鮮やかな赤色をバックに、大きく"まる"の文字。お酒売り場でひときわ目を引くそのパッケージを、目にしたことのある人は多いでしょう。発売から35年を迎えた「まる」は、国内売り上げNo.1(※)の日本酒ブランドへと成長しました。

今や、全国のスーパーやコンビニで手に入る手軽さ、手頃さを兼ね備えたお酒ですが、実は白鶴酒造が長年培ってきた高度な技術力と研究なしには生まれなかったお酒でもあるのです。今回は、そんな知られざる「まる」の魅力を紐解きます。

※インテージSRI調べ 日本酒 2018年1~12月累計販売金額(全国SM/CVS/酒DS計)

美味しさの秘訣は「白麹」と「ブレンド」

「『まる』、たしかに美味しいでしょう?」

席に着くなり、微笑みながら語り始めたのは、白鶴酒造の生産本部長を務める櫻井一雅さん。「まる」の誕生からこれまでを、ずっと見守ってきたひとりです。

白鶴酒造の生産本部長を務める櫻井一雅さん

白鶴酒造 生産本部長・櫻井一雅さん

「まる」が誕生したのは1984年。紙パック酒の需要が増すなかで、白鶴酒造でも新商品の開発がスタートします。コンセプトは、日常の食卓に寄り添う日本酒。それまで主流だったアルコール度数15%から、やや低めの13%を目指して試行錯誤を重ねました。

「単に今まで造っていたお酒の加水量を増やしたのでは、味わいも薄くなる。なにか手を加えないといけない」と考えた開発チーム。たどり着いたのは、 「白麹」と「ブレンド」でした。

「白麹を使おうと思ったのは偶然なんです。もともと単独のお酒として世に出そうとしていたのですが、とにかく酸が強かった。しかし、ブレンドのひとつとして考えたとき、おもしろいお酒ができることに気づいたんです」

白麹は、そもそも焼酎の製造に使われる麹です。今でこそ白麹を日本酒造りに活かしている蔵は増えていますが、当時はほとんど知られていませんでした。白鶴酒造では「まる」の開発において、この白麹を採用。いくつかの原酒とブレンドすることで、おいしさの柱としたのです。

「まる」の誕生秘話を語る櫻井さん

「『まる』は醸造方法が異なる6種類のお酒をブレンドしています。それぞれ個性がまったく異なるので、正確にブレンドしないと味が変わってしまう。どこでも手に入る日本酒ブランドこそ、いつ飲んでも同じ味じゃないといけませんからね」

そのための重要な責任を担うのが、「きき酒鑑定人エキスパート」と呼ばれるテイスティングの専門家たち。白鶴独自の認定試験である「きき酒鑑定人試験」において、継続して優秀な成績を収めたスペシャリストが、「まる」の味わいを常にチェックしています。

彼らによって、お酒が出荷されるまでに、実に6回もテイスティングが行われるそうです。さらには、店舗に並んでいる商品を定期的に購入し、品質劣化のチェックも欠かしません。なぜ、これほどまでに厳しい基準を設けたのでしょうか。

「口に入るものですから、官能検査は基本中の基本。いくら数値を合わせていても、最後は実際に飲んで"いつもの味"かどうかを確認しないと世には出せません」

「豊かなうまさ ふくらむ味わい」。パッケージに書かれたキャッチコピーの背景には、大胆なひらめきとプロフェッショナルならではの技が活きていました。

「まる」の製造現場に潜入!

ここで、「まる」が造られている現場を見せてもらうことに。案内されたのは本社に併設された「三号工場」。最新の技術をもとに、「まる」を含むレギュラー酒を年間を通して製造しています。

洗米、浸漬、蒸し......工程こそ一般的な日本酒の造りですが、年間約600回もの仕込みを行い、56本ものタンクが並ぶ様子からは、大手日本酒メーカーとしての風格を感じます。大型の機械がひっきりなしに稼働していました。

タンクが並ぶ白鶴酒造の3号蔵

とはいえ、お米を投入してボタンを押せばできあがるほど、酒造りは簡単ではありません。各工程で重要なのは、やはり人の手。たとえば、麹菌がムラなく付着しているか、発酵度合いの確認などは従業員の五感を駆使して行っています。

