特定名称酒の売上や海外輸出額が増加しているなど、大きな転換期を向かえている日本酒業界で、新たな販売戦略として注目を集めているサービスがあります。それが「クラウドファンディング」です。
クラウドファンディングとは、主にインターネット上で行われる資金調達の手段のひとつ。企業や個人が立ち上げたプロジェクトに支援者が出資し、リターンとして物品やサービスを受け取る購入型のクラウドファンディングが主流です。
支援者はほとんどが一般の消費者であり、リターンの魅力やプロジェクトオーナーの思いに惹かれて支援をします。そのため資金調達のほかにも、宣伝効果やファン獲得が期待できます。
日本酒関連のプロジェクトは、この5年間で100件を超え、クラウドファンディングの中でもひとつのカテゴリーになるほどの盛り上がりを見せています。その中には調達金額が1,000万を達成するものもあるほど。それでは、なぜ伝統産業である日本酒が、新しいサービスであるクラウドファンディングを活用するのでしょうか。
今回は、クラウドファンディングサービスを提供する7つのプラットフォーム(CAMPFIRE・FAAVO・Makuake・MIRAI SHUFUND・Motion Gallery・Readyfor?・SHOOTING STAR)で、2017年10月までの日本酒関連プロジェクトを調査し、実績とその魅力に迫ります。
日本酒×クラウドファンディングの相性の良さ
上記グラフは日本酒関連のプロジェクト件数の推移を表したものです。2012年2月に立ち上がった初の日本酒関連プロジェクトから続々と企画された結果、2017年10月時点でプロジェクト総数は113件となりました。
さらに総調達金額は1億8100万円、総支援人数は1万8600人を超えるなど、その注目度の高さが数字として現れています。このように日本酒関連プロジェクトが順調に数を伸ばしている理由は、日本酒と相性の良いクラウドファンディングの性質にあります。
ストーリー性
クラウドファンディングではほとんどの場合、プロジェクトオーナーは思いやストーリーを語ることで支援を募ります。酒蔵の多くは長い歴史があるため、挑戦に対してのストーリーが描きやすいです。また、地域に根ざしている蔵ではその地方に特化したプロジェクトを立てることで土地柄からも、支援者に体験を提案することができます。
共感性
支援者は語られたストーリーに共感して支援を決めます。伝統産業であり古くから食卓で親しまれている「日本酒」の挑戦は多くの人の共感を呼びやすい傾向にあります。
リターン
また、支援の見返りとしてプロジェクトオーナーは物やサービスを設定することができます。日本酒の場合、支援者は共感した物を味わえるためリターンに魅力を感じて支援することもあります。
クラウドファンディングのメリット
一方、プロジェクトのオーナー側にもメリットが多くあります。
資金調達
まず挙げられるのは、クラウドファンディングの最大のミッションである資金調達。酒蔵は通常、酒を売った利益で原料の購入や設備投資を行います。しかし、クラウドファンディングを利用すると借り入れせずに資金を調達でき、少ないリスクで新規事業を企画することができます。
テストマーケティング
続いては、新製品や新サービスがどれだけ市場に受け入れられているかを図るテストマーケティング機能。消費者の反応をリアルタイムで追えるため、次の手をすぐに打つことができます。さらに、マーケティング機能でいうと、クラウドファンディングでの販売可能個数は上限を設ける事が可能なので、限定酒の販売の場としても優れています。
宣伝効果・ファン獲得
クラウドファンディングでは、宣伝効果並びにファンの獲得も期待できます。プロジェクトを通じて、全国の日本酒好きに商品やサービスを宣伝できるだけでなく、日本酒に対する感度の低い方へのプロモーションもできます。
また、支援した額に応じてもらえるリターンは日本酒だけでなく、日本酒造りの体験等も設定することができるので、より自社の日本酒のファンを増やすことにも繋がります。
実績
クラウドファンディングの結果が実績となり、金融機関からの融資や流通販路での取り扱いが決まることもあります。インターネット上に分かりやすく数字として残るため、その企画を持って宣伝をすることも可能です。
これらの相性の良さから、過去には以下のようなビッグプロジェクトが誕生しました。
日本酒ヌーボー「酒々井の夜明け」
調達額1,000万円を達成。シーズン初しぼりの日本酒をその日に飲めるという珍しい体験と、ワイン好きに馴染み深いワードで日本酒初心者にもリーチしました。
雪どけ酒「冬単衣」
2017年10月現在、日本酒事業でトップの調達額1,800万円を誇るビッグプロジェクト。大手電機メーカーと埼玉の地酒蔵が手を組み、「-2℃」で味わうという新たな体験を提案して爆発的にヒットしました。
それでは、実際にクラウドファンディングでプロジェクトを企画する際に留意することは何か。プラットフォームサービスの運営元と、プロジェクトオーナーに話を伺いました。
日本酒関連事業数No.1 「Makuake」運営に聞く極意
