兵庫県・灘で300年以上にわたり酒造りを続けている大関から、新しい純米大吟醸原酒「Number(ナンバー)」が2020年9月14日に発売されました。

このお酒は兵庫県内限定で販売され、商品コンセプトは「みんなで造る日本酒」です。この"みんな"とは、お米を育てる人、お酒を造る人、お酒を売る人、お酒を味わう人、そのすべてを指しています。

このコンセプトに込められた意味、そして、できあがったお酒の出来栄えとは。「Number」の企画・開発に携わったみなさんにお話をうかがいました。

地元の米で造った、地元のためのお酒

「Number」は、華やかでフレッシュな香りと軽快な口当たり、ふくらみのある心地よい余韻が特徴の純米大吟醸原酒。酒米は、兵庫県加東市産の山田錦を使っています。販売エリアは兵庫県のみで、販売本数は1,500本限定です。

「Number」

「Number」に携わる主なメンバーは、商品開発・製造を行った「大関」と、原料となる山田錦を生産する農業法人「玄米家」、同社の酒米を販売する「藤本糧穀(ふじもとりょうこく)」、ラベル制作に協力したNPO法人「とんとん」。いずれも兵庫県内で積極的に活動している企業やグループです。

大関 営業推進部商品開発グループの菅野洋一朗さん

大関 営業推進部商品開発グループの菅野洋一朗さん

大関 営業推進部商品開発グループの菅野洋一朗さんは、「みんなで造る日本酒」というコンセプトが生まれた背景について、次のように話します。

「今回の商品を造るにあたり集まったのは、兵庫県内で地域に根差した事業を行われている方々。共通点は"兵庫"というキーワードでした。大関も兵庫県西宮で地酒を造っているので、"兵庫の酒蔵"であることをあらためて打ち出したいと考えました。

また、兵庫県産のお酒を兵庫県内の方々に、地元を感じながら飲んでほしい。これから地元・兵庫とさらに結びつきを強めていきたい。そんな思いを込めて"みんな"という言葉をコンセプトに入れたんです」(菅野さん)

安全性が保証された特A地区の山田錦

「Number」について特筆すべき点は、農作物の安全性を証明する国際認証「GLOBAL G.A.P.(Good Agricultural Practice:農業生産工程管理)」(以下、G-GAP)を受けた山田錦を100%使用した日本酒であること。

G-GAPとは、生産環境が国際的な安全基準に適合し、消費者に安全な農作物を提供していることを保証するものです。持続可能な取り組みを求める東京オリンピック・パラリンピック大会の選手村で、G-GAP認証を受けた農産物が提供されることでも知られています。

市内にある多くの農地が、山田錦の最上級の産地・特A地区に指定されている兵庫県加東市。その加東市で、農業とライスセンターの運営事業を行う「玄米家」の専務取締役・藤本善仁さんこそ、G-GAP取得実現のために奔走した人物です。取得のきっかけは、数年前に兵庫県青年農業士会のG-GAP研修を受けたことでした。

玄米家 専務取締役の藤本善仁さん

玄米家 専務取締役の藤本善仁さん

「生産記録や日報をつけておくと翌年の生産計画や引継ぎの際にも役立つので、弊社では普段から記録を取る習慣が根付いていました。G-GAPの研修を受けた際に、すでに認証取得している農家さんの事例などを見せてもらったのですが、そのときに、自分たちが普段から行っている生産管理で取得要件はほとんど満たしていることに気づいたんです。

ほかにも業務効率化を意識した社内システムの構築なども実施していたので、G-GAPの取得は難しくなさそうだと感じ、取得に向けて準備を始めました」(藤本善仁さん)

G-GAPの審査項目は約200項目。先進国だけでなく発展途上国の従業員にも適用できるような審査基準になっているため、生産管理行程のチェックだけではなく、休憩室の有無など労働環境に関する項目も多かったといいます。

それでも、普段からの環境整備の試みが功を奏し、項目を問題なくクリア。無事にG-GAPを取得することができました。

農作地

その「玄米家」と「大関」をつないだのが、兵庫県内で障がい者・高齢者への支援を行うNPO法人「とんとん」の理事長を務める江藤勇さんです。

NPO法人「とんとん」理事長の江藤勇さん

NPO法人「とんとん」理事長の江藤勇さん

兵庫県内で酒米・酒販売の事業を行う江藤さん、以前から「大関」や「玄米家」とはそれぞれ交流がありました。「玄米家」がG-GAP取得申請をしていた時期に、江藤さんが「大関」の長部訓子社長に紹介したそうです。

「玄米家がG-GAP取得を目指していることを知り、もし認証を受けることができれば、その山田錦を使ったお酒がオリンピック・パラリンピックの選手村で飲まれるかもしれない。これはおもしろそうだと思って、大関の長部社長に声をかけました。私は先代から米屋と酒屋をしていて、米や酒の消費が落ち込んでいる状況に対して、何か起爆剤となるようなものが必要だと思ったんです」(江藤さん)

「玄米家」の藤本善仁さんは、「大関さんのような大きい酒蔵さんから声がかかると思わなかったので、びっくりしました」と当時を振り返ります。

また、「玄米家」が生産する農産物の卸売を請け負っている「藤本糧穀(ふじもとりょうこく)」の代表取締役・藤本一郎さんも、驚きを隠せなかったといいます。

藤本糧穀 代表取締役の藤本一郎さん

藤本糧穀 代表取締役の藤本一郎さん

「お話をいただいたときはうれしかったですね。この土地で作ったG-GAPの山田錦が商品に使われることに加えて、日本酒の味わいを決めるところやラベルデザインを考える工程にも参加させていただけることになったので、いっしょに商品が作れることへの喜びが大きかったです」(藤本一郎さん)

