SDGs(Sustainable Development Goals)」とは、国連が定めた17の持続可能な開発目標のこと。経済合理性や環境負荷への対策など、より良い世界を目指すために必要な普遍的なテーマで、日本でもさまざまな企業や団体でサステナブルな取り組みが積極的に推進されています。

こと日本酒に目を向ければ、数百年の歴史を持つ酒蔵も数多く、地域に根ざし、人のたゆまぬ営みのなかで育まれてきた産業のひとつ。サステナビリティという概念が広がる以前から、その実践を行ってきたともいえるのではないでしょうか。

この連載「日本酒とサステナビリティ」では、日本酒産業における「サステナビリティ(持続可能性)とは何か?」を考えるために、業界内で進んでいるさまざまな活動を紹介していきます。

福島県の大和川酒造店は、自社田での米作りや地元の豊富な地下水の利用だけでなく、エネルギーの自給も視野に入れたサステナブルな酒造りを目指す酒蔵です。「米」や「水」へのこだわりは多くの酒蔵が考えるところですが、「エネルギー」までも考える酒蔵はまだほとんどないでしょう。

大和川酒造店では、実際にどのような取り組みが行われているのか。専務の佐藤雅一さんと杜氏の佐藤哲野さんに話をうかがいました。

喜多方産米100%の酒造り

大和川酒造店「弥右衛門(やうえもん)」

大和川酒造店の代表銘柄「弥右衛門(やうえもん)」

創業1790年の大和川酒造店は、福島県喜多方市で9代にわたって酒造りに従事してきた老舗の酒蔵。代表銘柄の「弥右衛門(やうえもん)」は気軽な食中酒から鑑評会出品酒まで幅広いラインナップで、地元はもとより海外でも人気を博しています。

大和川酒造店の酒造りのなかで、重要な要素を担っているのが農業です。1980年代から特定名称酒への切り替えを進めるなかで、県内産の酒造好適米を積極的に購入したり、契約農家に栽培を依頼したりと、原料米へのこだわりを強めていきました。

大和川酒造店の自社田

大和川酒造店の自社田

その後、自社田での米作りを始めると、2007年に農業法人「大和川ファーム」を設立し、本格的に農業に参入します。

「農業法人の初代の代表にはベテランの兼業農家さんに入ってもらい、少しずつノウハウを蓄積していきました。蔵人にも農家の出身者が多かったので、まったくゼロからのスタートではなかったからこそ続けてこれた面もあると思います」と雅一さんは話します。

大和川酒造店 専務 佐藤雅一さん

大和川酒造店 専務 佐藤雅一さん

約7ヘクタールほどからスタートした米作りも、今では約47ヘクタールを数えるまでに。ファームの専任スタッフに加え、夏場は蔵人も総出で農作業にあたります。その甲斐あってか、来期の仕込みからは、酒造りに使用する全量を自社田と契約栽培米のみでまかなえるようになりました。もちろん、そのすべてが蔵のある喜多方産です。

「自社田のほとんどが、高齢化で離農する農家さんから引き継いだ水田です。昔は日当たりが悪かったり、山間部だったりと条件の良くない農地がほとんどだったようですが、実績もできて今では条件の良い水田も貸してもらえるようになりました」と、哲野さん。

原料米を同じ地域で作ることには災害等で打撃を受ける心配もありますが、東西に30キロと広大な喜多方市内のあちこちに水田が点在しているため、そのリスクは少ないようです。

農薬を使う回数をできる限り減らし、化学肥料はできるだけ使わないという栽培方法もこだわりのひとつ。そのため、夏の草刈りは大変な労力を伴いますが、環境に負荷をかけることなく、良質な米が収穫できると言います。

大和川酒造店 杜氏 佐藤哲野さん

大和川酒造店 杜氏 佐藤哲野さん

「米が育った環境や、どれくらい乾燥させてどんな精米をしたかを全部知っているので、原料処理の対応を早めにキャッチできるようになりました」と、哲野さんは酒蔵が自ら米作りを行うことのメリットを話してくれました。

酒造りの過程で出る米ぬかや酒粕は、専門業者のもとで堆肥に加工し、稲作のための肥料として使っています。

「トレーサビリティの観点からいえば、水も同様です。うちでは飯豊山から流れてくる伏流水を仕込みに使っていますが、実は稲作に使っている水と同じ水系のものなんです」と、雅一さん。

米と水。酒造りに必要な2つの要素を知り尽くした生産体制は、酒質向上にも一役買っています。

エネルギー自給化の現状と課題

大和川酒造店の酒蔵外観

大和川酒造店がエネルギーの自給化を進めるようになったのは、2013年に現会長の佐藤彌右衛門さんが会津電力株式会社を設立したことがきっかけです。

2011年の東日本大震災で、かねてより親交のあった福島県飯館村が全村避難を余儀なくされました。「福島県に原発があることはわかってはいたけれども、あんなに危険なものだったとは思わなかった」と、彌右衛門さんはこれまで知らずに生きてきたことを反省したそうです。現在は、大規模な発電所に依存しない、地域の資源を活かしたエネルギーの地産地消を実現するために事業に取り組んでいます。

