市販されている日本酒のなかで、もっとも美味しい一品を決める「SAKE COMPETITION 2018」の結果が発表されました。
それぞれの部門でトップに輝いた酒蔵の蔵元や杜氏の喜びの声を紹介します。
【純米酒部門】「會津宮泉 純米酒」(宮泉銘醸/福島県会津若松市)
宮泉銘醸は、2014年に純米酒と純米吟醸の2部門で1位を獲得して脚光を浴びましたが、それ以来のトップでした。さらに、12年前にデビューした「寫楽」(今回は、純米酒部門で4位)ではなく、昔からある地元銘柄「會津宮泉」での受賞。発表されたときには、会場全体にどよめきが広がりました。
蔵元社長である宮森義弘さんの話です。
「2002年、26歳のときに父から言われて蔵へ戻りましたが、経営面ではジリ貧が続いていて、このままでは立ち行かなくなってしまうという危機感がありました。造っている酒は地元向けの普通酒が主体で、個性がなかったんです。
そこで心機一転して、特定名称酒の新しい銘柄を造り、大都市圏で売れる酒を育てようと誕生したのが『寫楽』でした。原料を厳選し、仕込みの量を減らし、洗米と麹造りに手間をかけて、徹底的に温度管理をするなどの手を打ったおかげで、『寫楽』は人気銘柄に育ちました。
数年前からは、今でも地元を中心に販売している『會津宮泉』の酒質向上にも力を入れています。どちらの銘柄もほぼ同じように造ってきたので、同じレベルの酒が造れるようになりました。『寫楽』は甘味・旨味・酸味を大事に、『會津宮泉』はやや爽快辛口に......狙っている市場に合わせて味わいを変えています。そんな努力が報われて、『會津宮泉』で1位を獲れたこと、本当にうれしく思っています」
【純米吟醸部門】「作 恵乃智(めぐみのとも)」(清水清三郎商店/三重県鈴鹿市)
清水清三郎商店は「SAKE COMPETITION」入賞の常連。2017年には、純米酒部門で1位と2位を獲得するという快挙を成し遂げています。純米吟醸部門でも何度も入賞を繰り返し、今年ついに頂点に立ちました。
凄腕の杜氏である内山智広さんに話を伺いました。
「今季は純米酒部門に出品したお酒の出来に、いまいち納得できなかったんです。案の定、入賞のGOLD(上位10点)はおろか、SILVER(上位36点)にも入れませんでした。そのぶん、純米吟醸部門には、わずかに期待がありました。今季は、麹歩合を若干減らすなどの修正を加えていたので、それが良い方向に出たようです。
しかし、精米歩合50%の『作 雅乃智(みやびのとも)』が8位と発表されたときは、今年の入賞はこれだけだなと思いました。『恵乃智』は精米歩合60%なので、『雅乃智』の上に行くとは思えなかったのです。1位にコールされたときは、驚きました。
純米吟醸部門にエントリーしている多くのお酒は、精米歩合が50%か55%。そういうライバルたちのなかで、60%精米の『恵乃智』が1位を獲れたのですから、ちょっぴり胸を張ってもいいかなと思っています。今回の結果を、来季の酒造りに反映していきたいです」
【純米大吟醸部門】「南部美人 純米大吟醸」(南部美人/岩手県二戸市)
【スパークリング部門】「南部美人 あわさけスパークリング」(同)
南部美人は、2部門で1位を獲得するダブル受賞になりました。スパークリング部門では2年連続の1位です。
蔵元社長・久慈浩介さんに話を聞きました。
「瓶内二次発酵で透明、かつシャンパン並みのガス圧をもった日本酒を"世界の乾杯酒"にしようと、昨年「awa酒協会」を立ち上げて、わが蔵でも上質なawa酒造りに挑んでいます。
昨年に続いて、スパークリング部門で評価されたことをうれしく思っています。今年の酒は味のバランスが良くなり、泡のきめ細かさが増して、昨年の酒よりも格段に進化しています。私たちが目指している、吟醸酒の魅力が高く評価されたのだと思います。
純米大吟醸は、わが蔵のフラッグシップです。伝統の造りを守りながら、最高峰の日本酒を目指して日々研鑽しています。今季の酒造りは山田錦の扱いに苦労しましたが、優秀な杜氏のおかげで、目指す酒質が実現できました。スパークリングには"進化"、純米大吟醸には"伝承"を求めているので、その両方で評価されたのがとてもうれしいですね」
【吟醸部門】「極聖(きわみひじり) 大吟醸」(宮下酒造/岡山県岡山市)
宮下酒造は、吟醸酒造りを得意としている全国新酒鑑評会の常連蔵。現在、8年連続で金賞を獲得しています。「SAKE COMPETITION」では、2017年に吟醸部門で8位に、Super Premium部門で2位に入賞。そして今年、はじめての栄冠を獲得しました。
蔵元・宮下晃一さんの話です。
「うちのお酒は香りが華やかで、かつ良質な甘味をもっているのが特徴です。それでいて、後味がすっきりしているので、料理といっしょに楽しむことができます。看板商品であるこの大吟醸も、その特徴が最大限出るように醸しているので、それが評価されたことは蔵人たちの励みになります。
当蔵のお酒は大半が岡山県内で消費されていて、大都市圏にはあまり出回りません。こういう機会を利用して、より多くの人たちにうちの酒を知っていただけたらうれしいです」
【Super Premium部門】「醸(かもす)」(せんきん/栃木県さくら市)
せんきんは、蔵の井戸水(仕込み水)と同じ水系の水を使っている田んぼから収穫した米のみを使う"ドメーヌ"化を実現している、注目の若手蔵。通常は、山田錦・亀の尾・雄町など、それぞれ単独の酒米を使った酒が市販されていますが、この「醸」は山田錦・亀の尾・雄町で醸した純米大吟醸酒を、理想の味わいになるように絶妙にブレンドした作品です。本部門における過去2回の1位受賞酒とは一線を画した個性が評価されました。
蔵元・薄井一樹さんによる喜びの声です。
「蔵としての生き残りを模索する過程で、酸味の魅力を最大限に引き出すことをうちの個性にしてきました。同時に、上質な酒造りを目指して、日々、造りに修正を加えながら、洗練された酒を造れるように努めています。その努力が実ったおかげか、純米酒部門でも4位に入ることができました。
『醸』はうちのフラッグシップです。しかし、酸味にこだわっている酒なので、上位に食い込むのは難しいかもしれないと考えていました。1位に選ばれたのは、我々の個性が前向きに評価されたためだと受け止めています。これからも蔵の個性を磨き、高品質の酒造りに取り組んでいきます」
消費者目線で選ばれた、手に取ることができる入賞酒
「SAKE COMPETITION」の開催は今年で7回目になりました。徐々に知名度が高まり、出品点数は前年よりも増えて1,772点。名実ともに、世界最大の日本酒品評会としての地位を築いています。
本コンペティションに出品されているのは、酒販店や飲食店で目にすることのできる市販酒がほとんど。興味のある方は、実際に手にとってみて、審査員気分でじっくりと楽しんでみてはいかがでしょう。
(文/空太郎)