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お酒を温め、飲み干し、ベロベロに酔っ払う──欧米の宣教師たちが驚いた、日本の飲酒文化

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イエズス会(耶蘇会)の宣教師、ルイス・フロイスが書いた『日欧文化比較』は、第1章の「男性の風貌と衣服に関する事」から始まる全14章で構成されており、第6章には「日本人の食事と飲酒の仕方」が60項目にもわたって書かれています。

外国の影響をあまり受けていなかった当時の日本には、飲酒に関する独特な作法がありました。ワインを飲む彼らの目には、日本人の飲酒が特異に映ったのでしょう。驚きの連続だったことが伝わってきます。

欧米人もびっくり!日本人のお酒の飲み方

酒を温めることに驚いた!

「われわれの間ではブドウ酒を冷やす。日本では、『酒』を飲むとき、ほとんど一年中いつもそれを暖める。」

これは単に、そういう風習だからという問題ではないでしょう。ワインと日本酒の中に含まれる酸の種類が異なることも、この文化の違いを生んだ要因と考えられます。ワインには、冷やすことで美味しくなる、酒石酸やリンゴ酸などが多く含まれているのに対し、日本酒には、温めると旨味が増す、乳酸やコハク酸が多く含まれています。

したがって日本酒を燗するのは、単に体を温めることだけではなく、お酒を美味しく飲むための知恵ともいえる、重要な意味があったようですね。

ちなみに、平安時代の朝廷行事では、重陽の節句(9月9日)から桃の節句(3月3日)までは温めたお酒を、逆に夏の季節は冷たい酒を飲んだと言われています。

酒を無理に飲ますことに驚いた!

「われわれの間では誰も自分の欲する以上に酒を飲まず、人からしつこく勧められることも無い。日本では非常にしつこくすすめ合うので、あるものは嘔吐し、また他のものは酔っ払う。」

欧米人たちは自分の意志と責任でお酒を飲むのに対し、日本人は違っていたのだそうです。日本人の飲酒には、以下のような意味がありました。

1. 集団での作業が求められる水田稲作が始まった縄文時代の末期以降、農民たちは強いリーダーの下で、稲作の始まる春先や収穫を終えた秋など、節目ごとに全員でお酒を飲むことでその結束を強めました。年に数度しかないこの集会は、用意したお酒をすべて飲み干すまで続けられ、みながぐでんぐでんに酔っ払うことが求められたのだとか。

2. 近年の研究で、遺伝的にお酒に強い人、弱い人、そしてまったく飲めない人が混在していることがわかりました。しかし、そのことをまったく知らなかった時代は、お酒が飲めないのは軟弱な証で本人に飲もうとする気持ちがないだけだとして、飲めない人にも無理やり飲ませることが当たり前とされていたようです。そのため日本人にとって、お酒を飲みすぎて嘔吐したり、泥酔して前後不覚になったりするのは恥ずかしいことではなく、むしろ当然とされていました。

泥酔することに驚いた!

「われわれに間では酒を飲んで前後不覚に陥ることは大きな恥辱であり、不名誉である。日本ではそれを誇りとして語り、『殿Tono いかがなされた。』と尋ねると、『酔っ払ったのだ。』と答える。」

集団でお酒を飲む文化のある日本人にとって、前後不覚になるまで酔っ払うことは、用意されたお酒が充分な量であることを示す証。主催者の顔を立てると同時に、その感謝の気持ちを伝えたのです。

個人の責任でお酒を飲んできた欧米人たちには、一切理解できなかったことでしょう。

音を立てて飲むことに驚いた!

「われわれの間では食事の時に、とても高い音を立てて口を鳴らしたり、葡萄酒を一滴も残さず飲み干したりすることは卑しい振る舞いとされている。日本人はそのどちらの事も立派なことだと思っている。」

"舌鼓を打つ"という言葉があるように、日本では美味しい料理を食べたときに口を鳴らすことで、その料理を作ってくれた人への感謝の気持ちを伝える文化がありました。お酒に関しても、注がれたお酒を残さず飲み干すのは、そのお酒が美味しかったことを伝える表現のひとつだったのでしょう。

そのほか、欧米人たちはワイングラス以外の酒器でワインを飲むことを極端に嫌っていたようですが、日本人は宴が盛り上がってくると、小さな盃ではなく、吸い物のお椀やその蓋などを使ってお酒を飲むことで、その場の雰囲気を盛り上げました。

さらに、彼らはワインと食事を同時に楽しむことが多いですが、当時の日本人は料理に箸を付けず、お互いが酔いつぶれるまでお酒を注ぎ合ってどんちゃん騒ぎをすることが多かったようですね。そのすべてが彼らには理解できず、驚きの連続だったのでしょう。

(文/梁井宏)

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梁井 宏

金沢の創業1625年の老舗酒蔵で、40年余りにわたり、酒造管理、商品開発、市場開拓などに携わってきました。同社を退職後は、酒関連の情報収集と併せ、現役時代からこだわってきた、「熟成古酒」の啓蒙活動に力を入れています。