新型コロナウイルスによる外出自粛の影響を受けて、「オンライン飲み会」など、家にいながらして楽しめるイベントが見られるようになりました。日本酒業界においても、酒蔵が「オンライン蔵見学」を開催するなど、オンラインサービスを活用した取り組みが目立っています。
オンラインイベントの魅力は、酒蔵とファンが画面上でつながり、直接コミュニケーションがとれること。また、参加者は移動時間や交通費をかけずに参加できることも利点です。
今回は、実際にオンラインイベントを開催した4つの蔵(青木酒造・朝日酒造・今代司酒造・吉田酒造)に、工夫した点や実際やってみた感想をうかがいました。
これからオンラインイベントの開催を考えている酒蔵や参加したいと思っている日本酒ファンの方は、参考にしてみてください。
Zoomを使った「オンライン飲み会」(青木酒造/新潟)
「オンライン飲み会」を開催しようと思ったきっかけは、なんでしょうか。
外出の自粛要請が続くなかで、オンライン飲み会に誘われたことがありました。実際に参加すると、オンラインならではの楽しみ方があることに気づき、自分たちでも開催することにしたんです。
ファンを増やすためのきっかけとして、オンライン飲み会が有効なのかを検証することが目的でしたので、まずはテストとして開催しました。
「オンライン飲み会」では、どのようなことをされたのでしょうか。
杜氏から今期の造りの話などを聞きながら、お酒を楽しむといったオンライン飲み会です。
準備した機材などを教えてください。
パソコンがあればできるので、特に新しく購入した機材はありません。配信は、杜氏と社員で行いました。
配信ツールに「ZOOM」を選んだ理由はなんでしょうか。
ほかのツールを試したことがなく、Zoomの話題をよく耳にしていたので使いました。
開催にあたり、告知はどのように行われましたか。
今回はテストとしての開催でしたので、私がFacebookでつながっている日本酒業界に関わりのない方を中心に、限定的に招待させていただきました。
「オンライン飲み会」の、おおよその参加者数を教えてください。
約40名ほどです。
参加者とのコミュニケーションを取るうえで、⼯夫した点があれば教えてください。
配信のスケジュールを組み立て、写真やスライドなどを用意しました。さらに、沈黙の時間を避けるために、こちらから積極的に参加者に問いかけるようにしました。
また、配信の参考になるかと思い、なるべくラジオを聴くようにしていました。
対⾯でのイベントと⽐較して、よかった点や改善点などを教えてください。
ホストと参加者の会話が続くので、参加者によっては、生放送のラジオを聴いている感覚の方もいたと思います。顔を映さない参加者も多かったですね。入退室も自由ですし、気兼ねなくラフに飲めるのはオンライン飲み会のいいところだと思います。
注意点としては、締め時がわからなくなってしまうので、終了時間をしっかり決めることですね。あとは、ついつい飲みすぎてしまうので、和らぎ水をしっかり準備することをおすすめします(笑)。
最後に、参加者から寄せられた感想を教えてください。
またやってほしいという声は多かったです。今後飲み会をするうえで、対面ではなくオンライン飲み会が主流になるとは思いませんが、ある程度はオンライン飲み会が人々の生活に定着すると思いました。
YouTube Liveを使った「オンラインセミナー」(朝日酒造/新潟)
「KUBOTA SAKE ONLINE SALON」を開催しようと思ったきっかけはなんでしょうか。
新型コロナウイルス感染症の影響により、多くのイベントが中止となり、オンラインでイベントを開催しようと思ったのがそもそものきっかけです。4月に「オンライン蔵フェス」などを開催し、今後もなにかオンラインの取り組みができないかと考えていました。
また、2020年5月は朝日酒造の創立100周年、「久保田」発売35周年として、リブランディングも含めてさまざまな取り組みを考えていましたが、それも叶わなくなってしまいました。そこで、オンラインで「久保田」をあらためて知ってもらう機会をつくりたいと考え、「KUBOTA SAKE ONLINE SALON」を開催することにしたんです。
「KUBOTA SAKE ONLINE SALON」では、どのようなことをされたのでしょうか。
全10回のシリーズ開催です。毎回、異なる銘柄の「久保田」にフォーカスを当て、造りの特長や温度帯による味わいの違い、カクテルなども含めた楽しみ方、合うおつまみなどを紹介しています。また、朝日酒造の社員のほかにも、料理研究家や和紙職人など、さまざまな方をゲストに迎えて配信しています。
