銘醸地・灘で創業し、日本有数の酒造メーカーとして名を馳せる白鶴酒造ですが、近年、米作りにも注力していることをご存知でしょうか。10年ほど前から自社栽培をはじめ、2015年には農業法人「白鶴ファーム」を設立。本格的に農業に参入しました。

白鶴錦の田んぼ

白鶴酒造は、「山田錦に優るとも劣らない米を生み出す」をコンセプトに、山田錦の弟にあたる酒米「白鶴錦」を独自に開発したことでも有名です。それでもなお、原料米への並々ならぬこだわりは、さらに高まっているようにも感じられます。

なぜ、白鶴酒造は自ら米作りに取り組むのか。その集大成としてリリースされた「翔雲」シリーズにも触れながら紐解いていきます。

「白鶴ファーム」を通して農業を学ぶ

兵庫県の中ほどに位置する丹波篠山市は、古くから京都との交通の要衝として栄えた自然豊かなまちで、山々に囲まれ、寒暖差の大きい立地を活かした農業が盛んです。松茸・栗・黒豆などの特産品は全国的にも有名で、米作りにも適した環境となっています。

また、日本三大杜氏のひとつ「丹波杜氏」のお膝元である丹波篠山市。丹波杜氏が代々酒造りを担ってきた白鶴酒造にとって、特に縁深い土地でもあります。

兵庫県・丹波篠山市の水田風景

2009年には「農業経営基盤強化促進法(基盤法)」が改正され、農家でない個人や法人も、要件を満たせば農地の使用貸借権利を設定できるようになり、多くの企業が農業に参入するようになりました。かねてより酒米の自社栽培と開発を進めてきた白鶴酒造は、これを好機ととらえ、2015年、丹波篠山市に100%出資による「白鶴ファーム」を設立しました。

「白鶴ファーム」代表の永井英雄さん

白鶴ファーム 代表・永井英雄さん

現在、代表を務めるのは、白鶴酒造で研究開発や技術分野に携わった経験を持つ永井英雄さん。白鶴ファームの意義について、次のように話します。

「白鶴の酒造り、醸造について知り尽くした私たちが、白鶴に適したお米を栽培するにはどうすればいいかを実践していく場所であり、長期的な目線で農業から得られる知見や経験を酒造りに還元する場所です。

今まで、白鶴には米の栽培に知見のある人材はいませんでした。ファームを通して農業知識を持つ人材が育っていくことは、会社として意味のあることだと考えています」

「白鶴ファーム」の水田

当初は5ヘクタールほどだった作付面積も、今年は30ヘクタールにまで拡大。そのうちの半分以上で白鶴錦が栽培されています。収穫した米はJAの等級検査を受けたあと、白鶴酒造が全量を買い上げる仕組みです。

「企業が行う農業に将来性があることを伝えたい」と、真剣に米作りと向き合っています。

地元農家の協力と、緻密な土壌研究

白鶴ファームで働いているのは、白鶴酒造からの出向者と、丹波篠山市にある子会社・櫻酒造の蔵人たち。しかし、当初の農業経験者は0人だったそう。そんなとき、立ち上げに力を貸してくれたのは、地元農家の方々でした。

稲の成長を見守る地元農家の方と白鶴ファームの社員

「篠山にはこの地で長年米作りをしてきた熟練の農家の方がいらっしゃいます。まずは、農家の方々との情報交換や勉強会を通じて学びを深めるとともに、地元での信頼感を得ていくことを大事にしました」

たとえば、山沿いにある田んぼは日陰になりやすく、獣害の恐れもあります。そういった場所で栽培するコツは、地元の方から学んだそう。また、農家の方の高齢化によって耕作放棄地となる予定だった田んぼを借り上げたり、作業委託を受けることで、休耕田を増やさない取り組みにも力を入れているといいます。

「田んぼはまちの景観の一部です。草刈りなどの手入れもこまめに行い、託してくれた大事な風景を守っています。地域との連携ができるにつれて、この地で農業をする責任感も強まりました」

豊かに実った「白鶴錦」

一方、栽培方法では土壌の特性を見極めるため、市内のおよそ160枚の田んぼを地区ごとにサンプリングしてデータ化。白鶴酒造の研究チームが分析して圃場ごとに肥料を変えるなど、より高品質な米を作るため、試行錯誤を重ねています。

「土の中に窒素が多くなると、お米にも影響してしまい、雑味の多い酒になりやすいんです。今は、ファームで育てたお米で造ったお酒の品質や成分を分析しています。自社の田んぼなので自由が効きますし、この後の酒造りの工程を考えて対策できることは利点ですね」

昨年は暑い日が続きましたが、ていねいな手入れのおかげか、白鶴ファームで育てた白鶴錦は溶けやすく、品質も安定していたそう。米作りから酒造りまで一貫してこだわりを持つ姿勢が、酒質の向上にもつながっています。

