年号が「令和」に変わり、酒販店の店頭には「令和」を謳ったラベルの日本酒を見かけるようになりました。

今回ご紹介するのは、山形県米沢市の株式会社小嶋総本店の年号にちなんだ一本。平成元年醸造の全国新酒鑑評会金賞受賞酒を長期間熟成させた「東光 平成元年」です。3月27日に数量限定で発売されたこの商品は、発売から数ヶ月がたち、すでに在庫は少なくなっているようです。

「熟成」で日本酒はもっと面白くなる

「東光 平成元年」の発売の背景と意図を、24代目蔵元で代表取締役社長の小嶋健市郎さんにうかがいました。

小嶋総本店の代表取締役社長、小嶋健市郎

小嶋総本店・代表取締役社長の小嶋健市郎さん

「天皇陛下の譲位によって新たな元号を迎える時代の節目に、平成元年に醸造して全国新酒鑑評会で金賞を受賞したお酒をリリースすることで、時の流れがつくる熟成酒の味わいを楽しんでいただきたかったんです」と、小嶋社長。

小嶋総本店では、昭和46年(1971年)から、先代の社長が品評会で受賞した美酒を低温8℃の冷蔵庫にて貯蔵しています。そのような熟成酒は、百貨店向けの限定ギフトや個々にお問い合わせがあった際に、これまでは出荷していました。

「東光 平成元年」は、金賞受賞酒であり、熟成に耐えうるポテンシャルを持つお酒。熟成の状態も非常に良かったので、この改元のタイミングで数量限定の一般販売をしようと決めたそうです。

その味わいといえば、「上品な熟成香とともに複雑な味わいが感じられるが、口当たりはとても軽快。熟成酒でなければ到達できないきめ細かく滑らかなテクスチャーがあり、金賞受賞酒の特徴を残して綺麗に熟成している」とのこと。

「日本酒の“熟成酒“にはいくつかのスタイルがあります。どんなお酒をどんな環境で熟成させるかなど、多様性があるんです。しっかりした味わいの酒を常温付近で熟成させれば、見た目も褐色で複雑な味わいの熟成酒になります。『東光 平成元年』はその逆で、綺麗に造った大吟醸を低温で熟成させているので、熟成酒の中でも繊細さや軽快さが特徴だと思います」

「熟成酒」とひとくちにいっても、熟成のやり方次第で、味わいが大きく変わるようです。そのような背景を知れば、熟成酒の楽しみ方はより一層面白くなりそうですね。

「東光 平成元年」を購入された方にお話を聞くと、やはり「節目の年だから」「生まれた年に造られたお酒だから」など、当初の販売意図どおり、時代の節目を意識されている方が多いようです。贈り物としても人気のようで、新元号の令和が発表された日には、何件もご注文があったそうです。

「令和」は日本酒にとって過渡期の時代

小嶋総本店の蔵外観

「東光 平成元年」が仕込まれ、そして再び発売されるまでの「平成」の30年間は、小嶋総本店にとってどんな時代だったのでしょうか。

「私自身は平成23年に入社し、平成27年に社長となりました。平成は日本酒にとって厳しい時代だったかな…とも思いますが、日本酒業界にとっての平成の一大事として挙げたいのは、やはり平成2年に級別制度が終わり、特定名称酒に変わった点でしょうね。

評価の基準が変わって、安い酒をたくさん飲む時代から品質で選ばれる時代になりました。『東光』も、首都圏向けだけではなく地元向けのお酒も含めて、全量が特定名称酒のブランドになりました。また世界各国でも、そういうお酒が選ばれるようになっていますね」

大正時代の小嶋総本店

400年以上の歴史を持つ小嶋総本店。話は平成にとどまらず、大正時代は火事で蔵が焼けてしまったこと、昭和のころには国策による蔵の統合などがあったことなど、話題はつきません。

最後に、新しい時代「令和」について、小島社長は以下のように話してくれました。

「『令和』は日本酒の過渡期の時代になるのではないかと考えています。特定名称酒も、現代の価値観には合わなくなってきている気がしていますね。平成を通して築き上げたものを一旦壊して、新しいものを構築する。もうひとつ上の階段へあがるべき時期ではないかと考えています。

世界のお酒が日本にやってくると同時に、私たちも世界へ出ていきますから、世界の多様性の中で次のステップが始まるのかなと。そういう中で、既存の『東光』とは別のアプローチをする『小嶋屋』という新ブランドをスタートさせ、特定名称酒のような枠組みに囚われない酒づくりも模索していきたいです」

「令和」は、日本酒にとってどのような時代になっていくのか。課題が多くあるなかでも、新たな可能性に向けて前進する小島社長の姿が印象的でした。

(文/佐々木由美)

◎商品情報

小嶋総本店「東光 平成元年」

  • 商品名:「東光 平成元年
  • 製造元:株式会社 小嶋総本店(山形県)
  • 特定名称:大吟醸
  • 原料米:山田錦
  • 精米歩合:40%
  • アルコール分:18度(原酒)
  • 醸造年度:平成1酒造年度
  • 受賞歴:全国新酒鑑評会 金賞
  • 熟成期間:30年間
  • 蔵内貯蔵温度(専用熟成庫):摂氏8度
  • 内容量:720ml(箱入)
  • 希望小売価格(税抜):50,000円
  • 限定数量:200本
  • 発売日:2019年3月27日(水)
  • 購入に関するお問い合わせ:小嶋総本店 オンラインストアまで

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