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豪雨による酒蔵浸水。秋田・出羽鶴酒造が受けた被害と復旧への道のりを現地からレポート

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去る2017年7月22日、豪雨に見舞われた秋田県南部の雄物川流域では、土砂崩れや鉄道線路の崩壊などが各地で起き、甚大な被害を出しました。

大仙市・出羽鶴酒造の裏手にある川でも、濁流が堤防を越え、蔵全体が浸水してしまう事態に陥っています。

過去に例を見ない水害で、1階のほとんどが浸水

蔵人やスタッフは無事だったものの、杜氏が蔵へ行ったときには、入り口のドアがなくなっていたのだそう。

さらに、川の容量を越えて、低地から水が溢れていました。周囲を見てみると、P箱や酒瓶が浮いており、泥水にまみれた木材が流されていました。

玄関の扉を回収し、他の物品もできるだけ高い場所へ。パッキングした酒粕や資材をパレットに積んでハンドリフトで移動させていると、堤防を越えた水が轟音とともに側溝から逆流し、あちこちの扉から水が噴出しました。あっという間に蔵は浸水。杜氏や蔵人たちは急いで避難せざるを得ませんでした。

雄物川をはじめとする同水系の河川が氾濫したほか、秋田県全土で浸水や土砂崩れなどの被害が発生したようです。

川の近くにある田んぼや道路が冠水したために主要道路が塞がってしまったり、家の1階が浸水して一時的に孤立状態になってしまったりと、豪雨の影響はかなり大きいものでした。

7月26日現在、豪雨はすっかり止みましたが、あたりには大量の泥とゴミが残されました。

倒壊した建物や床上まで浸水した家屋が、地域のあちこちで見られます。浸水した家財道具は、公民館や家の前に積まれていました。

農業機械の被害も大きかったようですね。田植え機やコンバインは1台の価格が高いため、農家を悩ませています。

出穂の季節を前に青々としている田んぼにも、用水路の決壊や砂礫の流入などの被害がありました。酒米の収量や価格にどのような影響があるのかは、現段階ではわかりません。

蔵は、もっともひどい場所で1.2mの床上浸水。精米所、米倉庫、釜場、槽場、詰場、貯酒蔵、事務室...1階のほとんどだけでなく、冷凍機や配電盤も浸水してしまいました。

難を逃れたのは、2,3階にある麹室、酒母室、分析室。商品はほとんど無事でしたが、一部の瓶貯蔵酒が被害を受けました。

蔵のある地域がもともと川の合流点だったので、昔の資料には、これまでにも何度か浸水被害があったと記録されています。しかし、これほどの水害は初めてだったそう。蔵が倒壊する心配はありませんが、あたり一面泥だらけで、酒造りに大きな被害が出てしまいました。

1mの浸水で、機材や酒に大きな影響が

1mの床上浸水ともなると、だいたいのものは沈んでしまいます。床に直置きしていた器具は、ほとんどが使用不能になりました。

来客用の長靴やスリッパ、木製の道具は蔵のあちこちに浮かんでいます。大型の冷蔵庫には中まで水が入り、精米に使うコンプレッサーはひっくり返ってしまいました。サーマルタンクも下部の機械が水にやられたようです。未使用の機械で浸水してしまったものもありました。

酒を入れたP箱も浸水。瓶のキャップは締めてありましたが、泥水に浸かってしまったため、処分しなければならないものもあります。

幸い、酒造期ではなかったので、米は入庫していませんでした。もし米も浸水していたと考えると、恐ろしいですね。

作業用の机は、引き出しの中身も含めて全部濡れてしまいました。事務用のPCは無事でしたが、バッテリー類やプリンターはすべて使用不能。記帳や帳簿も浸水していました。

深いピット(穴)がある槽場は特に浸水がひどく、槽の内部まで水が入っていました。搾った酒を貯めておく"待ち桶"を入れるための穴も泥だらけです。ヤブタは配管から掃除しなければなりません。

水道水はすぐに復旧しましたが、仕込水が出ません。地下から水を汲み上げるポンプ小屋が壊れたようですね。兄弟蔵の刈穂酒造から借りたタンクローリーを用いて、ピストン輸送でタンクに水を入れ、掃除に使います。

数日後、泥水が入ってしまった井戸や貯水タンクを掃除。ふだん貯められているのは綺麗な水ですが、泥と砂礫が堆積していました。

もはや何が何だかわからない状態の部屋もあります。ほとんどのものが水に浮かぶので、あちこちに散乱してしまい洗うのも一苦労。水に混じって油も浮いているので、しっかりと洗い流します。

タンクの酒は無事でした。しかし、一部の冷蔵機が壊れてしまったので、生酒を優先的に冷蔵タンクへ移動。数台あったポンプがすべて泥をかぶってしまい、酒の移動ができないため、刈穂酒造から借りてきました。

酒の流亡がなかったのは不幸中の幸いでしょう。

コンプレッサーなど、前頭部の大きな機械はひっくり返ってしまったため、元に戻してから運び出します。

大型機械へのダメージは大きいですね。精米機は破損した部分が多く、蔵自慢の遠心分離機もどうやら修理する必要がありそうです。

酒造りのスタートまであと2ヶ月。復旧を目指す蔵人たち

およそ2ヶ月後、10月1日に酒造りが始まります。この日までに、建物や設備、道具一式を洗わなければなりません。

洗って消毒したとしても、また酒造りに使えるかは別問題。泥をかぶってしまった機材に米や酒を触れさせるためには、かなり丹念に洗浄しなければ厳しいでしょう。

サーマルタンクなどの大きな機材は、それ自体を交換するのが難しいため、しばらくは様子を見ながら使うしかありません。ショートしてしまった配線もいくつかあり、電気の完全復旧もまだ先になる様子。作動確認すらできていない機械もあり、頭が痛いところです。

多量のお酒が亡失してしまうような被害はなかったため、28BYの酒は引き続き飲むことができるでしょう。また、製品の出荷関係にはあまり被害がありませんでした。

現状の課題は、29BYのスタートを切れるかどうか。復旧を急がなければなりません。

気温35℃になろうかという暑さのなか、まさか川が溢れて泥にまみれるとは、予想だにしなかった出来事でした。

それでもたまに笑っている蔵人たちは、ひとまず元気そう。さまざまな人の手を借りながら、復旧を目指していきます。

(文・イラスト/リンゴの魔術師)

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リンゴの魔術師

札幌生まれ、弘前大学人文学部に入学するも農学生命科学部を卒業。今は秋田で杜氏を目指し修行中。夏は技師、冬は麹室助手をやっています。造りを通して見た日本酒というものを書いてゆきたいと思います。お酒って、飲んでも考えてもおもしろいですよね。趣味はお絵かき、リンゴ彫刻、鉄道、雑魚釣り、花いじり、猫いじりなどなど。