今でこそ、世界中で再生可能エネルギーを導入する動きは高まっていますが、原発事故の以降、日本国内でも大手電力会社の電力に頼らない暮らしへのシフトが加速しました。そのころから、すでに米の栽培から一貫した酒造りを進めていた大和川酒造店にとって、「エネルギーも自分たちで作ったものを使おう」という意識の変化は自然な流れだったようです。

「考えてみれば、昔は近くの山から伐った木を燃料にしたりして、エネルギーを自給するのは当たり前だったんですよね。いろいろな発電の方法はありますが、喜多方の豊かな資源を有効活用してエネルギーを作り、それで酒造りができたら、より地元に根ざした企業になっていけるのでは」と、雅一さんは酒蔵がエネルギーを自給する意味を話します。

大和川酒造店の酒蔵内部

会津電力の発電方法は、主に太陽光発電と小水力発電です。現在、福島県内に89ヵ所の発電施設を持ち、最大出力は合計で約6メガワット、一般家庭の約1,800世帯分をまかなえる電力を生んでいます(2021年3月時点)。

ただし、課題もあります。大和川酒造店では会津電力から電気を購入していますが、現状、小規模の発電所が作った電気は大手の電力会社を経由して購入先に送られる仕組みしかなく、厳密に会津電力で発電した電気かどうかまではわかりません。また、電気では蒸米のためのボイラーを動かすほどの瞬間的な熱量は出せないため、完全なエネルギー自給には至っていないのが現状です。

「木材を使うチップボイラーや蓄電の新しい技術も生まれているので、そういうものも試しながら進めていきたいですね」と、哲野さん。

まだまだ懸念材料はあるものの、できることから着実に進めている大和川酒造店。エネルギーの完全自給を達成する未来は、そう遠くないかもしれません。

地域の恵みを活かし、地域とともに歩む

大和川酒蔵北方風土館

大和川酒造店 北方風土館

地域の農業を担い、太陽光や水などから生まれたエネルギーで酒造りを進める大和川酒造店が、もうひとつの柱としているのが文化振興です。長年にわたり、地域の中心的企業としてまちづくりにも尽力してきました。

たとえば、「北方風土館」として開放している移転前の古い蔵は観光の人気スポットにもなっている一方、イベントホールとして市民に貸し出すなどの事業も行っています。

「喜多方には昔から商人たちが芸術家の活動を支える土壌が根付いていて、その役割がかたちを変えて今に残っているのでは」と雅一さん。

地元の米や水でお酒を造り、そこで得た利益で文化を守り伝え、ときに雇用も生み出す。地域の資源を文化や人材というかたちで還元していく姿も、循環型の取り組みのひとつと言えるでしょう。

「将来的に、ひとりあたりの日本酒を飲む量は減っていくと思います。そうなった時に酒蔵として何ができるかを考えていくことが重要。それは農業かもしれないし、醸造技術を使って新しい商品を開発することかもしれません」

日本酒が置かれている現状に対して、過度な期待を持たずに、それでも未来を見据えた視点で大和川酒造店が進む道を雅一さんは話してくれました。

次の世代にバトンを渡すために

大和川酒造店の日本酒

大和川酒造店が目標とする企業をたずねると、アウトドアウェアの世界的メーカーとして知られる「Patagonia(パタゴニア)」の名前が挙がりました。「環境への配慮とビジネスを両立する姿勢に共感する」というのがその理由です。

また、酒蔵が取り組める施策として、「営業車を電気自動車にする」「冷蔵コストのかからない、貯蔵段階で変化しにくい酒質の酒造り」などのアイディアも挙げてくれました。

「おいしいお酒があふれている今、私たちのしている持続可能な取り組みが手に取ってもらうきっかけになればうれしい」と力を込めます。

大和川酒造店 専務の佐藤雅一さん(写真右)と杜氏の佐藤哲野さん

日本酒を取り巻く状況は、時代によって刻々と変わってきました。酒蔵はそのたびにさまざまな選択をしながら、歴史を紡いできました。

大和川酒造店が現在進行形で進める取り組みも、230年間に渡って繋がれてきたバトンのひとつのかたち。それは決して無理したものではなく、地域に根ざした酒造りを進める中で、ごく自然に生まれ続けてきたことにほかなりません。

「日本酒の未来を考えるためには、まず自分たちがサステナブルでなければならない」と語る雅一さんと哲野さん。

今このときの選択が、何十年、何百年先にもきっとより良い未来をもたらしてくれると信じ、挑戦を続けています。

(取材・文:渡部あきこ/編集:SAKETIMES)

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