株式会社マクアケが運営するクラウドファンディングのプラットフォーム「Makuake」は、日本酒関連事業の約50%という圧倒的なシェアを誇り、調達金額1,000万超えのコンテンツをいくつも生み出している唯一のプラットフォームです。
その実績は、成功率80%超え、目標調達額に対する実際の調達率が228.8%など、まさにクラウドファンディング業界で日本酒ジャンルを牽引する存在。そこで今回は、株式会社マクアケ取締役・坊垣佳奈さんに「Makuake」の強みと成功への秘訣を伺いました。
「Makuake」の強みはなんですか
「Makuakeは、日本酒関連でのプロジェクト数が国内クラウドファンディングサービスの中で最多を誇り、日本酒好きなユーザーが多くいる事があげられます。また、国内最大手のインターネット企業・サイバーエージェントのグループ企業なので、会員4000万人以上を誇るサービス『Ameba』等との連携が可能で、様々なメディアと繋がりがあるためPR力の高さも強みです」
プロジェクトの平均額が高いなど大きな実績を残している理由はなんですか
「Makuakeのサイト自体へのアクセス数が多い事に加え、PRに力を入れているので、プロジェクトをより多くの人に見ていただけるということが大きな要因です。また、1つのプロジェクトにつき担当が1人ついて、プロジェクトページのコンサルティングをさせていただくので、製品の魅力がしっかり伝わり支援・購入を喚起させられるプロジェクトページに仕上がっていることも要因のひとつです」
プロジェクトオーナーの声を教えてください
「クラウドファンディングを通じて、
- 初めて日本酒を購入する層や若い人といった今までリーチ出来なかった層にリーチする事が出来た
- 多くのメディアに取り上げられ、自社ブランドのプロモーションに繋がった
- ○○万円集めた日本酒として、ブランドイメージの向上に繋がった
といった満足度の高いご意見をいただいています」
成功の秘訣、成功しやすいプロジェクトの立て方はありますか
「プロジェクトを成功させるにあたり、その製品自体の魅力・そしてプロジェクトを実施頂く事業者の皆様の熱意はもちろんですが、プロジェクトのターゲットを明確にしプロジェクトページを魅力的に作成する事が大切です。
例えば『−2℃で楽しむ日本酒・冬単衣』のプロジェクトは、氷点下の日本酒は味わいが3段階に変化する事を文章や写真素材で分かりやすく伝え、さらにホームパーティに持って行ったら周りの人の注目を集められるといった訴求を入れました。そうすることで、『この日本酒を購入するとこういった体験が味わえる』ということをターゲットが強くイメージできるようなページに仕上げています。その他にもたくさんプロジェクトを成功させるための秘訣はありますが、この他のノウハウに関してはMakuakeでプロジェクトの実施を決めていただいた後、お話させて頂いております」
反対に失敗しやすいプロジェクト企画はありますか
「上記と逆で、プロジェクト実行者の方に熱意がなく、プロジェクトページ内で製品のことを魅力的に伝えられていないと失敗する可能性が高くなります」
総調達金額は2,000万以上!プロジェクトオーナーから見たクラウドファンディングの魅力
石井酒造株式会社代表取締役・石井誠氏は 「二才の醸」を始め「埼玉SAKEダービー」、「冬単衣」と次々に日本酒プロジェクトを企画し、成功させてきました。そこで、今回は先駆者として利用を考えている人へのアドバイスを中心にクラウドファンディングについての思いをうかがいます。
クラウドファンディングを利用するにいたった経緯を教えてください
「資金調達という側面より、蔵や新商品のPR効果を狙っての方が企画を立ち上げた理由としては大きかったです。また、クラウドファンディングを利用すると、製造数をある程度把握することができ、製造計画が立てやすかったです」
実施したからでこそ得られたメリットはありますか
「多くのメディアに掲載され、蔵の認知度が向上しました。さらにクラウドファンディングでは、特に若年層へのPR効果が顕著で期待していた以上の反応をいただきました」
苦労したところ、気を使ったところはどのようなことでしょう
「プロジェクトページやランディングページの見栄えに特に気を使いました。その他でいうとリターンの価格設定、銘柄の策定など、ユーザーにどう思われるかを重要視しました」
どのような酒蔵がどのように活用すれば良いかアドバイスがあればお願いします
「アイディアがあっても、なかなか資金的に新しいことにトライできない酒蔵は、積極的に活用してほしいですね」
クラウドファンディングによる新たな価値提供
特定名称酒の消費量が増えているように、モノそのものよりも背景を大事にしてお酒を買うといったマーケットの変化が、クラウドファンディングに顕著に現れています。
クラウドファンディングが提案するのは「ストーリーマーケティング」。酒蔵は思いが込められたお酒のストーリーを消費者に語り、消費者はストーリーを知ることで、そのお酒や酒蔵のファンになることができます。まさに酒蔵にとっても、消費者にとってもおいしいサービスなのです。
日本酒関連プロジェクトは続々と企画され、今この瞬間にも支援を集めています。プロジェクトオーナーとして、または、支援者としてクラウドファンディングを利用してみてはいかがでしょうか。
(文/内記 朋冶)