“ものづくり・店づくり”を始めたのでしょうか。SAKETIMESが八海醸造の真髄に迫る特別連載。第7回は八海醸造のオリジナルブランド「千年こうじや」の成り立ちや思いについて、事業責任者である中俣善也さんにお話を伺いました。

「ものを売ることが目的じゃない」 千年こうじや立ち上げの思い

酒造メーカーが運営するお店と言うと、一般的にはそのメーカーのお酒ばかりが置いてあるようなイメージを持たれるかもしれません。しかし、八海醸造の「千年こうじや」の店舗には、日本酒を使用したスイーツ、塩麹や醤油麹といった調味料、魚介類や豚肉の粕漬けなど、たくさんの商品が並んでいます。なぜ、八海醸造はお酒以外にも、さまざまな商品の開発・製造を手がけているのでしょうか。中俣さんは次のように語ります。

「千年こうじやは『魚沼の食文化を広く紹介したい』というコンセプトのもとで、“米・麹・発酵”をテーマにした商品開発や店舗運営を行なっています。私たち八海山は、魚沼の豊かな自然に支えられて、ここまで酒造りを続けられてきました。そんな素敵な魚沼の生活や文化について、少しでも皆さんに知ってもらいたいという思いから、このショップは立ち上がりました」

新潟県の魚沼地方は、冬になれば3m近くもの雪が降り積もる豪雪地帯です。古くからこの地に住まう人々は、長く厳しい冬を乗り切るために、さまざまな工夫を凝らしてきました。夏や秋のうちに採れた海の幸・山の幸に一手間も二手間もかけ、長持ちする保存食に加工したのです。その多くに、日本酒と同じような“発酵”を用いた方法が取り入れられていました。

「千年こうじや」は、ただいいものをつくって売るブランドではありません。“米・麹・発酵”にまつわる商品を展開することで、伝統的な魚沼の食文化の多様さや素晴らしさを人々に感じてもらい、魚沼に興味を持ってもらうことを目的としているのです。

原点は女将の「もてなし」だった

実は、八海山の酒以外の"ものづくり"は、「千年こうじや」が立ち上がる以前から始まっていたのだそう。「その発端は、現社長である南雲(二郎氏)の母親だった」と、中俣さんは言います。

「創業当時から、社長の南雲の母親は、手料理でお客様をおもてなししていました。そこで、酒粕や麹をつかった漬物を出していて。これが美味しいと評判で、『せっかくだから商品化しよう』という話になりました。この流れで、八海山では1999年に魚沼新潟物産という別会社を立ち上げ、酒粕や麹をつかった漬物を生産するようになりました」

こうした"ものづくり"の蓄積が、現在の「千年こうじや」にもつながっています。始めは八海醸造で立ち上がった「千年こうじや」ですが、現在はグループ会社の魚沼新潟物産が運営を担っており、中俣さんはこちらの代表取締役社長に就任されています。「千年こうじや」の商品開発・生産力は、八海山が長年培ってきたノウハウが支えているのです。そして、その根底には、魚沼に根ざす食文化・発酵文化が、しかと受け継がれています。

同じものはひとつもない、その街の色に合わせた店づくり

2012年より「千年こうじや」は神楽坂、日本橋、湘南と次々に店舗をオープンさせていきます。“店舗づくり”について中俣さんに伺うと、「毎回考えるのが本当に大変なんですよ」と笑いながら、言葉を続けます。

「チェーン店みたいに基本的なつくりを全部同じにしてしまえば、こんなに苦労することはないんでしょうけどね(笑)。けれども、場所が変わればお客様の層も変わるし、何より街の雰囲気だって違いますよね。だから、新しくお店を出す時には、その街に自然と馴染むよう、徹底的に細部までこだわっています。
神楽坂店は、街全体の和風で品のよい雰囲気に合うように“木の温かみ”を全面に感じられるつくりを意識しました。一方で湘南店は『湘南T-SITE』内に入っているので、施設内の明るく開放的な雰囲気に合わせつつ、そこにどう“魚沼感”を融合させるか熟考しました」


「千年こうじや湘南店」の内観

店づくりのこだわりは、デザイン面だけに留まりません。その地域の特色に合わせて、仕入れる商品のバランスも店舗ごとに調整しているそうです。

「神楽坂店は、よその街から散策がてら立ち寄る方が多いので、日持ちがして持ち歩きやすい、お土産として手にとりやすい商品を中心にしています。湘南店は地元住人が生活のための買い物をしに来るケースが多いので、魚介類や肉類の加工食品など、すぐ食卓に並べられそうなものを多数取り揃えています。店づくりを地域に最適化していくと、街の日常にちゃんと溶け込んでいく。そうすると、リピーターが付きやすくなりますね」

中でも日本橋店は、店舗名に唯一”八海山”の名前が冠してあり、その場で飲食可能なBarスペースが併設されています。ここでは、魚沼が誇る文化的な美食を、銘酒・八海山と共に楽しむことができます。

「日本橋店の日本酒Barのテーマは、"八海山と食のマリアージュ"です。お酒本来の味をたしなむのも一興ですが、さまざまな料理とかけ合わせることで、楽しみ方は無限大に広がります。八海山を味わってほしいのはもちろんですが、それ以上に、日本酒が持っている可能性の豊かさをお客様に感じて頂けたら……という思いでやらせてもらっています」

商品の背景にあるストーリー・文化を知ってほしい

塩麹ブームや「麹だけでつくったあまさけ」の大ヒットの後押しもあり、「千年こうじや」のお店は日頃たくさんの人で賑わっています。しかし、日本橋店を除いて、「千年こうじや」は“八海山”の名前を前面に押し出していません。置いてある日本酒のラインナップを見れば気付く人もいる……という程度で、八海山がやっているお店だと知らない常連さんも少なくないのだとか。なぜ、直接的なブランディングをしないのでしょう。中俣さんはその理由について「商品の後ろにあるストーリーを知ってほしいから」と説明します。

「これからは、"モノ消費"から"コト消費"に移り変わっていくはず。その時流を踏まえると、今までと同じように商品を売っていくだけでは、先細りになってしまうとも考えています。だからこそ、魚沼の文化を知ってほしいし、興味を持ってほしい。何より単純に、私たちがこよなく愛している魚沼のことを、もっと多くの人に知ってもらいたいんですよ。そうすれば、その延長線上にある八海山にも、きっと今以上に愛着を持ってもらえる……そんな風に私たちは考えています」

「千年こうじや」がお客様と魚沼をつなぎ、魚沼がお客様と八海山をつなぐ。遠回りでも、こうしたサイクルが生まれることが理想的だと語る中俣さんの口調には、穏やかながらあふれんばかりの熱がこもっていました。

八海山の販促としてではなく、独自の思想を持ったブランドとして立ち上げられた「千年こうじや」。魚沼の素晴らしさを伝えるために、今なお進化し続けています。2017年には銀座、麻布十番にも新しい店舗をオープンする予定とのこと。それぞれの街の文化を吸収して、どんな素敵な店舗になるのでしょうか。今後の「千年こうじや」の展開から、目が離せません。

(取材・文/西山武志)

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