2023年4月12日(水)、業界大手の日本酒メーカー・白鶴酒造の若手社員による別鶴プロジェクトから、新しい商品が発売されます。
2018年に第1弾、2021年に第2弾がリリースされ、今回は第3弾となりました。メンバーを一新して、プロジェクト第2期として開発された新しい商品は、くつろぎの時間に寄り添う日本酒。その名も「フクロウのうたたね」と「ウミネコのひとやすみ」です。
果たしてどのような日本酒に仕上がったのでしょうか。プロジェクトメンバーを取材しました。
別鶴プロジェクトは第2期へ
「これまでの白鶴とは違ったお酒を造りたい」「誰も味わったことのない別格のお酒を造りたい」
そんな想いを持った20~30代の若手社員が立ち上げた、別鶴プロジェクト。
特に日本酒を飲み慣れていない若い世代に向けて新しい商品を開発するという試みは、「老舗」や「大手」のイメージが先行しがちな白鶴酒造の印象を変える、チャレンジングな取り組みでした。
第1弾・第2弾の商品は、白鶴酒造と接点のなかった方々に飲んでいただくことができ、大きな成果を挙げました。「ここで終わるのはもったいない」と、2019年10月に新たなメンバーが招集され、別鶴プロジェクトの第2期がスタート。
第1期にも参画し、第2期のリーダーを務めた研究室の平井猛博さんは、当時を振り返ります。
「普段の会話から、プロジェクトに興味がありそうな人はなんとなくわかっていたので、まずはその人たちに声をかけていきました。もともと、部署の垣根を越えて交流する機会もあったので、ほとんどのメンバーはお互いに顔見知りです」
平井さんと同じ研究室に所属する下司友仁香さんもそのひとり。第1弾が発売されたころに入社した下司さんは、当時から、別鶴プロジェクトに興味があったのだそう。
「どちらかと言うと堅いイメージの会社だと思って入社したので、若手がこんなにおもしろい日本酒を造っているなんてすごいと思っていたんです。声をかけてもらった時は、入社2年目の私でも大丈夫なのかと不安でしたが、参加できるという期待感が上回りました」
平井さんの声かけで集まったメンバーは7人。その後、多少の入れ替わりはあったものの、最終的には社内のさまざまな部署から幅広い面々がそろいました。
コロナ禍に始まった試行錯誤の日々
しかし、プロジェクトの第2期がスタートして間もなく、コロナ禍に突入。思うように集まれない時期が続きました。
特に苦労したのが、コンセプトの設計。日本酒を飲み慣れていない若い世代の人に日本酒の魅力を知ってほしいという想いは踏襲しつつも、「どんなシーンを想定すべきか、とても悩みました」と平井さんは話します。
「第1弾・第2弾は、人が集まるホームパーティなどのシーンをイメージして開発しました。それを受けて、家の中でひとりで楽しめる日本酒も欲しいという声があったんです。ただ、ニッチすぎるのではないかという意見もあり、気持ちが揺らいでいました」
コンセプトの設計と並行して日本酒の試作も進める中で、家の中でゆっくりと楽しめる日本酒にふさわしい酒質をみんなで考えることに。食中酒ではなく、食事や家事が終わって一息つく時間に、スマホで動画やSNSを見たりしながら飲むシーンを想定し、味わいを模索しました。
「食中酒の場合は、次のひと口への間隔が短いので、キレの良い味が好まれますが、"ながら飲み"を前提にすると、ひと口ごとの間隔は長いはず。そこで、複雑な味わいや長い余韻を楽しめる酒質にしたいと考えました」
"ながら飲み"の体験としてイメージしたのは、ウイスキー。アルコール類の他にも、紅茶やコーヒーの体験も参考にしました。問題は、どんな味わいなら、そんな体験ができるのか。そして、どんな製造方法なら、そんな味わいが出せるのか。
最年少の下司さんは何度も頭を捻りますが、「知識も経験もなかったので、意見やアイデアを出せないこともありました」と、歯がゆい思いもしたのだそう。しかし、さまざまな意見を交わして議論を重ねる先輩たちの姿には、大いに刺激を受けたと言います。
第2期が始動してから約1年半。メンバーは、自分たちの造りたい日本酒について、何度も議論をしました。その結果、「コロナ禍が落ち着いても、自宅での時間を大切にする流れは続くだろう」という考えのもと、コンセプトは"自宅でゆっくりとくつろぎたい時に飲む日本酒"に決まりました。
理想の余韻を求めて、ワイン樽貯蔵に挑戦
第3弾の日本酒は、「フクロウのうたたね」と「ウミネコのひとやすみ」の2商品。
独創的なネーミングは、音楽にまつわる表現など、さまざまな意見が出ましたが、最終的には動物に落ち着きました。
