「フルーティーでさわやかな飲み口でありながら、しっかりとした味わいのこのお酒は……」のように、日本酒の特徴を的確に捉え、その良し悪しを判定する「きき酒」に憧れる方は多いのではないでしょうか。

日本酒造組合中央会が主催する「全国きき酒選手権大会」は、アマチュアを対象にしたきき酒の大会です。各県予選を突破した代表者が、日本酒に関する筆記試験と、7種類の日本酒について味や香りを確かめながら判別する「きき酒」を実施し、きき酒の日本一を競います。

1981年スタートとその歴史は古く、2013年に開催された第33回大会からは、日本酒好きの大学生が2名1組となってきき酒に挑む「大学対抗の部」が新設され、さらなる熱戦を繰り広げています。

この記事では、2018年に開催された「第38回 全国きき酒選手権大会」大学対抗の部で見事に優勝を果たした京都大学の日本酒サークル「SakeLab.酛(もと)」のメンバー(樟さん・古澤さん・太田さん・田中さん)に、その活動の内容や日本酒への想いについて、お話をうかがいます。

全国きき酒選手権大会優勝という快挙

京都大学の日本酒サークル「SakeLab.酛」は、2017年4月に、別の日本酒同好会に在籍していた4人のメンバーが、「より日本酒を深く知りたい」「日本酒についてもっと学びたい」という想いで新たに立ち上げた団体です。

sakelabmotoのメンバー

現在では、男女約30名の学生が所属、半年ごとにメンバー募集を行い、この1~2年で新しいメンバーの加入も増えてきています。

メンバーの中には、大学の研究室で日本酒の酒米に関する研究を行なっている学生や、酒蔵で半年ほど働いて日本酒の醸造を深く学んだ学生など、日本酒にまつわる個性的なエピソードを持つ学生がたくさんいます。

全国きき酒大会

「SakeLab.酛」を語るうえで忘れてはいけないのが、2018年に行われた「全国きき酒選手権大会」大学対抗の部での優勝です。

2018年大会では、都道府県の予選を勝ち抜いた72名で競う「個人の部」、各都道府県の代表2名で競う「団体の部」、海外出身者たちが競う「インターナショナルの部」、そして、12大学の学生が参加した「大学対抗の部」が行われ、「SakeLab.酛」は、この「大学対抗の部」で見事に優勝を果たしました。

厳しい県予選を勝ち上がってきた一般の部の参加者でさえ、きき酒で全問正解できなかったそうですが、なんと「SakeLab.酛」の出場メンバーの一人がだけが全問正解を成し遂げます。

「全国大会出場にあたり、事前にサークル内で予選を行い、厳しい選考に勝ち残ったメンバーを全国大会に送り出しました。優勝した要因は、普段の定期的な例会、勉強会から常に味や香りを意識して練習を積み重ねていたのが良かったんだと思います」(樟さん)

日ごろの訓練で培ったきき酒に対する自信をのぞかせます。

定期的な勉強会で日本酒を深く知る

そんな実力者もいる日本酒サークル「SakeLab.酛」では、普段どの様な活動を行っているのでしょうか。

sakelabmoto

「サークルに入って来る学生は、元から日本酒好きの人が多いですが、中には20歳になりお酒が飲めるようになって、『日本酒に興味はあるけれど知識があまりないのでもっと知りたいから』という初心者の人もいます。サークルではどんな学生にも、安心して楽しみながら日本酒の知識を増やしてもらう工夫をしています」(古澤さん)

「SakeLab.酛」のテイスティングシート

たとえば、定期的な勉強会では、月ごとに交代で担当を決め、担当は好きなお酒や紹介したいお酒を持ち寄って試飲を行います。試飲しながら記入したテイスティングシートや事前に用意した資料をみながら、各々が感想を出し合い、その銘柄の特徴や味わいについて深堀りしていくのです。

