神話の町・奥出雲の老舗蔵
「七冠馬(ななかんば)」を醸す簸上(ひかみ)清酒は、神話の町として知られる奥出雲・横田の地で1712年に創業しました。明治43(1910)年に町内の酒蔵を吸収合併した歴史があり、奥出雲周辺の旧名「簸上(ひかみ)三郡」から名前をとった「簸上政宗」が主要銘柄です。
平成8(1996)~12(2000)年の間、5年連続で全国新酒鑑評会金賞を受賞するなど、出雲杜氏である松本年正氏を中心に米の味わいをしっかり出す銘酒を生み出してきました。
"泡無(あわなし)酵母"発祥の酒蔵
同蔵は、「泡無酵母」発祥の蔵としても知られています。昭和37(1962)年、通常は仕込みタンクが真っ白な泡で満たされるのに対し、泡のないタンクがあることを先代の田村浩三氏と杜氏が確認。これが泡無酵母の発見でした。当時、東京の国税庁醸造試験所で技官を務めていた秋山裕一氏が研究・改良を行い、現在の協会泡無酵母となったのは平成8年。
現在、全国にある蔵の約5割が協会泡無酵母を採用。同蔵もすべての造りを協会泡無酵母で行っています。
最強馬「シンボリルドルフ」から命名
新銘柄「七冠馬」が誕生したのも平成8年。名前は、中央競馬で7冠を制した「シンボリルドルフ」から取ったものだそう。昭和59(1984)年に皐月賞・日本ダービー・菊花賞を制した史上初の無敗3冠馬。さらに有馬記念・ジャパンカップ・天皇賞(春)を制し、「皇帝」と呼ばれた、日本の競馬史に残る名馬です。古い競馬ファンなら知らない人はいないでしょう。
なぜ、島根の蔵と競馬に縁があるのか?それは簸上清酒の社長の妹が、ルドルフの生産者で、日本を代表するオーナーブリーダーとして知られる「シンボリ牧場」の家に嫁いだから。疾駆する馬のラベル、印象的ですね。
今回取り上げた「春なごみセブン」は兵庫県産の山田錦を60%まで磨き、泡無酵母である協会901号酵母で醸しています。春の桜の中を疾走する馬のラベルが、温かみや春らしさを感じさせますね。
香りは水あめや蜜のような甘みがある印象。口に含むと、島根のお酒らしいしっかりとした酸と米の旨みを感じました。骨格の太さや山田錦らしい丸みもありますが、後口はしっかりと切れていきます。お燗にすると、より米の旨みが強調され、仕事のあとにホッとできる晩酌酒として最高でしょう。
ラベルから想像される美しいイメージよりは、どちらかというと質実剛健な味わい。甘口のたまり醤油で食べる、脂身の多い中トロなどの刺身に合うでしょう。お燗なら、焼肉やジンギスカンにも良さそうですね。セリのお浸しなどの野菜料理、松前漬けや海鼠腸(このわた)などの珍味にも合うでしょう。お酒とおつまみ、互いの良さを引き出し合う食中酒になるはずです。