ファンの多い酒米「雄町」の生産量ナンバーワンを誇る岡山県。いまでこそ大都市部でもよく飲まれるようになった岡山県の日本酒ですが、地元ならではの楽しみは、やっぱり実際に足を運んで初めてわかるもの。
今回は、岡山県倉敷市に店を構え、岡山地酒の中でも特に備中(岡山県西側)の地酒提供を得意とし、地元の人たちに愛される日本酒バル「粋酔日(すいようび)」をご紹介します。
倉敷の観光名所「美観地区」から徒歩2分の日本酒バル
倉敷市は県庁所在地の岡山市の隣に位置し、在来線で岡山駅から15分ほど。岡山市観光のついでに少し立ち寄るにもちょうど良いロケーションです。倉敷市の駅近辺中心地は観光名所を中心に発展し、昔から変わっていないような素朴さや懐かしさある街並みが魅力的です。
水路に沿って風情あふれる歴史的な建造物が並ぶ、倉敷の最も有名な観光名所「美観地区」からは徒歩で2分ほど。JR倉敷駅からは歩いて約15分ほどの場所に、ひっそりと佇むのが「粋酔日」です。
オープンは、土日も含め17時から。観光を一通り終えてから立ち寄るのもおすすめです。
外観、内装ともにカフェ風の造り。席間にも余裕があり、ゆったりとしています。路面に面する壁と扉はガラス張りであるため、店内の見通しがよく、入りやすい雰囲気です。
家庭的な料理に合わせるのは、選りすぐりの備中の地酒
お酒は岡山県総社市にある株式会社ヨイキゲンの代表銘柄「酔機嫌(よいきげん)」を筆頭に、倉敷市・浅口市など備中の蔵元の日本酒が揃っています。また、酒蔵が作る果物を用いたリキュールもこのお店の人気メニューです。
お料理にも力を入れており、週ごとに変わるお通しや、日替わりメニューが用意されています。家庭的で繊細な、いつ来ても飽きないお料理が楽しめるのがこのお店の良いところ。瀬戸内の食材を使った料理が備中のお酒がよく合います。
この日は、自家製なめたけを使った「アボカドなめたけ」と自家製干物の鯖をアテに、備中の日本酒を楽しみました。
まずは倉敷市の南、児島に蔵を構える三冠酒造の「三冠 雄町 純吟生原酒」。
熟成由来のメープル香とほのかに残る乳酸香で、甘い蜜を想像する香りです。味わいは芯の通った酸と苦味がコーヒーを感じさせてくれました。味、香りともにパンチが効いていますが、酸のバランスがよくスッキリと感じられるので、食中酒としても楽しめるお酒でした。
お次は、山合いの地に蔵を構える白菊酒造の「大典白菊 純米吟醸」をいただきます。
吟醸香に少し熟成感が入った、甘苦さと酸の強さを連想させるような香りがあり、味わいは梅を思わせる酸とジワリと強い苦味が特徴的。その後も酸と苦味が残る、しっとりとした余韻が感じられるお酒でした。
甘いコクを併せ持つアボカドなめたけが、うまくお酒のほろ苦さと調和する相性の良いペアリングです。
最後に、倉敷市郊外に蔵を構える熊屋酒造の「伊七 特別純米 無濾過生原酒」。
こちらは低温熟成のようで、香りは乳酸香と吟醸香のニュアンスはありつつも、かなり落ち着いていました。味わいはほんのりとした甘味と苦味がバランスよく入っており、後口には酸が効くのでスッキリと感じられるような、きれいな印象のお酒でした。
どのお酒も、岡山県の地酒のレベルの高さを感じさせるものばかり。ついつい他の銘柄にも手が伸びてしまいます。
「岡山を地酒で元気に」が合言葉の希少銘柄"ORIGIN"
「粋酔日」の店内外に目立つのは、「OKAZARU」と書かれたグッズの数々。
「OKAZARU」とは、岡山の蔵元5蔵(「十八盛」十八盛酒造、「伊七」熊屋酒造、「燦然」菊池酒造、「酔機嫌」ヨイキゲン株式会社、「粹府」三宅酒造)が、技術向上や地酒PRのために結成した酒蔵ユニット「岡山ZARU」の略称です。
「岡山ZARU」は、結成の2年後に「ORIGIN」という日本酒のブランドを立ち上げました。これまでに5社の共同醸造で「ORIGIN」を製造したり、共通のテーマをもとに5蔵がそれぞれの「ORIGIN」を醸すなど、さまざまな方法でブランドを育ています。
彼らが醸造している「ORIGIN」は、岡山で開催された特定のイベントへ参加した人や、それぞれの蔵から直接買い付けた人たちだけが手に入れることができるもの。まさに、知る人ぞ知るお酒です。
「粋酔日」は、その希少な銘柄「ORIGIN」を一升瓶で提供している唯一の飲食店。「ORIGIN」を存分に楽しめる貴重な機会を提供しているお店です。
取材時には残念ながら完売済みでしたが、次期の「ORIGIN」の入荷は、3月3日に三宅酒造で開催される蔵開き「粋府新酒まつり」でお披露目された後になるとのこと。
「災害に屈せず復興した倉敷の魅力をアピールしていきたい」
粋酔日の店主である中原さんは「岡山ZARU」の取り組みを結成初期から協力し、見守ってきました。ここ数年は、行政の取り組みともうまくニーズが合い、彼らの活動による岡山県の地酒の活性化が少しづつ形になり始めてきていることが実感できてきたと、胸をなでおろしていたのだそうです。
そんな矢先に、2018年7月に起きた西日本豪雨災害により、倉敷市の一部である真備町が壊滅的な被害を受け、倉敷市の市名が日本全国に知れ渡ることになりました。
「災害に屈せず復興した倉敷や、岡山の魅力をアピールするためにも、『岡山ZARU』の日本酒を通して岡山を元気にする活動はより一層求められるので、2019年も引き続き全面的サポートの体制で臨んでいきたい」と、今後の取り組みについて、中原さんは話してくれました。
観光名所から徒歩2分の好立地、酒造ユニット「岡山ZARU」の希少銘柄、そして地物料理と備中の地酒と、「粋酔日」は日本酒ファンとってたまらないお店でした。岡山への旅行や出張の際には、ぜひ足を運んでみてください。
◎店舗概要
- 備中の地酒バル 「粋酔日(すいようび)」
- 〒710-0046 岡山県倉敷市中央1丁目13−3
- TEL:086-434-3142
- 営業日時:17:00~23:00(L.O.22:30) 日曜営業
- 定休日:月曜日
(文/山本清子)