京都大学学園祭

また、大学の学園祭ではサークルのブースを設けて、メンバーおすすめの日本酒をおでんなどのおつまみと一緒に提供し、日本酒の魅力を広めています。

このような活動や勉強会を通して、新しくサークルに参加した学生は、半年間で基本的な日本酒の知識を身に付けることができます。日本酒に興味があって、これからもっと詳しくなりたいと思って入る人には、とても心強い仕組みですね。

サークル活動の特性上、アルコールの試飲が伴うため、「入会時に満20歳以上であること」と規約を決め、新入生歓迎会の集まりや体験会などでは、年齢を確認したうえで活動に参加してもらうように未成年飲酒防止も徹底している点からも、日本酒の魅力を伝えたいという真摯な姿勢がうかがえます。

日本酒を通じて学外とも交流

「SakLab.酛」の活動は学内にとどまりません。サークルには、京都大学の学生に加えて近隣の他大学生も参加しています。

「近くにある芸術大学在学のメンバーとお酒のラベルデザインについて話し合ったり、農学部の授業からヒントを得て、より強い香りを出す日本酒にはどうしたらいいかなどの勉強会を開いています。日本酒に関してお互いの得意分野で意見を共有して、より広い視点で様々な角度から知識を増やす工夫をしています」(太田さん)

sakelabmoto

大学の近隣にある高齢者施設から、「入居者のみなさんに日本酒について話してほしい」という依頼をもらったことがありました。

「『男性の入居者のみなさんが好きな日本酒について話せる場をつくって、明るい気分になって欲しい』という施設からの要望でした。日本酒を通じて学外との繋がりが増え、活動が広がっていくのはうれしいです。コロナ禍でまだ実現には至っていませんが、状況が落ち着いたら、施設に訪問をして入居者のみなさんと日本酒談義をしたいと思っています」(田中さん)

そのほか、京都で開催されている「SAKE Spring」という日本酒イベントでは、来場者向けに「きき酒セミナー」を開いて日本酒のファンを増やす活動も行っています。

日本酒を知るための新しい接点をつくる

最後に、「SakLab.酛」のメンバーに、おすすめの日本酒や飲み方を聞いてみました。

「初心者におすすめのコンビニで買える日本酒は、飲みきりボトルでしっかりした日本酒が味わえる『月桂冠 The shot』、甘口タイプのお酒で、水割りやロックにしてもおいしい『ふなぐち菊水一番しぼり』、チューハイのような感覚で手軽に飲める『スパークリング清酒 澪』です。

そのほかにも、特別な日に試したい地酒としてフルーティーで飲みやすい『雪の芽舎』や『獺祭』、フレッシュで微炭酸が人気の『風の森』もよいですよ」(樟さん)

「ぜひ燗酒にトライしてみて欲しいです。美味しい出汁のように身体に染み渡る感じ。そして何よりもいろいろな料理に合うところが燗酒の魅力です。燗酒にするなら、『竹鶴』、『日置桜』、『睡龍』、『久米桜』などがおすすめの銘柄です」(古澤さん)

若い人たちが日本酒に興味を持って楽しんでもらうためには、きっかけが必要です。

たとえば、「居酒屋で友達にすすめられたお酒がおいしかった」「店頭で見かけたお酒のラベルがかわいかった」「旅行で訪れた酒蔵の人たちの酒造りへの熱意に触れた」など、ちょっとしたできごとから日本酒への興味が湧き始めると思います。

日本酒が持っている楽しいストーリーをさまざまな人たちと共有していく日本酒サークル「SakLab.酛」の活動は、日本酒との新しい接点をつくり、日本酒を楽しむ人を増やしていくことにつながっているのだと、取材を通して感じることができました。

「SakLab.酛」のこれからの活躍がますます楽しみです。

(取材・文:茶谷 匡晃/編集:SAKETIMES)

◎サークル情報

  • 京都大学 日本酒サークル「 SakeLab.酛(もと)」
  • Twitter: @SakeLabMoto

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