1990年の誕生以来、フルーティーでかろやかな飲み口で多くの若者を魅了してきた「上善如水」。発売当初は業界でも賛否が飛び交う"異端児"であった同ブランドも、今では白瀧酒造の看板商品として広く認知されるようになりました。
「12ヶ月の上善如水」やスキンケア事業への展開など、数々の革新的な取り組みを打ち出し続けてきた同社は、上善如水の発売から25周年を経た今、さらなる飛躍を遂げようとしています。
SAKETIMES特別連載の12回を数える今回は、白瀧酒造7代目当主・高橋晋太郎社長にインタビューをさせていただきました。次なる一手としてどんな構想を練っているのか、今後どのような方向に展開していくのか、お話を伺っていきます。
新たなコーポレートメッセージに込めた未来への想い
看板商品「上善如水」の誕生から25周年を迎えた翌年の2017年、白瀧酒造ではコーポレートロゴとメッセージを一新しました。なぜ、このタイミングで変更することにしたのでしょうか。
高橋社長に理由を聞いたところ、その背景には、単に「節目だから」ではない、市場の変化がありました。
「上善如水の発売から25年経った節目ということももちろんあるのですが、お客さまの年齢層が上がってきたことが一番の理由ですね」
元々、日本酒にあまり馴染みのない若者に向けた"入門酒"としてブレイクした上善如水。長く愛されてきたブランドとともに、当時の若者たちも年月を重ねてきました。
「『白瀧酒造と言えば上善如水』というほどの看板商品にまで成長したのは、長い間飲み続けてくださっているお客様のおかげですし、引き続きご愛飲いただきたいと思っています。ただ、かつてのように若者をはじめとした日本酒初心者の方にとっての"入門酒"としての役割を果たすことは、難しくなっているのかもしれません。弊社は、若者の感覚を取り入れてここまで成長してきた会社なので、今のお客様を大事にしつつも、このタイミングで『いま一度、会社として若返りたい』という思いで、ロゴやメッセージの変更に踏み切りました」
原点に返る試みとしてロゴやメッセージを新たにした白瀧酒造。そのひとつひとつには、白瀧酒造の"未来への決意"が現れています。
まずは、ロゴマーク。新しいロゴには「次のステージに向かおう」という前向きなメッセージが込められています。
「元々のロゴは、川端康成の『雪国』に出てくる三国トンネルをかたどったマークで、"湯沢ならでは"のイメージでした。ただ時代が変わっていく中で、もうそろそろ次のステップに向かってもいいんじゃないかと思い始めて。新しいロゴは雪の結晶なんですが、『いろいろな方向に広がっていきましょう』という意味を込めています」
未来に向かうポジティブな姿勢は、メッセージにも反映されています。
「メッセージも『ミズのように生きるのさ』を『ミズとともにそのさきへ』に変えました。今まで作り上げてきたものに敬意を払いつつも"その先"に向かおうと、若い社員を中心に話し合いを重ねて決めました」
上善如水25周年の節目に会社の"根幹"を見つめ直し、新たな装いとなった白瀧酒造。満を持して、第2章の幕開けとなりました。
若手が引っ張る会社へ──次世代へのバトンタッチ
白瀧酒造の変革は、コーポレートロゴやメッセージなどの"外"に向けたものばかりではありませせん。会社の"中"にも新しい風を吹かせました。きっかけは9年ほど前からはじめた新卒採用。毎年若い人材を登用してきたことで、ここ数年、組織全体としても大きく変化していたようです。
「弊社は社員の平均年齢が46歳なのですが、30代、40代は少なく、50代以降と20代の層が厚くなっています。ベテランがしっかりしているからこそ、若い社員も安心してチャレンジができていて、今はベテランと若手がいいかたちで融合しているのを感じますね。ロゴマークなどコーポレートまわりの変更を話し合ったメンバーもそうでしたが、これからは若手社員に会社をどんどん引っ張っていってほしいと考えています」
若手社員が引っ張る会社へ。
その考えを象徴するのが、高橋社長が決断した大きな「世代交代」です。2017年7月に酒造りの最高責任者である杜氏を交代。56歳の山口杜氏からバトンを受け取ったのは、入社10年になる27歳の松本杜氏でした。
若い杜氏の誕生に、社内でも驚きの声があがったと言います。しかし、その思い切った世代交代にも、「会社の新たなスタートのために、会社全体として若返りを図りたい」という高橋社長の想いが込められていました。
「彼を杜氏に抜擢した理由はいろいろとあるのですが、商品展開を含めた今後の方向性を考えた結果、会社をあげて若手社員を活躍させる意識を高めたかったというのがもっとも大きな理由ですね。中でも、上の世代からも下の世代からも人望が厚い『リーダーシップ』を兼ね備えているのが松本だったので、杜氏に抜擢しました。もちろん、前杜氏の山口さんには引き続きサポートをお願いしています。松本には、山口さんが培ってきた酒造りやチームづくりのノウハウを引き継いで、今後の製造部門を引っ張っていってほしいですね」
"入門酒"を提供するのが、白瀧酒造の存在意義
市場の潮流を汲み、いま一度会社の立ち位置を見つめ直して新たなスタートをきった白瀧酒造。商品展開に関してはどのような構想を練っているのでしょうか。
高橋社長は「上善如水とは別の、新たなブランドを立ち上げたい」と話します。
「上善如水は、白瀧酒造の"顔"とも言える商品なので、最初は上善から派生した新ブランドをつくるつもりでした。ただ、ありがたいことに上善が広く浸透していることで、単純な派生ブランドでは、既存のイメージからの脱却を図れないだろうと考えたんです」
長く愛され、厚い支持を得てきたブランドならではの悩み。今までのお客様を大事にしつつ若者をターゲットにすることを考えると「新たなブランドの立ち上げ」という選択肢が浮かぶのは自然な流れでした。
とはいえ、上善如水の誕生から25年。これまで"上善如水"の銘を関した関連商品はいくつも発表してきましたが、会社を背負うほどの大きな柱となるブランドを一から立ち上げるとなると、一筋縄ではいかないようです。
「どれほど新しいアイデアを考えても、結局『上善』になってしまうんですよね……。まずは、私たちがターゲットと考えている20代、30代といった若年層の生活スタイルやニーズの理解を深めるところから地道に取り組んでいます」
会議で新ブランドの商品名を検討した際も、参加者全員がしばらく押し黙ってしまうなど、「社員自身も上善のイメージを離れた商品の想像が難しいです」と話す高橋社長。
それほど苦戦をしてでも新しいブランドを立ち上げようとする背景には、"入門酒"を提供してきた酒蔵としてのプライドがありました。
「一からのブランド立ち上げは会社としても久しぶりなので、本当に大変です。でも、白瀧酒造はいわば日本酒初心者に向けた商品で成長してきた会社です。だから、20代、30代に向けた商品を展開していかなければ、わたしたちの存在意義がないと思っています」
「上善如水」の25年を糧に、さらなる飛躍を目指していく
コーポレートロゴをはじめとした会社の"装い"を変え、若い杜氏への世代交代を実行し、まだまだ構想段階ながら次なる一手である「ブランドの立ち上げ」も検討している白瀧酒造は、ますますその勢いを加速させています。
「上善如水」に25年間で培ってきたノウハウやお客様からの信頼を担保に、さらなる飛躍に向けて助走を始めた白瀧酒造から今後も目が離せません。
(取材・文/佐々木ののか)
sponsored by 白瀧酒造株式会社