近年、クラウドファンディングを利用した日本酒のプロジェクトが急増しています。
今回は、日本国内最大級のクラウドファンディングサイト「Makuake」のサービス開始5周年を記念した、関係者限定の招待制イベント「Makuake MEET UP DAY 2018」のなかで行なわれたトークセッション「日本酒2.0 新時代に売れるお酒の秘密」の様子を紹介いたします。
これからの日本酒業界を担うプレーヤーたちが、来るべき新時代を見据えて考える"売れるお酒"とは、いったいどんなものなのでしょうか。
新時代の日本酒を追求する4人が登壇!
トークセッションを行なうのは、Makuakeで日本酒に関するプロジェクトを成功させた経験のある4人。
1人目は、2017年5月、北海道上川町に誕生した新しい酒蔵「上川大雪酒造」のクリエイティブディレクター・新村銀之助さん。この酒蔵では、北海道産の原料に強くこだわった酒造りを通して、地元の活性化を目指しています。
2人目は、株式会社WAKAZEの代表を務める稲川琢磨さん。同社は、オーク樽で熟成した「ORBIA」や、ボタニカル原料を加えた「FONIA」など、新しいコンセプトの日本酒を生み出している新進気鋭の日本酒ベンチャーです。2018年7月には、念願の自社醸造所を三軒茶屋に建設し、造ったお酒がその場で飲めるバー「Whim SAKE & TAPAS」をオープンしました。
3人目は、株式会社未来酒店の代表・山本祐也さんです。商品のコンセプトやストーリーを重視した日本酒のセレクトショップ「未来日本酒店」や、AI(人工知能)によって、消費者の日本酒に対する好みが判別できるサービス「YUMMY SAKE」を手掛けるなど、日本酒への新しいアクセスを提案しています。
そして、今回は「SAKETIMES」や「SAKE100」を運営する株式会社Clearの代表である生駒龍史がトークの進行を務めました。
これまでの日本酒市場
「日本酒2.0」というタイトルが付けられた今回のトーク。そもそも、"新時代"と"旧時代"の違いはどんな点にあるのでしょうか。
進行の生駒は「日本酒の消費量は1973年をピークに右肩下がりで、現在は全盛期の3分の1」という事実から、「日本酒が苦行に立たされている」という枕詞とともに、日本酒業界が斜陽産業として語られてしまいがちなことを指摘します。
その上で、「日本酒業界はパック酒を始めとした安価な商品を広く流通させることで発展してきた」「昨今は、特定名称酒のマーケットが拡大している」というさらなる事実をもとに、業界全体が低迷しているのではなく、こだわりをもって造られた高品質で高付加価値の日本酒については、今後大きな可能性があると話しました。
しかし、「ここ10年くらいの間、日本酒はスペック競争に陥ってしまっている」と続けます。そんななか、精米歩合や特定名称などのスペックにとらわれない、新しい価値観の日本酒が少しずつ生まれてきました。この新しい時代を「日本酒2.0」と定義し、さらにトークは続いていきます。
これからの日本酒市場で生き残っていく戦略
それぞれの自己紹介が終わったあと、3人は、これからの日本酒市場で生き抜いていくための戦略を語り始めました。
WAKAZEの稲川さんは、自社の商品がこれまでの日本酒と差別化できている点を2つ挙げました。
ひとつは、醸造設備をもたない酒造メーカーのスタイルを確立し、理想の味わいを追求することを第一に考えた商品開発をしていること。たとえば、発酵の過程でボタニカル原料を投入した「FONIA」シリーズの商品「SORRA」は、プロのソムリエに「帆立のカルパッチョにすだちを搾って、ピンクペッパーとバジルをのせた料理に合うような日本酒のテイスト」をヒアリングして味わいの方向性を決定した後、それから酒蔵や原料などの選定を行なったのだとか。
もうひとつは、「日本酒のフロンティアを創る」という確固たるコンセプトをもっていること。その言葉を体現するかのように、これまでにない新しい発想で、新しい日本酒ファンを開拓してきました。
未来酒店の山本さんは、売り手という立場から流通の構造に注目し、日本酒の新しい売り方を構想しています。
固定の商品を陳列することになりがちな大手の流通ラインに依存しない未来日本酒店では、小〜中規模の酒蔵やそれぞれの商品がもつストーリー、つまり、造り手のこだわりや思いがしっかりと飲み手に伝わるよう、独自のラインアップを展開しているのだそう。さらに、日本酒に慣れていない方々が手に取りやすいように「SPARKLING」「VINTAGE」「DESERT」など、コンセプト別の陳列を行なっています。
上川大雪酒造の新村さんは、これからの日本酒に必要なものとして、ブランドのストーリーに言及しました。同蔵では、地元に愛され、かつ世界に発信できる日本酒を目指して、消費者が共感できることを大切にしたストーリーを構築し、新しいブランドを創り上げているのだそう。
また、酒造りの詳細はもちろんのこと、米農家のこだわりを始めとした、地元・上川町の風土を感じられる情報を発信していくことで、造り手からの一方的な発信ではなく、日本酒と地域が強く結びつくことを重要視しているようです。
日本酒の新しい価値とは?
トークを聴講していた来場者の方にも話を聞いてみましょう。
話を伺ったのは、ベトナムで清酒を製造している「フエフーズ・ジャパン株式会社」の才田さんです。
今回のトークでもっとも刺激を受けたのは、理想の味わいを追求してから酒造りを行なう、WAKAZEの製品開発だったといいます。「うちの会社で考えてみると、まず、ベトナム料理にピンポイントで合わせられる日本酒を目指してもいいのではないかと思いました」と、新しい着想を得た様子でした。
「日本酒2.0」という新しい時代の"売れるお酒"を考えるためには、精米歩合などのスペックに代表される、"グラスの内側"にある情報だけではなく、消費者の口に届くまでのストーリー、つまり、"グラスの外側"にまで議論の場を広げていくことが必要です。
造り手が込めた思いやその背景、そして、飲食店や酒販店の方々がその日本酒をどのように提案するか、飲み手がどのようなシチュエーションでその日本酒を味わうのか......"グラスの外側"には、無限の価値軸があるでしょう。
"グラスの外側"にある新しい価値をいかにして発見し、それを提案していくかが、これからの日本酒業界に求められています。
(取材・文/SAKETIMES編集部)