「飲んでもらうシーンを想像し、ゆっくりと羽をやすめるイメージを大事に名付けました。六甲山に生息しているフクロウと、神戸港にいるウミネコで、神戸らしさも意識しています」(下司さん)
「フクロウのうたたね」は、"しずかに時が流れる一日の終わりに"、「ウミネコのひとやすみ」は、"やわらかなひかり差し込む昼下がりに"、日本酒の余韻とともにゆったりとした時間を楽しむシーンをイメージしています。
これまでの商品と同様、斬新なネーミングですが、ユニークなのは名前だけではありません。製法にも、新しいチャレンジがありました。
ひとつは、生酛造り。麹菌や酵母に加えて乳酸菌の働きを活かして、約2ヶ月もの間、手間暇をかけて仕込むことで、通常の製法よりも複雑な味わいを表現しました。
そしてもうひとつは、ワイン樽貯蔵。完成したお酒の一部をワイン樽に貯蔵し、もとのお酒に再度ブレンドするという手法です。「フクロウのうたたね」は赤ワインの樽、「ウミネコのひとやすみ」は白ワインの樽を使用し、香りや味わいの幅を広げています。
「味わいの余韻という観点で注目したのが、ワイン樽でした。全体の味わいに深みや厚みを与えるためには、ワイン樽貯蔵によって生まれる複雑な香味は取り入れたい要素だったんです。第1弾の商品では、搾った日本酒の一部を杉樽に入れて寝かせたのですが、そこから発想しました」(平井さん)
ワイン樽は地元の「神戸ワイナリー」に協力を依頼し、理想の酒質について相談しながら、5年ほど使い込んだものを選びました。「フクロウのうたたね」を貯蔵している樽は、樽の内側をしっかりと焼いたもの、「ウミネコのひとやすみ」の樽は、木のニュアンスが感じられるように、軽めに焼かれたものです。どちらも低温で8ヶ月貯蔵することで理想の余韻を引き出しました。
ベースとなるお酒も、それぞれのシーンに合った味わいに仕上がるように工夫しています。原料は、白鶴酒造が自社開発した酒米「白鶴錦」を使用。酵母は、今回がデビューとなる自社オリジナルの酵母が採用されました。
最終的に、試作したサンプルは200を超え、試した酵母は20種類にも及びました。
「フクロウのうたたね」はやさしい甘みのある、ふくよかで芳醇な味わい。「ウミネコのひとやすみ」は軽快で爽やかな酸味が感じられ、レモンティーのような印象もあります。どちらも、アルコール分は10〜12%に抑えながらも、波に揺られているような心地良い余韻を感じることができます。
新しい価値を提案しながら、自分たちらしさも表現する
かわいらしいイラストをあしらったラベルも完成し、あとは発売を待つばかり。ふたりに今の心境を聞いてみました。
「第1期は想像以上の反響があったので、緊張しています。ただ、本当に良いものができたと確信しています」(下司さん)
「社内外の期待が大きいので、プレッシャーもありました。特に今回は、リーダーとして携わってきたので、思い入れは強いです。新しい価値を提案しながら、自分たちらしさも表現する。そんなチャレンジでした」(平井さん)
若い世代ならではの感性とアイデアで新しい商品開発に取り組んでいる別鶴プロジェクト。第2期のメンバーもさまざまな困難を乗り越え、理想を形にしました。果たして今回はどのような反響があるのでしょうか。
(取材・文:渡部あきこ/編集:SAKETIMES)
◎商品情報
- 商品名:フクロウのうたたね
- 特長:
りんごのコンポートのような豊かな甘みと複雑な余韻
赤ワイン樽に貯蔵したお酒を使用した生酛の純米酒 - おすすめの飲用シーン:しずかに時が流れる一日の終わりに
- おすすめのペアリング:ドライフルーツ、ダークチョコレート、うずらの煮卵
- 原材料:米(国産)、米こうじ(国産米)
- 特定名称:純米酒
- 精米歩合:70%
- アルコール分:11%以上12%未満
- 容量:500mL
- 価格:2,000円(税別)
- 購入できる場所:公式オンラインショップを含めた直営店限定
- 商品名:ウミネコのひとやすみ
- 特長:
レモンティーのような甘酸っぱさと爽やかな余韻
白ワイン樽に貯蔵したお酒を使用した生酛の純米酒 - おすすめの飲用シーン:やわらかなひかり差し込む昼下がりに
- おすすめのペアリング:カマンベールチーズ、ナッツ、ハーブソーセージ
- 原材料:米(国産)、米こうじ(国産米)
- 特定名称:純米酒
- 精米歩合:70%
- アルコール分:10%以上11%未満
- 容量:500mL
- 価格:2,000円(税別)
- 購入できる場所:公式オンラインショップを含めた直営店限定
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