今年6月に結果が発表された、もっとも美味しい市販酒を決めるコンペティション「SAKE COMPETITION 2018」にて、高級酒のみが出品できる「Super Premium部門」でナンバーワンの栄冠に輝いたのは、株式会社せんきん(栃木県)の純米大吟醸酒「醸(かもす)」でした。
この「醸」は、種類の異なる酒米で別々に造った3つの純米大吟醸酒をブレンドし、それぞれの魅力を最大限に引き出すことで、もっとも美味しい最高級の日本酒を目指しています。「アッサン・ブラージュ」と呼ばれる、フランス・ボルドー地方のワイン造りでは一般的なブレンド技術を日本酒に応用した、その舞台裏に迫りました。
異なる酒米で造った3種類の純米大吟醸をブレンド
「醸」の開発は、蔵へ戻る前にワインソムリエとして活躍していた、蔵元専務・薄井一樹さんの存在なしには語れません。薄井専務は、商品が誕生した経緯について、次のように話しています。
「高価な日本酒への需要に対応するため、山田錦を35%まで磨いた『一聲(いっせい)』を3,500円(四合瓶)で売り出し、さらに、精米歩合17%の『麗(うらら)』を5,000円で発売していました。
次のステージとして、四合瓶で1万円を超える商品を出そうという目標を決めたとき、閃いたのが『アッサン・ブラージュ』だったんです。フランスのボルドー地方では、赤ワイン用のブドウ品種であるカベルネ・ソーヴィニヨンとメルローをブレンドして、理想の味わいに仕上げていきます。日本酒でも、異なる酒米のお酒を組み合わせることで、極上の日本酒を生み出すことができるのではないかと考えました」
そこで薄井専務は、手元にあった3種類の純米大吟醸酒(山田錦の7%精米、亀の尾の35%精米、雄町の40%精米)をブレンドすることにしました。
目指したのは、山田錦のエレガントで華やかな味わいをベースに、亀の尾のタイトでシンプルな美しさと雄町の奥行きがあるふくよかな豊かさを加味することで、ただ米を磨いただけのお酒にありがちな繊細さしかない味わいとは一線を画した、プレミアムなお酒に仕上げること。
まったく白紙の状態から手探りで挑戦するではなく、3種類をそれぞれ充分にきき酒し、おおよその比率を頭に描いてから作業に入ったそうです。「味わいの根幹は山田錦なので、これを半分以上使い、亀の尾と雄町でさらなる高みを目指すイメージで臨みました」と、薄井専務。
比率の異なる5種類のお酒を造って、そのなかから最終的に選んだのが、山田錦を60%、亀の尾を27%、雄町を13%の割合でブレンドしたものでした。米をあまり磨いていない、ふくよかな味わいの雄町をどの程度ブレンドするかが、大きな鍵だったようです。
高級酒部門のナンバーワンを獲得
そして、この「醸」は四合瓶1万円以上のお酒を対象とする「Super Premium部門」で最高の評価を獲得します。
「きれいでエレガントな味を追求したお酒が大半のなか、それらと異なる方向を目指したことで審査員からどんな評価を受けるか予想できなかったので、結果については素直に喜びたいですね。各蔵のフラッグシップが並ぶなかの1位は、仙禽のブランド向上に繋がるので、これを追い風にしたい」と、薄井専務はしてやったりの表情を見せました。
これをきっかけに、多くの酒蔵が高価格帯の商品にアッサン・ブラージュを導入することを願っているそうですが、また同じ技法を使うかどうか、まだ決めていないのだとか。
「『Super Premium部門』で、どのような酒質が評価されるのかを体感することができました。次に目指す酒質をアッサン・ブラージュで表現するか、あるいは単一の酒米で表現するか、ギリギリまで考えて決めようと思っています」
いずれにせよ、今回よりもさらに美味しい至高の一品で勝負してくるのは間違いありません。
(取材・文/空太郎)