準備した機材などを教えてください。
YouTubeでライブ配信をしたことがあるスタッフがいなかったため、まずライブ配信の方法を知るところから始めました。準備した機材は、もともとWeb会議用に購入してあったWebカメラとマイク、また「OBS Studio」という配信ソフトをダウンロードしました。配信は、出演者以外はスタッフ1名で行っています。
配信ツールに「YouTube Live」を選んだ理由はなんでしょうか。
ZoomやInstagram Live、Facebook Liveなどさまざまな配信ツールを検討しましたが、アカウント登録の必要もなく、どなたでも手軽に観ることのできるツールがYouTube Liveだと思ったからです。
ライブ配信の方法を知るまでは大変でしたが、慣れてしまえば簡単でした。事前収録動画とのスイッチングや、Zoomの画面を配信できるなど、さまざまな配信スタイルができる点も気に入っています。
開催にあたり、告知はどのように行ったのでしょうか。
公式サイトでの告知や、Facebook、Instagramの投稿、メルマガ配信などで告知を行いました。また、SAKETIMESの無料プレスリリース配信サービス「SAKETIMES PRESS」でもご紹介いただきました。
平均視聴者数はどれくらいでしょうか。
ライブ配信中は、だいたい50~70名前後です。動画はアーカイブとして保存し、配信日から1週間限定で公開していますが、500回ほどご視聴いただいています。
なぜ10回連続のシリーズ開催として試みたのでしょうか。
継続してオンラインイベントを開催したかったことに加えて、「久保田」は、「萬寿」「千寿」はよく知られていますが、それ以外の銘柄についても知ってほしいと考え、銘柄ごとに紹介できるシリーズ開催としました。
シリーズ化することで、いただいたコメントを翌週のライブ配信に反映するというアップデートもタイムリーにできています。
ライブ中に寄せられた質問を教えてください。
たとえば、第4回の配信で取り上げた「久保田 萬寿 自社酵母仕込」では、以下のような、酵母についての質問が多く寄せられました。
- オリジナルの酵母には、著作権のような権利があるのか?
- ひとつひとつの酵母に名前をつけたりするのか?
- 朝日酒造の自社酵母が新しいきょうかい酵母になる可能性はあるのか?
対⾯でのイベントと⽐較して、よかった点や改善点などを教えてください。
一番の利点は、ご自宅でも、帰宅途中でも、どこからでもアクセスしていただけることです。1週間限定ではありますが、見逃した配信も後からご覧いただけます。
普段はご出演が難しい方でも、オンラインでご出演いただけることも利点ですね。また、人数制限などもないので、多くの方にご視聴いただけます。
最後に、参加者から寄せられた感想を教えてください。
視聴者の方から寄せられるコメントが励みになっています。ぜひお気軽にご参加ください。
- 商品の裏話がおもしろかった。
- グラスにこだわりがなかったので、配信を機に探したいと思いました。
- 和紙ラベルのこだわりと奥深さに、温かみを感じました。
- 毎回知らなかったことを知ることができて、勉強になっています。
Instagram Liveを使った「オンライン酒蔵見学」(今代司酒造/新潟)
「オンライン酒蔵見学」を始めようと思ったきっかけはなんでしょうか。
一番の理由は、3月に開催予定だった「にいがた酒の陣2020」が中止になったことです。年間を通しても大きなイベントでしたので、なにかできないかなと感じていた時に、Zoomを使った「オンライン乾杯の陣」をやらないかとお誘いいただきました。
初めてのオンラインの取り組みでしたが、多い時で専門ルームに100名前後の参加者にお集まりいただき、お客さんの声をダイレクトに聞けたことや、オンラインでもできると思ったことがきっかけで、自社でも取り組もうと思いました。
なぜ飲み会ではなく酒蔵見学だったのでしょうか。
もともとオープンな蔵として親しんでもらいたいという思いがあり、年中無休で営業するほど蔵見学に力を入れていました。しかし、外出自粛期間で蔵見学ができず、なにかしなければいけないと考え、オンラインで酒蔵見学を配信することにしました。
「オンライン酒蔵見学」のくわしい配信内容を教えてください。
Instagram Liveの制限時間である1時間をフルに使い、前半は蔵元が案内する酒蔵案内、後半は蔵元や杜氏をゲストに迎えたトークと商品紹介をしました。酒蔵案内は、日によって違う場所をご紹介しています。