特にこだわるのは原料処理。全国各地から厳選した米を仕入れて、状況に合わせて使い分けており、当然ながら米の個性はバラバラ。それを基本のスペックに収まる原酒に仕上げるため、原料処理には細心の注意を払います。しかも、原料米は農産物検査で等級のついた米しか使わないという徹底ぶり。

「安い原材料を使えば、もっと安く造れる。でも、いいお酒を造るためには、いいお米が必要なんです。『米の値段は上下する。高いときは歯を食いしばってやれ』。先輩からは、そんな風に教えられました」

白鶴酒造「まる」

さらに、「市場に出て時間が経っても、『まる』は劣化が非常に少ないんです」と続ける櫻井さん。

「いいお米は、精米時に脂質やたんぱく質を効果的に取り除くことができます。これらの成分はお酒になると劣化を引き起こす原因となるので、いいお米を使うことはお酒の劣化を防ぐことにもつながっているんです」

いいお酒を造るために、いいお米を使う。その徹底されたこだわりが、「まる」の高い品質を生み出しているのです。

「日本で一番身近な日本酒」であるために

「まる」という印象的なネーミング。当初、社内では、斬新すぎるという理由から一度は却下されたそう。しかし、「おいしさをシンプルに表現しつつ、こんなにインパクトのある名前はない」として、晴れて採用されたというエピソードがあります。覚えやすく、一度見たら忘れない。そんな名前も、人気である理由のひとつです。

また、漁港をロケ地にしたCMも話題を呼び、売り上げに貢献。飲む人のライフスタイルに合わせた10種類のサイズ展開は、「日本で一番身近な日本酒でありたい」という思いの表れです。

「実は料理の相性もずっと追いかけているんです。パッケージには、『幅広い料理に合います』と書いてありますよね。 これは実際にいろいろな料理との相性を検証しています。食中酒ですから、料理の邪魔をしないことが第一条件。和食はもちろん、洋食にも合わせました。また、2〜3合を飲んで、飲み続けて飽きないかどうかも調べています」

笑顔で話す櫻井さん

櫻井さんの話からひしひしと伝わる、徹底したユーザー目線。しかし、時代が移り変わり、日本酒業界への風向きも変化していくなかで、「まる」の掲げる「変わらない」というスタンスにジレンマを感じることはないのでしょうか。

「もちろん、まったく同じというわけではありません。よりおいしいと感じていただけるよう、味わいのリニューアルなどはしています。しかし、お客様の嗜好や時代のニーズに寄り添った、あくまで世の中の変化に合わせた調整です。強いて言えば、"変わらないために変わる"ということでしょうか」

「今後、日本の人口が減り、長年のファンの高齢化も進むなかで、『まる』がどうあるべきか考えなければならない」と、櫻井さん。それでも、白鶴酒造の社是である、「時をこえ 親しみの心をおくる」を体現する日本酒でありたいとの思いは揺らぎません。

「自分たちでも一番難しいことに挑戦しているなと感じます。誰が飲んでもうまい酒。それを探し求めた35年間でしたし、これからも変わらず追求していくことが私たちの責任だと思っています」

白鶴酒造「まる」

いわゆるレギュラー酒の製造では、基本となる原酒があって、微調整のためにブレンドするという造り方が圧倒的に多いなか、はじめから6種類のお酒をブレンドして造られる「まる」。他社にはない唯一無二の方法を続けてこられたのも、「お客さんのご愛顧があったから」と櫻井さんは語ります。だからこそ、「まる」は「平成で一番売れた酒」(※)になりました。

「手頃な値段」=「おいしくない」と評価されていたら、これほど愛飲される結果にはならなかったはず。白鶴酒造の高い技術力が生んだ「まる」。まだ飲んだことのない方は、これを機にぜひ手にとってみてください。きっと、その魅力に気づくことでしょう。

(※)日経POSセレクション『平成売上No.1』

(取材・文/渡部あきこ)

sponsored by 白鶴酒造株式会社

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