「可能性の見本市」をキーワードに、日本酒の新しい価値を提案しようとする人にフォーカスする連載「SAKEの時代を生きる」。第3弾となる今回は、MIRAI SAKE COMPANYの代表・山本祐也さんを紹介します。
未来型のSAKEセレクトショップ「未来日本酒店」や、AIが好みの日本酒を診断してくれるサービス「YUMMY SAKE」などを展開し、常に未来視点で日本酒と向き合う山本さん。その眼差しは、どんな未来を描いているのでしょうか。
日本酒とワインは同じビジネスモデル
生まれは石川県という山本さん。日本酒に興味をもった背景を「高校の同級生に酒蔵の息子がいて、それがきっかけでした」と話します。
大学在学中には、すでに日本酒の事業をやりたいと考えていたとのこと。金融業界に就職しましたが、財務の知識を蓄えていく過程で、日本酒に新たな発見があったといいます。
「日本の製造業は土地代と人件費が高く、日本酒に限らず商品の原価が高くなりがち。しかし、ブランドによる付加価値が存在するワインのビジネスは、原価が高くても成立する。そのとき、日本酒も本来はそうあるべきなんじゃないかと思ったんです。日本において、テロワールなどの付加価値をもつ日本酒はあまり根付いていない。しかし、原価にコストをかけてもしっかりと利益が出ることで、農業への新規参入にもつながり、経済が回る。そこにポテンシャルがあると感じました」
あえてアウェイに出店する
こうして2013年に会社を設立した山本さん。2014年には日本酒の事業をスタートさせました。現在取り組んでいるのは5つの事業です。
- 未来の蔵元や新しいSAKEの可能性を追求する、未来型のSAKEセレクトショップ「未来日本酒店」
- 酒を未来の基幹産業とすべく、グローバル市場を舞台とする「MIRAI SAKE INTERNATIONAL」
- SAKEの新しい価値を求め、酒質と世界観をデザインしたオリジナルブランド「FABLESS SAKE BREWING」
- 新潟県佐渡島にてテロワールに育まれた酒米・五百万石を生産する「酒造好適米生産事業」
- ブラインドテイスティングによって、AIが好みの味わいを判定してくれる「YUMMY SAKE」
1次産業から3次産業まで幅広く事業を展開している山本さんは「すべての事業が連動している」と話します。そのなかでも大事にしているのが、2017年にスタートした未来日本酒店です。
「未来日本酒店では知名度やスペックだけではなく、ストーリーとコンセプトを大切にしたいと考えています。まず大事にしているのは、未来への思いをもっている人の商品を扱うこと。次に、新しいジャンルに注力していくこと。最後に、ヴィンテージやテロワールなどで売り場を分け、テーマで日本酒を選べるようにすること。最前線で日本酒を伝え、酒蔵と二人三脚で販売していく場所でありたいと考えています」
現在では吉祥寺、恵比寿及び日本橋に店を構えています。立地を選ぶ基準は"日本酒がアウェイな場所"だそう。
「幅広い人に日本酒を知っていただきたい。だからこそ、オープンするのは日本酒が根付いていなさそうな場所。日本酒を好きな方々はもちろんですが、あまり馴染みのない人たちにも、日本酒の魅力を伝えていきたいですね」
すべての蔵がフェアになる
一方、これまでのビジネスモデルと異なる形で展開しているのが、AIを活用したサービス「YUMMY SAKE」です。
ブラインドテイスティングの直感的な感想を入力するだけで、「キュンキュン」「スルスル」などのオノマトペ(擬音語)で表された12種類の味覚タイプが判定され、自分の好みにあった日本酒に出会うことができます。
「消費者が日本酒を選ぶ際、まったく知らない銘柄はもちろん選ばれにくい。しかし、このサービスでは味のみが判断材料になるので、酒蔵の規模や知名度にかかわらず、フェアな状態で日本酒を選ぶことができます。自分が本当に美味しいと感じられる日本酒に出会ってほしいですね」
実際に体験した方々の約92%が「当たっている!」などのポジティブな反応を示したそう。また、YUMMY SAKEにはコミュニティ機能も備わっているのだとか。
「たとえば、判定結果が『スルスル』の人だけが集まって『スルスル』タイプの日本酒限定で飲み会を開催するなど、精度の高いコミュニティづくりにも利用できます。ゆくゆくは、新商品の開発にも役立てたいですね」
SAKE市場には、50兆円レベルのポテンシャルがある
MIRAI SAKE COMPANYのビジョンは「未来の基幹産業を創る」。山本さんは、SAKEの市場規模は50兆円レベルを目指せると話します。
「原料の生産規模と、それらを原料とする酒類の市場規模には一定の相関があると言われています。SAKEの原料である米は小麦に次いで世界2位の食用穀物で、 その生産規模は世界中で生産されるブドウの6倍以上。小麦を原料とするビール市場規模は世界で約66兆円、 ブドウを原料とするワイン市場規模は世界で約33兆円です。これらを踏まえると、原料ポテンシャルから考えたSAKEの将来市場規模は、50兆円レベルを目指すことができると思います」
もともとはジャポニカ米で造られていた日本酒ですが、現在ではインディカ米でも造れるようになりました。多くの国でSAKEが注目され始めているからこそ、米の生産規模に追いつくように、SAKE市場も広がっていくことでしょう。
「SAKEの市場規模が50兆円になると、それは基幹産業になる。グローバル視点で見ると絶対に市場は伸びると確信しています。SAKEが伝統産業ではなく、主力産業のひとつになるような、そんな世の中をつくっていきたいですね」
「市場を広げている実感がある」と語る山本さん。新しいアプローチでSAKEと向き合うその姿はまさに、"SAKEの時代を生きる"人といえるでしょう。山本さんが目指すのは、SAKEを未来の基幹産業にすること。挑戦は今日も続きます。
(取材・文/熊澤淳太)