イタリアで生活していると、日本との水の違いを意識することがよくあります。

味噌汁や日本茶が思うような味にならなかったり、水を沸かすと白いものが浮いてきたり、日本と同じケアでは肌や髪がすぐに荒れてきたりするからです。これらは、イタリアの水が日本と比べてミネラル分がとても多い硬水であることに起因しています。

水の違いについて、普段意識する人は多くないと思いますが、
日本酒造りに関して水はとても重要で、水のタイプによって味わいは変わります。

おいしい日本酒にはおいしい水が必要

日本酒は米・米麹・水でできており、その成分の約80%は水です。
というわけで、おいしい日本酒にはおいしい水がとても重要です。

日本酒になる水(仕込み水)の他に、洗米、瓶や機械の洗浄など、日本酒造りに関する水を合わせると、使用する米の総重量の50倍も水が必要になります。
そうなると簡単に輸送もできません。だから、日本酒が造られる場所は水がおいしいところが多いというわけです。

仕込み水の硬度で味の違いを愉しむ

「女酒」「男酒」という表現を聞いたことはありますか?
水には、水に含まれるミネラル分で示される硬度があり、カルシウムとマグネシウムから算出されます(日本ではアメリカ式かドイツ式で計算されますが、イタリアで採用されているフランス式は計算基準が異なります)。

ミネラル分は発酵を助ける栄養成分となるため、ミネラル分の割合が多い水で醸された日本酒は、酸が強めできりっとした濃厚な辛口に仕上がる傾向があります。
このように力強いイメージに仕上がる硬水で仕込んだ日本酒が、一般的には「男酒」と呼ばれます。一方、軟水で仕込むと軽やかで甘い味わいの柔らかいイメージになるので「女酒」と呼ばれます。イタリア語では軟水のことを”ドルチェ=甘い”と表現します。初めは違和感がありましたが、女性の可愛らしさもドルチェと言うこともあり、今では納得しています。

ちなみに、水の硬度を数字で表すと、京都伏見は4、灘の宮水は6.5、静岡の水は1となります。
ここイタリアの水道水、比較的軟水と感じるフィレンツェの水でも10、ローマは20です。ちなみにミネラルウォーターのコントレックスは81.4だったりします。
ヨーロッパでは、水を飲んでいるだけで牛乳の2倍以上のカルシウムを摂取できてしまうこともあります。こんな硬水でつくる日本酒があるとすれば、どんな味わいがするのでしょうか?

このように水の特徴によっても味わいに影響があるので、「純米大吟醸」などの特定名称や「山田錦」など酒造好適米の種類の他に、どこでつくられたお酒かで自身の好みを見てみるのもひとつの視点かと思います。

水から日本酒の個性を語る

ワインも日本酒と同じ醸造酒ではありますが、ワインの水分はブドウの果汁です。

ワインの本場イタリアに居ることもあり、日本酒を知らない外国人に「日本酒は米のワインだ」と言うことがありましたが、いまいち伝わらないんですね。
それもそのはず、ブドウそのものが発酵してできるワインと、微生物の力を使って発酵させる日本酒は発酵方法が異なるため、化学的な発想に長けている人たちからは総ツッコミを受けるわけです。そして小難しい説明をしているうちに、単純においしい日本酒を愉しんでもらおうという狙いから外れてしまいます

こちらで久々に日本のウイスキーを口にしたとき、お酒を味わうよりもまず、日本の水を思い出しました。
イタリアでは、日本のすぅっと透き通るような水の味わいを生まれてこの方知らない人が多いです。
そこで、日本の水の特徴を説明することで、日本酒の特徴も見えてくると感じました。

他にもたくさん重要な要素はありますが、掴みは水の方がシンプルで分かりやすいです。
外国人と日本酒について話す機会がある方には、水についての口述も視野に入れていただくとおもしろいと思う今日この頃です。

(永野 薫)

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