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現役蔵人が語る。タンク1杯分のお酒は一升瓶何本分?

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「このタンク1杯で、一升瓶何本分くらいの酒ができるんですか?」

醪(もろみ)の入ったタンクを見たお客様から、仕事で蔵の案内をする際にこういった質問を受けることがあります。今回は「タンク1杯で仕込まれるお酒がどのくらいの量なのか」を考えてみましょう。

お酒の設計図というのは仕込配合というかたちで杜氏や製造部長、あるいは社長が決めます。これは酒質を決めるアウトラインになるので、米の価格や酒税法規、販売予定数量、タンクの容量等の設備などを考慮して決めています。

ここでは1500キロ仕込の純米酒を例にして考えてみましょう。

◯◯キロ仕込」というのは、使用する白米の重量を表します。中規模の蔵だとこのくらいが一般的なスケールです。試験醸造であれば、100キロや250キロで仕込みます。大規模な蔵だと10トンや30トンといった仕込もあるようです。

まずは仕込の工程をおさらい!

白米1500キロといっても、精白率によって削る前の玄米の量は異なります。60%精白だと必要な玄米は2500キロ、50%精白だと3000キロですね。これを酒母用、添用、仲用、留用の4つに分け、さらにそれぞれを麹用と掛米用に分けます。

酒母というのは米と米麹と水に酵母を入れた清酒のもとです。ですから生酛という字をあてます。醪(もろみ)よりも小さいスケールで酵母を培養し、酵母が順調に増殖できるよう力をつける工程です。

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ちなみに、酛タンクは400リットル前後のサイズです。

日本酒は一般的に三段仕込みという方法でつくられます。お米と麹を一度に仕込むのではなく、添・仲・留と3回に分けて段階的に発酵させます。これは拡大培養の理論で、安全かつ酵母のみを増殖させたい場合、一度にではなく少しずつ大きなスケールにならしてやると上手く行ったという過去の経験からきているようです。

手順として、まず酒母を添専用のタンクに移動し、酒母で使った2~3倍量の米と米麹と水を足します。ここで踊りという何も足さない日を1日はさみ発酵を促進させます。次の日に醪タンクに移動し、米と麹と水を足します。これを仲仕込といいます。また次の日に最後の米と麹と水を足す留仕込を行い、三段仕込みが完成します。

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タンク1杯で3240リットル! 一升瓶で1800 本分!

1500キロの白米を振り分けて、醪タンクに仕込みました。タンクの容量は、5000~10000リットルが主流です。もっと大きなタンクもありますが、1500キロ仕込ならこのくらいで十分です。

水分を持った蒸米に2000~2500リットルの水を入れるので、タンクの中には醪が3500~4000リットル程度入っていることになります。発酵の途中で追水をしたりブドウ糖が炭酸ガスとなったりで多少の増減がありますが、今回は搾る前の醪が3500リットルあるということにしましょう。

つまり、どぶろくが3500リットルあるという状態です。この量を一升瓶換算してみると1944本分。一升瓶1944本を6本入の段ボール箱(340mm×230mm×435mm)にしまうと、324箱分になります。

12フィートタイプの鉄道コンテナにこの段ボール箱を目一杯詰めると、450箱(=10箱×9箱×5箱)が入りますから、鉄道コンテナのおよそ7割分ぐらいの体積に相当します。ちょっとした酒屋さんですね。家にこれだけ置いておけば何年ももちそうです。

清酒を名乗るためには「濾す」という工程が必要です。どぶろくも美味しいのですけれど「清酒でどのくらいの量になるか」というのが今回のテーマですから、搾りましょう。

酒蔵では搾ることを上槽(じょうそう)といいます。昔の舟のような形をした槽(ふね)という搾る機械に由来しています。槽があるところは槽場(ふなば)と呼ばれ、その親方は船長と呼ばれています。

上槽を終えると、粕が分離され、澄んだお酒ができます。搾り方や米の溶け具合によりますが、今回は清酒3000リットルと粕500キロが取れました。おおまかではありますが、これくらいが取得量として平均的でしょう。醪3500リットルのうち3000リットルが清酒になりました。

この原酒はそのまま詰められることもあるのですが、たいていのお酒はこの後に滓(おり)を引き、濾過をし、そのままではアルコール度数が高いので加水して、瓶に詰めて火入をして出荷を待つことになります。原酒で詰めたとして一升瓶1666本分加水した通常製品では1800本分(3240リットル)くらいではないでしょうか。今回は1800本詰めたとしましょう。

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365日のうち休肝日を週1日とると、312日がお酒を飲む日。毎晩二合(360ミリリットル)飲むとすると、5日で一升瓶を1本、年間約63本を消費することになります。それでも1800本にはまだまだ遠い。年63本ペースでは28年掛かってようやく1764本ですから、これでは古酒になってしまいますね。

計算してみましたが、これだけの量を飲みつくせるだけの強靭な肝臓を持つ方は、蔵見学に行った際にタンク1本融通してもらえるか聞いてみるといいでしょうね。

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リンゴの魔術師

札幌生まれ、弘前大学人文学部に入学するも農学生命科学部を卒業。今は秋田で杜氏を目指し修行中。夏は技師、冬は麹室助手をやっています。造りを通して見た日本酒というものを書いてゆきたいと思います。お酒って、飲んでも考えてもおもしろいですよね。趣味はお絵かき、リンゴ彫刻、鉄道、雑魚釣り、花いじり、猫いじりなどなど。