北海道内で戦後始めて新設された酒蔵・上川大雪酒造「緑丘蔵(りょっきゅうぐら)」。9月10日(日)、完成したばかりの蔵で醸造された、全6種類の試験醸造酒を味わうイベントが行われました。

記念すべき誕生祭の会場は、東京国立近代美術館内にあるレストラン「ラー・エ・ミクニ」。 緑豊かな皇居を臨むダイニングで、三國シェフの織りなす特別な料理と、緑丘蔵で造られたお酒のマリアージュを楽しみます。

生まれたてのお酒を目の前に、イベントがスタート

ずらりと並んだ、6つの試験醸造酒。シズル感あふれる、生まれたてのお酒を前に期待が高まります。「早く飲みたい......」と、私を含めて参加者の心の声が聞こえてくるようでした。

そんななか、代表取締役社長・塚原敏夫氏の挨拶からイベントがスタート。

塚原氏は「三重県にあった酒造会社を北海道に移転し、地方創生に貢献しながら最高の日本酒造りを目指す」という、前代未聞のプロジェクトを発案したエネルギッシュな人物。

長年の夢を実現させるべく、移転先に選んだのは、もともと酒蔵が存在していなかった上川郡上川町。冬はマイナス20℃にもなる大雪山系の麓で、豊富な天然水と広大な農地に恵まれています。

「本当にたくさんのご協力があって、酒蔵を完成させることができました」と、うれしそうに話す姿は、長年の夢を叶えたという自信と今後の希望に満ちあふれていました。

上川町のゆるキャラ・かみっきーも応援に駆け付けてくれました。

続いて、川端慎治杜氏の挨拶。石川県の酒蔵をはじめ、福岡県や岩手県、山形県、群馬県と、数々の酒蔵で酒造りを経験してきました。「川端杜氏のお酒が飲みたくて、緑丘蔵を応援しています」というファンが多数存在するほどのスター杜氏です。

「初めて米を洗ったのは、5月23日。純米酒造りからはじめ、夏に向かって吟醸酒の仕込みに入るという、かつて経験したことのない流れで取り組みました」

暑い時期に吟醸酒を仕込む。そんな驚きの挑戦もなんのその、川端杜氏の確かな腕と蔵人のチームワークにより、試験醸造とは思えない高品質なお酒ができあがったそう。期待が高まります。

6種類の試験醸造酒を味わう

いよいよお待ちかね、試験醸造酒の試飲です。3品種の酒米と、3パターンの精米歩合を組み合わせて造るのが基本とのこと。

「酒米は、北海道産の『彗星』『吟風』『きたしずく』を使用し、精米歩合は『純米』『吟醸』『大吟醸』をベースに造ります。これだけで9種の日本酒ができますよね。これに、生原酒などを加えてバリエーションの幅を出していきたいと考えています」と川端杜氏。

1号から6号までのスペックは以下の通り。

  • 試験醸造 仕込1号 純米無濾過原酒 彗星
    原料米:彗星(北海道産) 精米歩合:65% アルコール分:17度
  • 試験醸造 仕込2号 辛口純米酒 彗星
    原料米:彗星(北海道産) 精米歩合:70% アルコール分:15度
  • 試験醸造 仕込3号 特別純米酒 彗星
    原料米:彗星(北海道産) 精米歩合:60% アルコール分:16度
  • 試験醸造 仕込4号 純米吟醸酒 吟風
    原料米:吟風(北海道産) 精米歩合:50% アルコール分:16度
  • 試験醸造 仕込5号 純米吟醸酒 彗星
    原料米:彗星(北海道産) 精米歩合:50% アルコール分:16度
  • 試験醸造 仕込6号 純米吟醸無濾過生原酒 きたしずく
    原料米:きたしずく(北海道産) 精米歩合:50% アルコール分:16度

まずいただいたのは4号。北海道産の吟風を100%使用した吟醸酒です。澄みきったお酒に顔を近づけると、ふわっと香る上品な吟醸香。口に含むと、フルーティーさの中に柔らかく優しい丸みが感じられました。後味はすっきりとして、とても綺麗な味わいです。

塚原代表、川端杜氏だけでなく、佐藤町長も口をそろえていたのは、「上川の水は、最高に美味しい」ということ。この日は特別に、和らぎ水として仕込み水をご用意いただき、さらに仕込み水を使用した特別な料理も提供されました。

仕込み水は口当たりがとても柔らかく、綺麗でやさしい味わい。ほどよいミネラル感に「なんて美味しい水だろう!」と、しばしうっとりしてしまうほどの感動を覚えました。たしかに、水の美味しさがしっかりと活かされたお酒です。こんなに美味しいお酒になるならば、水としても本望かもしれません。

コンセプトは、普通に造ること

「川端杜氏!一番のおすすめは何号ですか?」と、全部おすすめであることを承知の上、そんな質問を投げかけてみると......

