10月1日といえば、日本酒造組合中央会が制定している「日本酒の日」。10月に入ると新米の収穫が始まり、全国各地の酒蔵で日本酒造りが始まること、そして、10月に当てはめられている十二支の「酉」という漢字が、もともと酒壺や酒そのものを意味していることに由来しています。

そんな「日本酒の日」の特徴のひとつは、日本酒を飲んでお祝いするイベントが全国各地で開催されること。

奈良県香芝市の大倉本家のブース

「清酒発祥の地」として酒造りの長い歴史を持つ兵庫県・伊丹市でも、「日本酒の日」直前の9月29日(日)にイベントが開催されました。それが、「全国一斉 日本酒で乾杯!2019 × 伊丹郷町酒ガイド2019」です。

「全国一斉 日本酒で乾杯!」とは、全国の県酒造組合や酒蔵、飲食店、日本酒ファンを横断して開催されるイベント。今回は、全国から伊丹に酒蔵が集まり、伊丹の飲食店とコラボするイベント「伊丹郷町酒ガイド」との共同開催となりました。

伊丹の飲食店の料理と全国各地のお酒を楽しめるとあって、会場は大盛り上がり。「清酒発祥の地」をめぐり、「奈良酒」と「伊丹酒」のバトルも繰り広げられた、イベントの様子をお伝えします。

「清酒発祥の地」をめぐって対決!

会場となるのは、伊丹市の中心部にある小西酒造の「白雪ブルワリービレッジ長寿蔵駐車場」と、老松酒造のショップ向かいにある「三軒寺前広場」。

伊丹酒造組合所属の4蔵(小西酒造・老松酒造・川辺酒造・岡村酒造場)、奈良から2蔵(大倉本家・長龍酒造)、特別ゲストとして宮城県名取市から1蔵(佐々木酒造店)を交えた計7蔵が参加しています。

伊丹酒造組合4銘柄の飲み比べセット

伊丹酒造組合4銘柄の飲み比べセット(左から、小西酒造「白雪」、伊丹老松酒造「老松」、川辺酒造「花衣」、岡村酒造場「千鳥正宗」)

伊丹酒造組合4銘柄の飲み比べセットは、イベント開始から2時間で売り切れる盛況ぶりでした。

奈良を代表して参加された2蔵は、大倉本家と長龍酒造です。

奈良県香芝市の大倉本家のブース

奈良県香芝市に蔵を構える大倉本家は、「伊丹郷町酒ガイド」に毎回参戦している常連蔵。蔵元杜氏の大倉さんが元気にブースに立ちます。今年は、2種類の無濾過生原酒を用意していました。

古来の水酛造りの技法を維持してきた大倉さんが造るお酒と、灘の生酛造りのお酒。一口飲めばその違いを感じますが、それは僧坊酒を醸してきた奈良と、灘の寒造りの走りである伊丹との歴史の違いでもあるように思えます。

長龍酒造「ふた穂」

奈良県北葛城郡に蔵を構える長龍酒造は、「稲の国の稲の酒」や「ふた穂」という銘柄名から、米へのこだわりが伝わります。

「ふた穂」は、岡山県産の雄町を100%使用して2014年に醸造された5年熟成の純米酒。「今日で一番おいしいお酒!」と叫んでしまいそうになるほど、渾身の一杯でした。

また、「日本酒シーンを盛り上げていこう」という意図で行われた、「清酒発祥の地」をめぐる「奈良酒」と「伊丹酒」のバトルも見どころ。両方のお酒を飲んだ参加者が好きな方に投票したところ、結果は引き分けに終わったようです。

さらに、同じく「日本酒発祥の地」を掲げる島根県出雲市も交えて、3者でバトルをするという話も出ているのだそう。今後も、白熱したバトルに期待が高まりますね。

日本酒で深まる、宮城県・閖上との絆

会場では、鏡開きや外国人による利き酒大会、フラダンスチームによるステージパフォーマンスなどの催しも。丹波杜氏による酒造り唄も披露され、400年以上受け継がれる伊丹の酒「丹醸酒」の文化を、伊丹流の元祖酛摺り唄などで彩りました。

外国人による利き酒大会

また、今回、特別ゲストとして参加したのが、宮城県名取市の「閖上さいかい市場」のみなさんです。

2011年3月の東日本大震災によって壊滅的な被害を受けた閖上地区ですが、地域住民の復興の願いを受けて、震災前から閖上で商売をしていた店舗を中心とした仮設店舗「閖上さいかい市場」を2012年2月にオープン。これまで、伊丹郷町商業会のみなさんは義援金による応援を続けてきました。

その甲斐もあり、今年、すべての商店が新店舗での営業に移行することができたそうです。

宮城県名取市の佐々木酒造店のブース

名取市で「宝船 浪の音」を醸す佐々木酒造店も、ようやく新しい蔵が完成。今季から新たな酒造りを始めるのだそう。

「全国一斉 日本酒で乾杯!2019」×「伊丹郷町酒ガイド2019」の鏡割り

「閖上さいかい市場」のみなさんと伊丹郷町の方々との"再会"が実現したのは、「伊丹のみなさんに、これまでのご支援への感謝を伝えたい」という強い思い。

伊丹郷町、奈良、宮城と、それぞれのつながりが日本酒を通してさらに強まったように感じます。まさに、「日本酒の日」を祝うにふさわしい一日でした。

(文/湊 洋志)

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