昭和の終わりから平成の初めにかけて人気を集めた吟醸酒。爆発的なブームは収まりながらも、着実にその消費量を伸ばしています。一方、静かにその存在を知られ始めたのが「熟成古酒」です。
熟成古酒とは?
日本酒には、酒類業組合法で定められている「特定名称」があり、精米歩合やアルコール添加の有無によって、吟醸酒や純米酒、本醸造酒などに分類されます。ところが、熟成古酒(Reserve Sake)には公的な定義はなく、長期熟成酒研究会(Reserve Sake Asociation)では「糖類添加酒を除く清酒を、満3年間以上蔵元で貯蔵熟成させた酒」と定めています。
熟成古酒の試飲会風景
より美味しい熟成古酒のために
長期熟成酒研究会は酒蔵コンサルタントの故・本郷信郎氏が音頭を取り、全国から28社の蔵元が参加して、1985年に長期貯蔵酒研究会として創設しました。
創設に参加した蔵元は、その当時すでに3~15年熟成させた酒をそれぞれ「十年大古酒」「元祖」「善光寺秘蔵酒」「秘蔵十年」「面壁九年蔵内十年」「福正宗オールド」などの名称で、その当時とすれば破格の1升 10,000円の高価格で販売していた実績を持つ蔵ばかりでした。
同研究会が発足と同時に実施した調査によると、3~30年熟成させた酒が、すでに200点余りも商品として売られており、中には一本5万円もの高額商品もありました。ただし、これらの中のほとんどが「売れないので、なんとなく貯蔵しておいた酒」「たまたま売れ残っていた酒」を商品化したというもので、最初から長期間の熟成を目指したものではない、というのが実態でした。
長期熟成酒研究会では、まだ商品化されていないものも含めて、各蔵が酒を持ち寄りきき酒をすることから始めました。それまでに飲んだことがない酒や「えっ?」と驚く酒もあったことを今でも覚えています。きき酒の目的は、それぞれの蔵の実態を知るためだけではなく、それらの酒が造られた経緯やそれが貯蔵熟成中にどのように変化したかなどの情報を共有することにありました。
理想とする熟成古酒を目指し一社だけでいくら努力しても、その結果が判明するまでには何年間もかかります。思い通りの酒ができていればラッキーですが、逆に思いとは違ったものであれば、そのために費やした時間が無駄になってしまう大きなリスクがあります。
そこで得た情報は、その後の各社の商品開発に活かされ、熟成古酒の商品数が急速に増えたことは言うまでもありません。
(文/梁井宏)