「3号ですね」と気持ちよく即答してくれました。

「『普通に造る』、それがひとつのコンセプトなんですよ」と、川端杜氏。最近では、複雑な造りをしたマニアックなお酒が多く、特に"生酛系"と"度数が低い吟醸系"の二極化が進んでいると感じているのだとか。

「極端なものではなく、食中酒として楽しめる普通に美味しいお酒を造りたかったんです。マニアではなく、より多くの人が喜んでくれるような酒造りを目指しています」

たしかに、川端杜氏おすすめの3号、吟醸造りながらも香りが立ちすぎるわけではなく、米の旨味をしっかりと感じられる仕上がりでした。

川端杜氏の言葉を借りると、3号は「昭和の吟醸づくり」。甘みをのせすぎず、料理に合わせることを前提に造られているお酒です。

この日のために三國シェフが特別に用意してくれた料理も、ご紹介しましょう。

見た目麗しき料理の数々

日本酒かおるトリッパのトマト煮込

北海道の酒造好適米「吟風」を使用したリゾット

日本酒との相性を考えて用意された料理の数々。会場では「美味しい~!」の声が飛び交っていました。そのまま飲んでももちろん美味しいお酒ですが、料理とのマリアージュによって、単体とは異なる新たな美味しさを見出すことができます。

「上川町に酒蔵ができるなんて夢にも思わなかった」

緑丘蔵の建設に全面協力してきた、佐藤芳治町長にも話をうかがいました。

2年前、塚原氏からプロジェクトについて聞かされたときは、上川町に酒蔵ができるなんて夢にも思わなかったという町長。当初は半信半疑だったものの、塚原氏をはじめとするメンバーの情熱に突き動かされ、町を挙げて協力することにしたのだとか。「官民一体となれば、住民のため、世の中のためにより大きなことができる」と実感したそうです。

地域創生の道として、企業誘致などが主流であった高度経済成長期とは、環境が大きく異なる現代。「今後、さらに人口が減っていくなかで、希望ある町づくりを推進するためには、今ある資源を生かしながら民間と協力し、チャレンジを続けていかなければなりません。上川町の事例が、ほかの自治体にとって、何かしらのヒントになればうれしい」と、話してくれました。

塚原代表の熱意、川端杜氏の腕、そして上川町のサポート、さらにこのプロジェクトをクラウドファンディングを通じて応援したたくさんの方々。どれかがひとつ欠けても実現しなかったであろう、緑丘蔵プロジェクト。

改めてそのお酒を口に含めば、旨味がじんわりと体の隅々まで染み渡り、自然と熱い気持ちが湧き出てくるのを感じました。みなさんの思いが重なって完成した緑丘蔵のお酒には、飲む人を元気にする力が秘められているような気がします。

世界に通用する日本酒として、いつか海を越えて海外にやってくる日も近いのでは?そんな期待に胸をふくらませながら、会場を後にしました。

(文/SAKERINA)

「大雪日本酒ゼミ」が10/14(土)・10/28(土)・11/5(日)に開催されます

上川大雪酒造と、上川町まちづくりイノベーション推進協議会が主催する「大雪山(だいせつざん)大学」がコラボレーションした「大雪日本酒ゼミ」が、10/14(土)・10/28(土)・11/5(日)の3日間テーマ別に開講されます。

「大雪日本酒ゼミ」は、上川大雪酒造の純米酒を試飲しながら受講するワークショップ。日本酒を切り口に、上川町をもっと楽しむためにはどうしたら良いかを考える、誰でも参加できるアイデアゼミとなっています。参加者にはフラテッロ・ディ・ミクニの特別ランチコースも用意されるそうですよ!


◎各回のお知らせ

1)【10/14(土)開講】ツアー編:日本酒で楽しむ上川町の観光ツアー
2)【10/28(土)開講】女性イベント編:女性が喜ぶ日本酒スタイル
3)【11/5(日)開講】食材編:地酒に合うご当地の肴


◎お問い合わせ先

上川町まちづくりイノベーション推進協議会 上川町役場内 北海道上川郡上川町南町180番地
TEL. 01658-2-4058(平日9:00~17:00)
FAX:01658-2-1220

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