準備した機材を教えてください。
カメラスタンドと、通信環境が大事なのでiPhoneを買いました。また、いかにストレスなく見ていただけるか、仮アカウントでテスト配信したり、スタッフの配置を考えたりと、リハーサルは綿密に行いました。
配信ツールに「Instagram Live」を選んだ理由はなんでしょうか。
Zoomなどは、アプリのダウンロードが必要だったりするので、人によっては参加の障壁になると思いました。その中で、Instagramは日頃から活用しているSNSで、今代司酒造のアカウントに約4,000人のフォロワーもいたので採用しました。
実際に、ライブ配信はスタッフもあまり知識はありませんでしたが、普段使っていることもあり、感覚で使用することができました。はじめは2画面に慣れていないぶん少し苦労しましたが、段取りさえしっかりしていれば、特に問題ないと思います。
開催にあたり、告知はどのように行ったのでしょうか。
Instagramの投稿とストーリー、ブログ、Facebookを使いました。
回ごとの平均閲覧者数はどれくらいでしょうか。
平均40〜50名で、多くて100名くらいでした。GWは5月24日から6月6日まで毎日配信し、毎回来ていただける方もいたので、回ごとに内容を変えてマンネリ化しないように気をつけました。
対面でのイベントと比較して、よかった点や改善点などを教えてください。
蔵元がトークをするとき、社員でも聞いたことがなかった幼少期の話などになることがあるんです。今代司酒造では「今と古」、「人と人」そして「地方と都市」を"むすぶ"ことを存在価値としているのですが、これはまさに「今と古」を結んでいるなと。配信している私たちにとっても、学びの深い時間です。
改善点は、内容をいかに変えておもしろくしていくかですね。ゲストに酒屋さんや飲食店さんを呼ぶとか、地域の方々をゲストに招くなどはこれからやっていきたいと考えています。
最後に、参加者から寄せられた感想があれば教えてください。
配信では「自粛が明けたら買いに行きます」などのコメントを多くいただき、お客さんの「貢献したい」という気持ちを強く感じました。本当にありがたく思っています。
今回のライブ配信をはじめとして、お客さんと積極的に交流していきたいです。
ZoomやYouTube Liveを使った「バーチャル蔵祭り/オンライン夜会」(吉田酒造/福井)
「バーチャル蔵祭り」を開催しようと思ったきっかけはなんでしょうか。
毎年春先に、新酒ができた喜びをみなさまと分かち合うため、酒蔵を開放する「新酒蔵祭り」を実施していました。今年で17回目を迎える吉田酒造の一大イベントでした。
しかし、新型コロナウイルスの影響で次々とイベントや行事が中止となり、感染拡大防止の観点から蔵祭りの実施を断念せざるをえませんでした。
そんなとき、「バーチャル卒業式」のニュースを見かけたんです。私たちも酒蔵祭りをあきらめるのではなく、世の中を少しでも明るくできないかと思い、「バーチャル蔵祭り」を開催を決めました。
「バーチャル蔵祭り」のくわしい内容を教えてください。
酒蔵での蔵祭りをバーチャルで実現した「バーチャル蔵祭り」をお昼の部に、夜の部ではお酒を片手に楽しむ「バーチャル蔵祭り」を開催しました。
お昼の部「バーチャル蔵祭り」
- 蔵人による酒蔵見学ツアー
- 新酒試飲座談会
- 杜氏の日本酒教室
- 書道家・前田鎌利先生(福井県出身)による書道パフォーマンス
※ この日のために書を書いていただき、その書をオリジナルラベルにした限定酒を発売。みなさまのご支援・ご協力のもと、1本につき100円を新型コロナウイルスと闘う「国境なき医師団日本」に寄付しました。 - 蒔絵師・宮森氏(福井県出身)によるアートパフォーマンス
楽しくライブ配信をするために、当日の司会・進行役は、きき酒師の漫才師「にほんしゅ」さんにお願いしました。また、Zoomで各地点を中継したり、時おり事前録画しておいた映像も織り交ぜながら、YouTubeにて配信しました。
はじめは、出演者のみなさまを蔵に招き、現地からすべてライブ配信しようと考えていたのですが、外出自粛要請や三密を避けるなど日々の状況が刻々と変化していたので、Zoomでの中継や、事前に録画した動画をYouTubeで流すという方法にしました。
配信中は、感想や質問をコメントしていただくことで、お客様の反応をリアルタイムで見ることができました。
夜の部「オンライン夜会」
