秋田県のとある酒造で麹屋助手をしていることから、4回に分けて「大吟醸の麹造り」についてお話ししていきたいと思います。
麹とは?その役割は糖化のみにあらず
日本酒というのは米と水からできています。米は精米して洗米して蒸すのですが、その米の約20%を麹にします。残り80%は掛米と言って麹ができたらタンクに入れて酵母の食糧にします。
ですが酵母は蒸米のデンプンをそのまま食べることができません。なので、麹の持つ酵素(=アミラーゼ)によってデンプンを糖にするのが大きな役割です。さらにタンパク質をうまみに関わるペプチドやアミノ酸に変え、白米には不足しているビタミンも供給する、そんな役割を麹は担っているのです。ですからお酒の味はもちろん、場合によっては色調にも関与します。
さてさて、その麹がどういう風にできるのか、蔵で見たことがある人も、なんとなく知っている人もいるかとは思いますが、今回は大吟醸の製麹1日目を見てみましょう。
麹の造り方 1日目 切れるな30℃!モヤシ切りと切返!
麹は3日間(おおよそ50時間)かけて造ります。あらかじめ洗米しておいた米を蒸して、放冷した後、種麹(=モヤシ)というコウジカビの菌体を蒸米に振り、そこにたくさんの菌を生育させます。この種麹をふる作業を種切り(=モヤシ切り)と言います。
「洗米が最も重要だ」と杜氏さんはよく言います。なぜかと言うと、麹造りでは蒸米が持っている水分が麹菌の生育のスピードや量を決める1つのファクターだからです。
人間もそうですが、まわりに水が過度にあれば溺れますし、少ないと喉が渇いて仕事になりません。その適度な量の水を白米に入れてやる必要があるんですね。もちろん甑で蒸す時にも水を吸いますし、製麹作業中に蒸散しますから、そこも勘定します。洗米と浸漬で吸わせる水の量は、時計を見ながら1秒単位、グラム単位で見極めているのです。
蒸し作業は大きな甑を使用します。和釜を使っていたり、連続蒸米機を使っている蔵元もあるようです。
さて、蒸米(蔵ではフカシと呼んでいます)が出来上がったら放冷をします。通常は放冷機という機械を使うのですが、大吟醸を造るときは、フカシを雪の朝の澄んだ空気に晒して35℃まで冷まします。
温度は温度計を使わず手で測ります。
難しいように思えますが、熱くて触れないなら60℃以上、熱いなと思うくらいなら50℃前後、温かくなってきたと思ったら40℃台。風呂の温度より冷めたいかなーと思ったら35℃の頃合いかなと思っています。
蒸気であたりはモヤがかかります。これをたとえて、フカシを冷ますことを「荒息を吐かせる」なんて言ったりします。
次いで蒸米は麹室の床(とこ)という、布を敷いたテーブルに広げます。もう少し温度を下げ、おおよそ32℃でモヤシをかけて、蒸米一粒一粒に付着させます。
ガーゼをかけたビーカーで振っています。中に入っているのがモヤシ。右のコードがついた機械は温度計です。
コウジカビは寒いのが苦手なもので、常に麹温度が30℃を下回らないように保温してやります。室温やかける布の素材や厚さで調整してあげる必要があります。
今回は室温を42℃まで上げ、厚く布で包んだらしばらく放置。夕方に一度切返し(塊をこなしてやる作業)をしてその日は終わり。これまた力の要る作業なのですが、まだまだ序の口。次の日からが本格的な作業です。
次回は盛方の作業を紹介したいと思います。
(リンゴの魔術師)