日本酒と珈琲を組み合わせるということを、みなさんは考えたことがあるでしょうか?

長野県「宮坂醸造」の期間限定書店「マスミ書房」の主催で「日本酒と珈琲のマリアージュ」というイベントが、3月13日(日)に開催されました。マリアージュの案内人は、店舗を持たない一風変わった珈琲焙煎人、中川ワニさん。誰もが想像だにしなかった組み合わせはどのような調和を見せるのでしょうか? その新たな味わいをご紹介いたします!

日本全国を旅する珈琲焙煎人・中川ワニさん

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今回、日本酒と珈琲のマリアージュを案内してくださった中川ワニさんは、全国を旅しながら珈琲教室を開いている珈琲焙煎人です。イベントは中川ワニさんの新しい著作である「とにかく、おいしい珈琲が飲みたい」の出版記念トーク&ワークショップという形で開催されました。

トークショーは、中川ワニさんと、その奥さんであり共著者である中川京子さん、本の写真を担当した砺波周平(となみしゅうへい)さんを交えて行われました。「書店ではどうカテゴリーすべきか困る本」という言葉が出るほどエピソードが多岐に渡ったエッセイで、珈琲の教則本とも、普通の珈琲エッセイとも一味違った本に仕上がっています。

喫茶店のモーニングのようなポピュラーな場面はもちろんのこと、時にはお菓子と、時には和食と共に語られたりと、珈琲のさまざまな表情が引き出されているのがとても面白いです。興味のある方はぜひ書店で手に取ってみてください。

マリアージュのために用意された日本酒と珈琲

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トークショーの後は、いよいよ日本酒と珈琲のマリアージュのワークショップ。

日本酒は宮坂醸造の「真澄」です。事前の説明では、今年リリースされた純米吟醸 うすにごりが最も好相性とのことで、今回はそちらと純米大吟醸 山花をそれぞれ珈琲と合わせてみました。コーヒーは中川さん自ら抽出したもので、豆の配合など条件の違う珈琲をいくつか試すことができました。

日本酒だけで飲んだ時の印象/
一番相性が良いとされた「純米吟醸 うすにごり」は、炭酸飲料のような刺激の強さが香りにあり、非常に爽やか。味わい自体にカフェオレのようなやや厚みのある甘さを感じられ、フルーティな酸味と綺麗なバランスを保っています。

コクのあるマリアージュに向くと紹介された「純米大吟醸 山花」は、うすにごりに比べて穏やかですが、香りは抜けが良く、澄んだ印象を覚えます。味わいは「うすにごり」に比べて淡く、わさびの花のような辛さと風味が印象的でした。

珈琲だけで飲んだ時の印象/
今回用意された珈琲は「パナマ・ブラジル・コスタリカ」「ペルー・グアテマラ・エチオピア」といった、複数の豆をブレンドして淹れられたものでした。味の組み立てにはどちらも遊び心が感じられます。キリキリとした鋭さではなく、ふんわりとした緩いニュアンスがあり、独創性を感じる珈琲です。

マリアージュを取りもつ接着剤は、なんと練乳!

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交互に飲んでみても、そのままでは珈琲と日本酒はマリアージュをみせません。ひいき目に見ても、日本酒の刺激と珈琲の刺激は、あまり相性がよいとはいえなさそうです。

そこで登場するのが「接着剤」となる存在。接着剤とは中川ワニさんの言葉で、マリアージュを取り持つ第三の要素をそう指します。今回珈琲と日本酒の仲を取り持ったのは、何と「練乳」でした。ベトナムでは練乳を珈琲に溶かして飲む習慣があるそうで、その要領で、珈琲に練乳のクリーミーな柔らかさと甘みを与えます。日本酒と練乳を加えた珈琲を交互に飲んでみると、なるほど、両者が驚くほど味が馴染むように変化しているのがわかります。

最も印象的だったマリアージュは、クミンや小豆の香りを感じる「ペルー・グアテマラ・エチオピア」をブレンドしたスパイシーな珈琲と「純米吟醸 うすにごり」の組み合わせでした。うすにごり自体が甘みのあるお酒のため、マイルドに変化した珈琲とのギャップが少なく、そのぶん香りが絡み合っていました。練乳によって、珈琲の味わいに吟醸酒の香りが綺麗に乗って、マリアージュはとても華やかです。

珈琲の後に日本酒を飲むと、日本酒のアルコール感と珈琲の風味がぶつかってしまう印象がありますが、日本酒の風味が口の中で残っているうちに珈琲を含むと、両者が見事に高め合う関係になるように感じました。マリアージュを試していくにつれ、味覚が日本酒の甘さをキャッチしやすく変わっていったことも印象に残っています。

なぜ日本酒×珈琲なのか

一見ミスマッチなふたつを合わせる発想は、ベトナム珈琲と白ワインが思いのほか美味しかったというワニさん自身の経験からきているそうです

日本では、砂糖や牛乳を入れることでさえ、珈琲を飲みやすくするための補助手段に過ぎないと考えられがちです。それに対して中川さんは、さまざまな食材、飲料などによる調味やミックスをポジティブに捉えて、より楽しめる方法を模索していくことを考えていらっしゃるようです。今回のマリアージュもそうしたある種の「遊び心」に端を発したものだったと見受けられました。

もちろん「楽しみ方の幅を広げる」という考え方は、珈琲にだけ当てはまる話ではありません。日本酒においても、いろいろな楽しみ方が模索され生み出され許容されていくことで、より多くの人が、今以上に日本酒を楽しめる可能性が生まれてくるのではないでしょうか。

日本酒と珈琲。私自身はどちらも普段から愛飲しているのですが、今回のマリアージュでは、その両方の新たな表情を知るような、新鮮な驚きがありました。日本酒を時には普段と違った形で楽しんでみるのも、よいのではないでしょうか。興味のある方は、まずはお気に入りのお酒でぜひお試しください!

(文/永木三月)

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