甘味と酸味のバランスに優れた大人気銘柄「仙禽(せんきん)」を醸す株式会社せんきん(栃木県さくら市)が、新しいブランド「羽水(うすい)」をリリースしました。

これに伴い、仙禽とは異なった流通ルートで販売していた別ブランド「霧降(きりふり)」は終売。その後継商品として発表された「羽水」で、従来とは違う酒造りに挑みました。

仙禽の酒造りは、蔵元専務の薄井一樹さんが全面的に統括しています。しかし「羽水」は、一樹さんの弟であり、常務を務める薄井真人さんにすべてを任せ、仙禽とはまったく異なる酒質に仕上げたそう。新しい酒造りへの思いを真人さんにうかがいました。

酒質設計をしない!?最善の積み重ねで造るお酒

「現代の酒造りは、まず酒質をどうするかなどのゴールを決めて、そこから逆算で造り方を考えていくのが一般的。ですが、『羽水』ではあえてそれをせずに、それぞれの工程で僕が最善と考える選択肢を積み上げ、その結果として出来上がったお酒を商品化しようと思いました。

もちろん、造りたいお酒の漠然としたイメージはあります。仙禽らしい酸や甘味を出さず、ライトな味わいの中にも上品な質感のあるお酒にしたいと思っていました。そのため、もやし(種麹)は仙禽と異なるものを選び、酵母は香りが抑えめの栃木県酵母を使用。

イメージしたのは、酵母がストレスなく伸び伸びと活動できる環境を提供し、緻密で上質なお酒に仕上げることですね」

「ひとつの銘柄で種類が多いと酒質の違いがわかりにくくなるので、定番商品は純米大吟醸規格(精米歩合は麹米が40%、掛米が50%)の『純米』と、純米規格(精米歩合は80%)で造った『生酛(きもと)』の2つだけ。『生酛』は仙禽が販売している酵母無添加の生酛ではなく、酵母を添加する方法で造りました。

定番の2種類以外にも、ひやおろしなどの季節限定品をいくつか出す予定ですね。ごく一部の例外を除いて、1回火入れで出荷します」

「『純米』は羽毛のような軽やかな中にも米の旨味がすーっと広がる味わいになりました。食事といっしょにいくらでも飲めてしまいそうです。おすすめの温度帯は12度から15度。

『生酛』は酸味があるものの重たくない味わいで、甘味とともに軽快な喉越しを演出してくれる、クリアでドライな酒質に落ち着きました。こちらは冷やしたり温めたりせずに、20度前後の常温で呑んでいただきたいと思っています」

薄井真人さんはすでに10年以上酒造りをしてきたため、みずからがプロデューサーになることに抵抗感はなかったそう。「純米」は改善の余地があるが、ほぼ思い通りのお酒ができあがったと話していました。

「羽水」は日本名門酒会に加盟する酒販店の一部を通して販売されるそう。「純米」が一升瓶で2,800円(税別)、「生酛」が3,000円(税別)です。

筆者も飲んでみたところ、仙禽とはまったく異なる酒質で、商品名からイメージされるフェザータッチのような軽快さのなかに、奥深い旨味のある印象でした。「純米」と「生酛」、それぞれのお酒を飲み比べしてみるのもおもしろいでしょう。

(取材・文/空太郎)

この記事を読んだ人はこちらの記事も読んでいます