燗酒。私も寒い日にはよく楽しんでいます。冬の季語というイメージですが、なかには燗こそが酒を美味しくする呑み方だと豪語し、一年中燗酒しか口にしないという強者もいます。
ところで、なぜ燗酒は美味しいのでしょうか。化学的に解明するなら以下の効果があるようです。

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ですが、これで話を終わらせてしまうのは切ないというもの。なぜなら燗は日本人に根付いた酒文化だからです。歴史は古く、平安時代に記された「延喜式」によるとその頃から酒を温めるという習慣があったようです。

うるわしき日本の文化・燗酒のホントを探る

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このように、燗酒は温かさの違いを美しい日本語で表現します。また、燗で酒が美味しくなることを「燗映え」「燗上がり」「味が開く」「香りが開く」と言ったりします。ほんのりと酒の香りさえしてきそうな表現ですよね。日本の酒文化は何と奥ゆかしいことでしょう。

とはいえ、居酒屋や家庭で、普段私が美味しいなと感じているのはどのくらいの温度なのか、何と呼ぶのがふさわしいか、分かっていません。酒に温度計を差すなんて人前では野暮ですが、ひとりなら問題ありませんよね。いざ、実践してみました。

試飲には、一般的に燗上がりが良いとされる「生酛純米」、かつ酒質のメリハリある変化を期待し「生酒」を選びました。

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「梅乃宿 生もと特別純米 無濾過生原酒 直汲み」

また、加熱・温度測定方法は以下のとおりです。

・保温性のある鉄瓶で湯を沸かす
・75~80度で火を止め、常温の酒を湯煎する(スムーズに温まりやすい「ちろり」を使用)
・温度計でちろり内を測定
・所定の温度になったらちろりを湯から出し、湯煎で温めた器(ぐい呑)に注ぐ
・注いだ酒も所定の温度範囲を保っているか測定

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体感テストの感想は以下のとおりです。

常温 20度(まだ加熱していません)
穏やかに酸を湛える香り。スムーズな口当たりから瞬時に深く酸味が広がる懐の深い酒。単に辛いというより力強いコクがある、そんな印象です。

日向燗 30度
お茶ならぬるいと叱られる温度。口当たりはより柔らかくなり、先に感じていた酸味は少し弱くなりました。
若干ですが鼻にツンと来ます。ああ、すでに燗酒だなと実感。

人肌燗 35度
ぐい呑を口元に持っていくとほんのりと温かさが。これが人の温かさを感じる温度か。香りに変化はありません(鼻が慣れてしまったのかな)。口当たりは酒としての刺激がずいぶんと和らいでいます。いわゆる「飲みやすい」と言われるのがこの飲用温度かも。

ぬる燗 40度
ほんのり湯気が立ち香りが膨らみます。甘いのに爽快感ある良い香りです。燗が苦手という人が忌み嫌うアルコール臭じゃありません。酸味が遠のいてキレが増してきました。これが燗映えというやつでしょうか、とてもいい酒です。

上燗 45度
注ぐとさらに湯気が。いかにも温かそうです。ぐい呑の周りで芳香も豊か。
あっ、咲いてます、燗の花が。印象としては今までの中で一番旨い。キレがありつつも、旨味の余韻が心地良い。

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熱燗 50度
あ、いつもの居酒屋での温度だ。熱燗にしますかと言われるままに飲んでいたのは確かに熱燗だった(今さらながら感心)。全ての条件がいきなりまとまったというか整ったというか、いわゆる口当たりのいい「飲みやすい」酒になったような気がします。なるほど、だからついつい飲みすぎちゃうのかな。これが居酒屋の罠だったのか。

とびきり燗 55度
「あつっ!」 不意に口元に持っていくと火傷しそうです。香りは固く旨みは細くなった感あり。熱いので、口に含んだ中から酒の複雑性を見出すことは私の力では不可能かと。でも、飲めます。この酒の、もともと強めの酸味がまろやかになって逆に程よい辛口になってるってことでしょうか。

試しに60度以上
もうダメです。揮発臭が強く感じられます。生酒に自分で火入れしてしまいました。

以上が主な飲用温度別の感想です。酒が違えば、これまた違う燗の上がり方があるんでしょうね。

燗の温度で肴の味わいも七変化?

つぎに、おおまかな温度帯で燗酒と肴の相性を試してみました。用意したのは”牡蠣の小鍋立て”と、日本海から直送した”生の甘エビ”です。

日向燗(30度)~ぬる燗(40度)
いわゆる熱くない状態では、野菜類とは互いに響き合いますが牡蠣にはちょっと力不足。
まったりと濃厚なエビの食感と風味にも、柔らかな酒質では太刀打ちできない様子。逆に少し生臭さを感じてしまうほどで、冷やのままが良かったかなという気も否めません。甘エビに生酛は好相性と思っていたのに意外です。

上燗(45度)~熱燗(50度)
よりキレが増してきたからでしょうか。牡蠣がさっぱりと美味しく感じられます。熱いものには熱いものという食感のバランスも良く、野菜の甘味を引き出しています。一方、甘エビはなかなか酒に寄り添ってくれません。互いの味の複雑性が噛み合わないのかと思っていたところ、時間を追ってさらに温度の上がった酒がエビを迎えました。口の中がさらっとして食が進みます。

しっくりくる温度を見つけたら・・・

全ての温度帯を振り返ってみると、私に響いたのは「上燗」だったように思います。香り、味わいとも酒の持ち味がゆっくりと広がり、心身をやさしく癒してくれるような心地よい温かさ。「しみじみと旨い」という表現がしっくりと来ます。
よし、これから燗を頼むときには「45度の上燗で」と言おう!

・・・というのは野暮ですね。店では、細かいことは言いっこなし。燗酒の美味しさは、温かくつろいでほしいという店の思いやりと、それを有り難く受け取る側との信頼関係がつくり出すものだと思います。
お気に入りの店があるとしたら、その理由はきっと店の燗酒が自分向きに燗上がりしているから。逆に、どうもしっくり来ないと思っている店があるなら、それは店の燗酒が合わないということかもしれませんね。

みなさんも、ぜひ”しっくりくるお酒の温度”を探ってみてくださいね!

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(文/KOTA(コタ))

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