2020年度の法改正によって、酒類の製造免許として「輸出用清酒製造免許」が新たに設けられました。この免許は輸出用に限って日本酒の製造を認めるもので、日本酒の輸出拡大を目的としています。
取得の第1号となった、福島県の合同会社ねっかを始め、全国でいくつかの取得事例が生まれていますが、2021年11月、西日本エリア初の事例として、島根県の台雲酒造合同会社がこの免許を取得しました。
同社の代表である台湾出身の陳韋仁(チン・イニン)さんは、台湾と島根県に縁のある「台中65号」という米をみずから栽培し、その米を使ったオリジナルの日本酒を造ってきました。
輸出用清酒製造免許の取得のねらいなどについて、陳さんに話を伺いました。
海外に伝えたいのは、日本酒の多様性
— 今回、輸出用清酒製造免許を取得しようと思った理由は何ですか。
これまで、台中65号を使った「台中六十五号」という日本酒を、島根県・佐賀県・山口県の酒蔵と造ってきましたが、もともと、製造量の8〜9割は地元である台湾に輸出していました。
ふつうの清酒製造免許を新規に取得するのは難しく、また、これからも「台中六十五号」は輸出メインでやっていこうと思っていたので、ぴったりな免許だと思い、取得を目指しました。
台雲酒造合同会社は、この免許で輸出用の日本酒を造るために、新たに立ち上げた会社です。
— 免許の取得は大変でしたか。
特に、申請のための書類の作成や、醸造所をつくるための資金の調達がたいへんでした。ただ、これまでの「台中六十五号」の実績があったので、スムーズに取得できました。
島根県内にも同じ免許を取得しようとしている企業があるのですが、輸出の実績が重要視される免許なので、その点で苦戦していると聞いています。
— 輸出する日本酒はどのようなコンセプトで造るのでしょうか。
「台中六十五号」はひきつづき造っていきますが、それに加えて、「台雲」という新しいブランドを立ち上げます。
「台中六十五号」は、台中65号という米を使うことは変えませんが、その他の製法などは毎年変えています。「台中六十五号」の醸造で得られたデータや経験をもとに、「台雲」は現地に受け入れられる食中酒を目指して造ります。
私が生まれた台南は、血液が砂糖でできていると言われるくらい、甘いものが多い地域なんです。台南の方々だけをターゲットにするわけではありませんが、甘口の日本酒にも挑戦していきたいと思っています。
「台中六十五号」は1種類ですが、「台雲」は山田錦(精米歩合:65%)を使った山廃と、同じ山田錦(55%)を使った高温糖化酛の2種類を造ってみようと思っています。
「台中六十五号」は個人のお客さんに買っていただく割合が多く、半分は個人のお客さん、半分は現地の居酒屋やレストランに卸す予定ですね。例年、台湾では12,000〜15,000円で販売されています。「台雲」は3,500円くらいにしたいと考えています。
— すでに酒造りが始まっているかと思いますが、新しい醸造所の感触はいかがでしょうか。
ゼロから立ち上げた蔵なので、蔵付きの菌がほとんどいないんです。特に山廃の仕込みについては、自然の乳酸菌がなかなか取り入れられず、酸を上げるのが難しいですね。
— 台湾以外の輸出先は考えていますか。
香港への輸出を検討しています。最初は台湾と香港に集中していきますが、いずれはシンガポールや欧米の国々にも輸出していきたいですね。
「台中六十五号」は海外のコンテストに積極的に出品するようにしていて、これは賞の獲得ではなく、各国の嗜好を掴むためにやっています。その傾向をもとに、商品の方向性を固めていきたいと思っています。
— 本格的な輸出開始はいつの予定でしょうか。
すべての瓶詰めが終わるのが2022年5月の予定で、そのころに輸出を始めたいです。
— 最後に、陳さんが輸出を通して伝えたい、日本酒の魅力とは何でしょうか。
私が日本酒業界に入ったのは、日本酒のおいしさに魅了されたからでした。日本酒はとても繊細で、同じ仕込みでも、造る人が変わればまったく違う味になる。その多様性が日本酒の魅力だと思うので、それを伝えていきたいですね。
(執筆/SAKETIMES編集部)