熟成古酒に特化したテイスティングイベント「熟成古酒ルネッサンス」をご存知でしょうか。2010年から始まった本イベント、今年は4月の下旬に、渋谷のフォーラムエイトで行われました。
このイベントを主催する長期熟成酒研究会の定義によると、「熟成古酒」は、"満3年以上蔵元で熟成させた、糖類添加酒を除く清酒"のことだそう。長期熟成酒研究会は熟成古酒の研究に加え、明治期に一度失われた古酒文化の復興を目指している団体です。
高まりを見せる、熟成古酒への注目度
今年の「熟成古酒ルネッサンス」は3部制で開催されました。1部と2部はスタンディングの試飲会。3部は参加酒蔵との会食という形です。
1部と2部は、入場料を支払うだけで、なんと150種以上の熟成古酒をテイスティングし放題。熟成古酒への注目度が高まっていることもあってか、開場前から長蛇の列ができていました。
今回は1部の試飲会に潜入して、酒蔵関係者やお客さん、長期熟成酒研究会の方々にインタビューを敢行。「熟成古酒ルネッサンス」と熟成古酒の魅力をたっぷりとお伝えします。
それぞれの蔵に、それぞれの熟成古酒
はじめに、参加酒蔵のなかから4蔵をピックアップして、熟成古酒が日本酒ファンを惹きつける理由を探っていきましょう。
昭和46年から、蔵で造るほとんどのお酒を熟成古酒として販売している白木恒助商店(岐阜県岐阜市)の「達磨正宗」です。7代目蔵元の白木滋里(しげり)さんに、古酒にこだわるようになった経緯を伺いました。
「きっかけは、製造能力の高い大手酒蔵が台頭してきたことでした。先代は、造ったぶんだけ売れるという時代でなくても生き残っていけるように、米の旨味を最大限に溶かし込み、時間をかけてていねいに造る古酒で勝負したんです」
続いて、一ノ蔵(宮城県大崎市)のおすすめは、マデイラワインにおける加温熟成の考え方を日本酒に応用し、宮城鳴子温泉郷の温泉熱が伝わる小屋で熟成させたという、甘口タイプの「一ノ蔵 Madena」と、仙台名物の牛タンに合うお酒として造られたスパイシーな熟成酒「一ノ蔵 招膳(しょうぜん)」です。
営業部の志村さんは、製法やコンセプトが特徴的なこれらの古酒について「チャレンジングな姿勢の賜物です」と語っていました。
高清水を醸す秋田酒類製造(秋田県秋田市)が出品していたのは「加温熟成解脱酒」。甘口の純米吟醸酒に半年間、熱をかけ続けて、独自の方法で熟成させた一品です。すっきりとした甘味と爽やかな酸味が特徴的でした。
製造部の倍賞さんは、「この商品は、熟成古酒の定義である『3年以上の熟成』はしていませんが、研究会に品質を認めていただき、参加することができました。熟成古酒の開発を始めてから2年ほどなので、まだまだチャレンジしていきたいです。加温熟成という新たなジャンルができればおもしろいですね」と、話しています。
こちらは、村重酒造(山口県岩国市)の「日下無双 八号酵母使用酒」。酵母の特性を考慮し、熟成させることで旨味を最大限に引き出しているとのこと。
熟成古酒のなかには、あたためることで旨味の引き立つお酒が多く、いくつかのブースでは燗酒が振る舞われていました。
独自の製法にチャレンジしている蔵、時代の変化を敏感に感じ取って古酒に特化した蔵、使用する原料に合わせた古酒を醸す蔵......さまざまな蔵が出展していました。その製法や味わいだけでなく、それぞれの熟成古酒がもつストーリーも千差万別です。
続いて、長期熟成酒研究会の会長を務める本田眞一郎さんに、昨今の熟成古酒の盛り上がりとその魅力について聞きました。
熟成古酒の魅力は「多様性」
― 熟成古酒への注目度は、以前と比べてどうでしょうか。
「数年前からガラッと変わりました。このイベントも、電子チケットの発行やインターネットでの宣伝、そして多くの人が集まる渋谷での開催などに取り組むようになってから、だんだんとお客さんが増えて、若い人や女性の来場もかなり多くなりました。彼らには日本酒に対する先入観がないので、華やかでフレッシュな吟醸酒だけでなく、熟成古酒も美味しい・おもしろいと言って楽しんでくれるんです。熟成古酒はひとつのトレンドになりつつあると思います」
- 熟成古酒の魅力はなんでしょうか。
「日本酒をどうやって熟成させるか、その方法はさまざまです。それぞれ味わいが異なり、ひとつとして同じ味はありません。熟成古酒はこれから、赤ワインのようになっていくと思います。ライト・ミディアム・フルボディのように、味わいがさらに細かく分類されていくんじゃないかな。日本酒をもっと幅広く、多様なものにするという点で、熟成古酒はとても魅力的です」
本田さん曰く、熟成古酒の美味しさ・おもしろさに注目している若い世代が増えているのだそう。実際に「熟成古酒ルネッサンス」に参加した方々は、どんな感想を抱いているのでしょうか。参加者に話を伺いました。
古酒デビューの感想はいかに?
話を聞いたのは、都内の大学に通う3人組。お酒のジャンルを問わず、3人でよく飲みに行っているようです。
― なぜ、熟成古酒ルネッサンスに興味をもったのですか。
「Twitterでたまたま知りました。熟成古酒を飲むのは初めてだったのですが、『日本酒が好きだから行ってみようか』という話になって、参加しました」
― 実際に古酒を飲んでみて、いかがでしたか。
「最初は違いがわからなかったんですが、各蔵のお酒を飲んでいるうちに、同じ古酒のなかでも味わいに違いがあることを知りました。特に気に入ったのは、酸味があるタイプの古酒です。また、今までに飲んだことがある銘柄の古酒を飲むのがおもしろかったですね」
熟成古酒は初体験だったというみなさん。このイベントを通して、本田会長が話していた"古酒の多様性"に触れ、蔵の方々との交流を楽しんでいたようです。
料理とのペアリングもまた一興
参加者みずからが熟成古酒と料理を選んでペアリングを楽しめるのも、このイベントの魅力。料理が並ぶブースには、熟成古酒をより一層楽しめるスパイシーな酒肴や、濃厚な味わいのおつまみがそろっていました。
今回の「熟成古酒ルネッサンス」では、バラエティーに富んだ熟成古酒のもつ魅力を存分に感じることができました。ぜひみなさんも、イベントや居酒屋などで、熟成古酒を楽しんでみてはいかがでしょうか。
長期熟成酒研究会の主催するイベント情報は、公式HP・Twitter・Facebookなどで配信されているので、要チェック!
(文/SAKETIMES編集部)