最近「日本酒は健康に良い」という情報をよく見聞きするようになりました。日本酒には、アミノ酸をはじめとする700種類もの栄養成分が含まれているため、日本酒が健康に及ぼす肯定的な影響についての情報が、ネットを中心に多く流布しています。
いち日本酒ファンとしては、願ったり叶ったりでしょう。しかし、医学的な観点からみた本当のことを知りたいですよね。そこで今回、『酒好き医師が教える最高の飲み方』(日経BP社刊)を監修した日本酒好きの医師・浅部伸一先生に、お酒にまつわる素朴な疑問を聞いてみました。
2種類のアルコール中毒
宴会などの楽しいお酒の席では、ついつい飲み過ぎてしまうことも少なくありません。目が覚めたときには、前夜の記憶が定かでないという経験をした人も多いのではないでしょうか。しかし、飲み会の最中にアルコール中毒で亡くなったという話を聞くと、飲み過ぎに対する恐怖を感じます。
また「毎日飲むのがやめられない」「飲む量をどうしても減らせない」と、自分がアルコール中毒なのではないかという疑念が頭をよぎった経験のある人もいるかもしれません。浅部先生に聞いてみると、アルコール中毒には2つのタイプがあるそうです。
依存性が強い「慢性アルコール中毒」
「慢性アルコール中毒」は以前、"アル中"と呼ばれていましたが、現在は「アルコール依存症」と呼ぶのが一般的です。これは、お酒を飲むことがやめられない精神的な病気。薬物と同じで、アルコールには依存性があるため、人によっては自分の意思でストップをかけるのがとても困難なのです。こればかりは、病院で継続的な治療を受けるしかありません。
急激な飲酒が引き起こす「急性アルコール中毒」
多くの人が思い浮かべるアルコール中毒は「急性アルコール中毒」でしょう。短時間に多量の飲酒をした結果、肝臓がアルコールを処理できなくなってしまった状態です。一度にたくさんのアルコールが体内へ入ると、それは毒になってしまいます。この時にもっとも大きな影響を受けるのが、脳です。
肝臓が一度に処理できるアルコールの量はそこまで多くありません。ゆっくりと処理していくため、一定量を超えてしまうと、血液中のアルコール濃度が急激に上がってしまいます。この状態がいわゆる急性アルコール中毒。ここでいう"中毒"は、依存症という意味ではなく、外来物によって身体が害を受けるということです。
アルコールには、脳の働きを抑える麻酔作用があります。麻酔の量が少ないうちは理性が飛んだり、思考の働きが鈍くなったりするだけですが、さらに量が増えると意識が失くなってしまうのです。
人間の脳において、意識を司る部位と呼吸や循環などの生命活動を司る部位は異なります。後者の部位はアルコールの影響に強いため、まず前者の部位が影響を受けるのです。意識が失くなるだけなら生命は保たれますが、呼吸や循環などに影響を与えるほどのアルコールを飲んでしまうと、命に危険をおよぼしてしまいます。
人によっては、血中アルコール濃度が高くなることで肝臓が急激にダメージを受ける人もいるようで、その症状も含めて急性アルコール中毒と呼んでいます。
吐いたものを喉に詰まらせる「窒息死」に要注意
東京消防庁が発表している平成24年から平成28年までの「過去5年間の急性アルコール中毒搬送人員の推移」によると、搬送される人は年々増えていて、平成28年は16,138人にも上ります。
年間、これだけの人数がお酒の飲み過ぎで急性アルコール中毒になっているようですが、なかでも危険なのは、吐いたものを喉に詰まらせてしまう「窒息死」です。
これは、血中のアルコール濃度に関係なく起こるので要注意。意識が朦朧としているなかで嘔吐し、口の中に物が残ったまま寝てしまうと、窒息する可能性が高まります。飲み過ぎで吐いてしまった人がいたら、そのまま寝かせるのではなく、口の中に残っているものを出し切ることが大事です。そばについて、ちゃんと呼吸をしているか、呼吸が乱れていないかを確認し、重篤である場合は救急車を呼びましょう。
◎参考文献
- 『酒好き医師が教える最高の飲み方』(著者:葉石かおり、監修:浅部伸一/日経BP社)
- 最新医学のエビデンスをもとに、お酒の正しい飲み方を指南した一冊。お酒の楽しみ方はもちろん、健康や美容との関係など、お酒を飲む人が抱く素朴な疑問に回答を示し、多くの読者から高い評価を得ている。
(取材協力/葉石かおり)
(文/乃木章)