白鶴の"今"を体現する「翔雲」

では、白鶴ファームで育ったお米はどんなお酒になるのか。その答えは、今年3月に大幅リニューアルを遂げた「翔雲 白鶴錦」シリーズです。

(左)「白鶴 翔雲 純米大吟醸 自社栽培米白鶴錦 」、(右)「白鶴 翔雲 純米吟醸 白鶴錦 」

(左)「白鶴 翔雲 純米大吟醸 自社栽培白鶴錦 」、(右)「白鶴 翔雲 純米吟醸 白鶴錦 」

「翔雲」自体は以前からある銘柄ですが、日本酒の高級化や嗜好性の高まりなどのトレンドをもとに、白鶴錦を原料米とした2商品をリリースしました。

「白鶴 翔雲 純米大吟醸 自社栽培白鶴錦 」は白鶴ファームで育てた白鶴錦のみを使用。「白鶴 翔雲 純米吟醸 白鶴錦 」は兵庫県内のほかの地域で生産された白鶴錦と、産地を明確に区別しています。

白鶴酒造マーケティング本部の佐田尚隆さん

白鶴酒造 マーケティング本部・佐田尚隆さん

マーケティング本部の佐田尚隆さんは、「単純なスペック勝負ではなく、蔵の想いや理想とする姿勢を体現したお酒を造るとしたら、白鶴はなにを大切にするべきかを考えた」と話します。そこで思い至ったのが、自社で開発した酒米である白鶴錦、そして白鶴ファームの存在です。

「白鶴の挑戦を世の中に伝えたいのはもちろん、当社のビジョンや技術力の高さにも目を向けてほしいというねらいがありました」

進化した「翔雲」のベースとなっているのは、ワインにより一般的になった概念である「テロワール」。原料を取り巻く土壌や気候など、すべての環境が酒質に影響するという考え方です。どちらの「翔雲」も特殊な造り方はせず、ありのままの白鶴錦の個性を表現しています。

「翔雲」の造り

「基本的な技術は惜しみなく注ぎながらも、造り手側が主張しない設計で造っています。永井さんたちとも議論を重ね、『こういうお米を作ってほしい』と希望を伝えたりもしました」

できあがったお酒は、華やかでしっかりと米の旨みを感じられる味わい。甘みと酸が複雑に調和し、上品な余韻も残ります。

「お米のでき具合は毎年違いますし、栽培方法も進化していくことでしょう。その変化を造りにも反映させ、年を重ねるごとにおいしいものを造っていきたいと思っています。米作りと酒造り、ふたつの歯車がしっかり噛み合ってこそ商品として完成する、白鶴の"今"を感じられるお酒です」

新たな挑戦は、社内の意識も変化させる

白鶴酒造と白鶴ファームが手を取り合い、切磋琢磨することで育まれる「翔雲」。

お米の品質が直接造りに反映される経験は、「互いに妥協したものづくりはできないという責任感を生み、その積み重ねがブランドとしての強みになっていく」と佐田さん。その一方、永井さんも「米作りと酒造りをフィードバックし合うことで、決まりきったやり方ではなく、毎年違う挑戦をしていくおもしろさがある」と語ります。

組織同士が有機的に作用し合う様子は、社内の意識変化にもつながりました。自社で米作りを手がけているという実績が広く共有され、直接関わりがない社員でもファームに足を運ぶほど、社内での関心が高まっているそう。

「たとえば、営業担当でも、商品を紹介するときにお米の話もできるようになりますよね。米作りや酒造りに携わってる社員にかかわらず、お米に詳しい人が白鶴に増えたら、それは大きな強みになるのではないでしょうか」(永井さん)

白鶴ファームの取り組みが「翔雲」に活かされ、社内の空気をも変えていく。白鶴酒造が挑む農業には、お米の収穫以上に、企業として得られる大きな価値があったようです。

「翔雲 白鶴錦」シリーズ

看板商品の「まる」に代表される白鶴酒造の商品コンセプトは、"いつでも変わらない味"にありました。しかし、それは造り手側から見たとき、積極的に味を変えられないことの裏返しでもあったのです。

その点、「翔雲」は酒造りと米作りの挑戦をダイレクトに発信し、変化を楽しむお酒として生まれ変わりました。

「普段の白鶴とは違う表情を楽しんでほしい」。そんな想いが貫かれ、これからの白鶴酒造を象徴する存在となっていくのでしょう。白鶴酒造の本気がうかがえる「翔雲」。ぜひ味わってみてください。

白鶴 翔雲 純米大吟醸 自社栽培白鶴錦

  • 原材料名:米(国産)、米こうじ(国産米)
  • 原料米:兵庫県丹波篠山市産「白鶴錦」100%(白鶴ファーム生産)
  • 精米歩合:50%
  • 価格:5,000円(税別)

白鶴 翔雲 純米吟醸 白鶴錦

  • 原材料名:米(国産)、米こうじ(国産米)
  • 原料米:兵庫県産「白鶴錦」100%
  • 精米歩合:55%
  • 価格:【化粧箱入り】2,300円(税別)/【化粧箱なし】2,000円(税別)

(取材・文/渡部あきこ)

sponsored by 白鶴酒造株式会社

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