事前に、100名様限定でオンライン夜会セット(お酒&福井のおつまみセット)を販売し、ご購入いただいた方とはZoomを使用して開催しました。こちらもYouTubeにてライブ配信を行い、セットをご購入いただいていない方でも視聴できるようにしました。
オンライン夜会のテーマは「『白龍』と福井のおつまみを楽しむ」。地元でおつまみを製造している会社の社長様をゲストにお招きして、日本酒とおつまみの楽しみ方などについて配信を行いました。視聴者からの質問はコメントで受け付け、配信の最後には商品が当たる抽選会も行いました。
「オンライン夜会セット」の発売を決めた理由はなんでしょうか。
夜会では、同じお酒とおつまみを楽しみながら、ざっくばらんにお話ができたらと思い、発売を決めました。また、福井のおつまみを知っていただきたい、遊び心のあるお酒を限定で出してみたいという思いもありました。
チャット欄では、お客様同士がおすすめの飲み方や食べ方をやり取りされていて、これも同じものを共有したからこその醍醐味だと感じましたね。
準備した機材を教えてください。
【当日の役割分担】
三密を避けるため、配信はほぼ家族のみで行いました。
- 出演者:蔵元/杜氏
- 司会進行:「にほんしゅ」さん(オンライン)
- 撮影係
- 配信係
【機材類】
- 配信用端末
- 撮影用端末
- Zoom管理用端末
- 出演者確認用端末
- チャット確認用端末
- 照明
- WiFi
- 配信用ソフト
※ 知り合いのYouTuberに使用方法を教えていただきました。 - 動画編集ソフト
また、当日のタイムスケジュール(台本)を用意し、何度もリハーサルを行いました。
配信ツールに「YouTube Live」を選んだ理由はなんでしょうか。
たくさんの方に楽しんでいただくことを考え、YouTube Liveを選びました。さまざまな動画配信サービスがありますが、YouTubeが一番メジャーで、海外の方も含め、お客様が使いやすいと思いました。
リアルタイムでお客様とやり取りができること、配信後も動画を残しておけること、配信後に分析ができることなどもYouTubeを選択した理由です。
初めての試みということもあり、配信は限定公開機能を利用してリハーサルを繰り返しました。だんだんと勝手がわかってくるので、準備をしっかりしておけば、当日はスムーズに進行できると思います。
開催にあたり、告知はどのように行ったのでしょうか。
- 各SNSでの告知(Facebook/Instagram/公式LINE)
- ブログ
- メールマガジン
- クラウドファンディングでご支援いただいた方にお知らせ
- ネットでご注文いただいた方にチラシを同封
- 店舗での告知
おおよその参加者数を教えてください。
ありがたいことに、YouTube Liveの視聴者数は常時200名前後と、リアルタイムでたくさんの方にご視聴いただけました。また、アーカイブとして残している動画は、現在4,000回ほど再生いただいています。
対⾯でのイベントと⽐較して、よかった点や改善点などを教えてください。
リアルタイムでコメントをいただけたことが、とても励みになりました。北海道やオーストラリアから見てくださった方もいて、遠く離れた方とつながることができるのはオンラインならではの魅力だと感じました。
コメントしてくださる方は、これまでのイベントなどでお会いしたことのある方が多かったです。コメントからは、そのお客様らしさが感じられて、読んでいて元気をいただけました。そのため、これまで開催してきた対面でのイベントがあったからこそ、今回の盛り上がりがあったのだと感じます。
最後に、参加者から寄せられた感想があれば教えてください。
以下のような、うれしいコメントをいただきました。
- 杜氏や蔵元の話が聞けて、酒蔵の方たちの気持ちが伝わってきた。
- 多くのイベントの中止が決まるなか、オンラインでも吉田酒造の皆さんと会えてよかった。
- 普段は見られない蔵の中や田んぼ、酒造りの様子を見ることができてうれしかった。
- 書道家や蒔絵師の方のお話が新鮮で、新しい発見につながった。
オンラインイベントの需要は続く
酒蔵は自らの言葉で日本酒に懸ける想いを直接伝えることができ、参加者は遠く離れた場所からでも気軽にアクセスできる。双方にとってメリットがあるオンラインイベントの需要は、今後も続くことでしょう。
オンラインイベントはスマートフォン1台から始めることが可能です。ぜひ、この機会に開催を考えてみてはいかがでしょうか。
(文/SAKETIMES編集部)