機械

全国的に見ても米農家は高齢化傾向にありますが、玄米家は20~30代の若手社員が活躍し、設備の機械化も積極的に進めています。農業が盛んな加東市でもあまり見られない玄米家の取り組みに、江藤さんは以前から一目置いていたのだといいます。

「多くの米農家さんは手書きで生産記録を取っているなか、玄米家さんのようにパソコンでデータ管理をしていること自体珍しいです。米農家としては特殊だったかもしれませんが、若い人たちが最適化された環境で効率的に働いているのは素晴らしいこと。

大関の長部社長も、以前から『米の作り手を大切にしなければ会社に将来はない』とおっしゃっていて、大関さんも作り手のみなさんを大切にされている。安心して双方をご紹介することができました」(江藤さん)

小仕込みだからできる、特別な一本

"兵庫"というキーワードでつながったメンバーで、酒造りがスタートします。兵庫県内に住む日本酒愛飲者をターゲットに見据え、原料や酒質にこだわり、「高級感のあるものを造ろう」と商品の方向性が決まりました。

「Number」の製造に使用した酒米は約600kg。大関の一般的な商品で使われる酒米の重量よりも少ない仕込み量です。使用するのは、G-GAPを取得した山田錦100%。初めて使う米で酒造りを行うことから、ほかの酒蔵のデータも参考にしたのだとか。

精米機

米の特徴を活かすため、手作業を主とする小仕込み製法を採用し、大関の丹波杜氏が酒造りを先導してもらいながら、ていねいに仕込みを行いました。温度管理を徹底し、香りと味のバランスを取ることにこだわり、こうして「Number」は完成します。

大関の菅野さんは、商品開発について次のように振り返ります。

「兵庫県は酒も食も強い土地なので、食事といっしょに楽しめる食中酒を商品のポイントにしました。香りだけを重視するのではなく飲みごたえも欲しかったので、純米大吟醸酒のなかでも米の旨みがしっかり出る原酒に決めました。2種類の酵母を使った、味わいと香りのバランスがよい商品になっています。さわやかな吟醸香で口当たりが軽く、ふくらみのある後味が残ります。

普段とは異なる視点で日本酒造りを行うという、大関としてもチャレンジングな商品になりました。ある意味、大関っぽくない、特徴のあるお酒です。新型コロナウイルス感染症拡大の影響でまだ叶ってはいませんが、食事とのマリアージュの提案も考えています」(菅野さん)

「みんな」に込められた意味

「Number」のもうひとつの特徴は、ラベルに手書きの番号が入っていることです。1,500本すべてに振られた数字は、兵庫県内の福祉施設で生活する、障がいを持った方や高齢者の方々によって書き入れられたもの。障がい者・高齢者支援を行う江藤さんの「なんらかの形で商品開発に参加できないか」というアイデアが形になったもので、書き入れ作業を行った人たちも、兵庫で暮らす"みんな"の一員です。

「商品としての魅力をもっと高めたいと思って、県内支援学校の障がい者の方、高齢者施設の方にも参加してもらいました。誰かが書いていると、ほかの方も『おもしろそう、私もやりたい』と言って、みなさん楽しそうに作業していました。

『みんなで造る日本酒』というコンセプトを伝えると、自分たちが携わったものが商品になることがうれしいようで、施設で働く先生方もみなさんワクワクしていましたね。こんな機会はなかなかないので、今回実施できて大関さんには本当に感謝しています」(江藤さん)

ラベルに番号を書き入れている様子

ラベルに番号を書き入れている様子

江藤さんは酒類の販売免許も持っているため、商品の発売に合わせてイベントを開き、障がい者の方たちによる販売実習も予定していたといいます。さらに、商品の名前やラベルデザインについても、障がい者の方たちから案を募集するつもりだったそう。新型コロナウイルス感染症拡大の影響で実現には至りませんでしたが、「今後も日本酒との関わりを持ちながら、障がい者の方・高齢者の方たちの自立を支援していきたい」と語ります。

たくさんの人々の思いをのせて完成した「Number」。お話をうかがった4名は、完成した商品を眺めて一様に感慨深い表情を浮かべていました。しかしながら、商品の完成に欠かせない「もう一人の"みんな"がいる」と菅野さんは語ります。

「この商品が完成するのは、飲み手の手元に届いたとき。飲み手のみなさんも"みんな"の一員です。1本1本に異なるストーリーがあるので、それを感じながら味わっていただけたらうれしいですね。商品としてはまだまだ改善の余地があるので、来年、再来年とよりよいものを目指して、ブラッシュアップしていきたいです。今後も酒造りを通して、"みんな"と関わりながら地域に貢献できるような取り組みを続けていきます」

「Number」

お米を育てる人、お酒を造る人、お酒を売る人、お酒を味わう人。

「Number」が生まれるまでの背景を知ると、ひとつの商品には実にさまざまな人が携わり、誰が欠けても商品は完成しないのだということをあらためて感じることができました。兵庫県で働く人々がチームとなって作り上げた特別な日本酒は、まもなく "みんな"のもとに届けられます。

(取材・文/芳賀直美)

◎商品情報

  • 商品名:Number:純米大吟醸原酒
  • 原料米:兵庫県加東市産 山田錦100%(G-GAP認証)
  • 容量:720ml
  • 価格:2,500円(税抜)
  • 発売日:2020年9月14日(月)
  • 本数:1,500本限定
  • 発売地域:兵庫県限定

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