自社ブランドの梅酒造り、クラフトビールの醸造、新卒採用への注力など、チャレンジングな取り組みが注目されている平和酒造。これまで、業界に新しい道筋をつくり続けてきました。

そんな平和酒造の次なる取り組みは、なんと宇宙事業。実業家の堀江貴文さんが出資する宇宙ベンチャー・インターステラテクノロジズが開発した観測ロケット「ペイターズドリーム MOMO4号機」の燃料の一部として、平和酒造の「紀土」が使われることになったのです。

平和酒造の代表取締役社長・山本典正さん

平和酒造の代表取締役社長・山本典正さん

初号機は高度約20kmまで飛んだものの宇宙には届かず、2号機の打ち上げは失敗に終わりましたが、3号機は無事に成功。その時の様子を「ゆっくりと空に向かっていって、とても長く感じました」と語るのは、平和酒造の代表取締役社長・山本典正さんです。

宇宙ロケットと日本酒。異なるふたつの産業が、なぜ噛み合うことになったのでしょうか。山本さんに話を伺い、その背景を紐解きます。

「紀土」を燃料に使って、ロケットが飛ぶ

堀江さんと山本さんの出会いは、堀江さんが展開している会員制レストラン「WAGYUMAFIA(和牛マフィア)」のイベント。日本酒好きである堀江さんから平和酒造に声がかかり、それをきっかけに親交が始まったといいます。

2019年3月、「紀土」を「ペイターズドリーム MOMO4号機」の燃料として使用したいと、堀江さんから打診がありました。ふたつ返事で承諾したものの、当時はまだ具体的なイメージは浮かんでいなかったとのこと。そして、3号機の打ち上げ前日である5月3日に、燃料に使われる日本酒「紀土」をコラボ商品としてクラウドファンディングで販売しようと話がまとまりました。

「同じお酒を買ってくれた人は、文字通りの一口スポンサーになれます。国産のロケットを、国産の日本酒を通してみんなで飛ばそうという思いから、クラウドファンディングでの販売を決めました」(山本さん)

「ペイターズドリーム MOMO4号機」はエタノールを燃料とするロケット。平和酒造の日本酒を蒸留し、燃料へ添加することで宇宙を目指します。その添加されるお酒こそ、6月に発売された「ペイターズドリーム MOMO4号機」の応援酒「紀土 純米大吟醸 宙へ!!」です。

「紀土 純米大吟醸 宙へ!!」

「紀土 純米大吟醸 宙へ!!」

「紀土 純米大吟醸」は以前から平和酒造で造られているお酒ですが、宇宙へ飛ぶのにふさわしいロットのタンクを「スケールが大きく、綺麗で、香りが高いもの」という基準で選んだそう。そのタンクを搾り、「紀土 純米大吟醸 宙へ!!」が誕生しました。

原材料や人件費などの必要費用を除いたほぼすべての販売利益を、スポンサー費用としてインターステラテクノロジズに提供。今後のロケット開発や、打ち上げの費用に充てられる予定です。

「日本酒業界はチャンスに満ち溢れている」

異例のコラボについて、「もともと宇宙に興味があったのか」とよく聞かれるという山本さん。しかし、実際にはほとんど興味はなかったといいます。

それでは、なぜ宇宙事業に投資しようと思ったのかを伺うと、「それは、人です」と断言。

インターステラテクノロジズの皆さん

宇宙ベンチャー・インターステラテクノロジズの皆さん

「堀江さん、そしてインターステラテクノロジズの社員の方々にも人間味があり、そこに惚れました。堀江さんが宇宙に懸ける情熱を聞いて、素直に手伝いたいと思ったんです。また、若い社員が多く、平和酒造との共通点も多いと感じましたね。

また、国内産業という意味では我々も同じ。メイドインジャパンのものづくりでコラボしたい気持ちがあり、伝統(日本酒)と先端技術(ロケット)が掛け合わさるとおもしろいのではないかと思いました」(山本さん)

ロケット製作の作業風景

日本酒業界は、国内出荷量が1973年をピークに右肩下がりを続けていて、衰退産業といわれています。大量生産・大量消費の時代が終わり、少子高齢化によって人口は減少。縮小する市場では、先行投資をして新しいことを始める企業が少ないのが現状です。

しかし、「競争相手が少ない市場はチャンスに満ちている」と山本さんは話します。

「疲弊している産業だからこそ、新たなチャレンジをしなければならないと考えています。ロケットビジネスも競争相手が少なく、まだまだチャンスに満ち溢れている。そのような意味では、インターステラテクノロジズさんと平和酒造が歩む道は似ているかもしれません」

今回のコラボも、新たなチャレンジのひとつ。山本さんが「新たな化学反応が生まれると期待しています」と話すように、業界の新しい道を切り開こうとする意思を持ち、常に業界の先頭を走り続ける力強い姿を感じました。

「業界のファーストペンギンでありたい」

宇宙事業とのコラボは、酒蔵として初の試みです。平和酒造内ではどのような反応だったのでしょうか。

「コラボのことを伝えると、みんな驚くのと同時にワクワクしていました。私の仕事は蔵人たちを驚かせることだと思っています。特に、今回のコラボでは自分の役割を果たせたんじゃないかな」と山本さんは話します。

今まで、周りが行っていなかったことを実現させる。中田英寿さんがプロデュースした「キットカット」シリーズの新フレーバー「キットカット 梅酒 鶴梅」のコラボもそのひとつでした。

「キットカット 梅酒 鶴梅」

2018年に発売された「キットカット 梅酒 鶴梅」

「平和酒造のチャレンジを、社内全員が誇りに思ってくれていると思います」と話す山本さん。ひたすらにチャレンジを続けるその原動力を伺うと、「業界が広がるような、新しいルートを開拓したい」と答えます。

「日本酒業界のファーストペンギンであり、チャレンジングな酒蔵でありたい。常にそう思っています。日本酒業界は衰退産業などと言われますが、同時に可能性もある。チャレンジャーが増えることにより、伸び代はあると感じますね。

そのためにも、私たちはファイティングポーズをとり続けなければならない。これまでになかった新しいルートを開拓することで、他の酒蔵さんの道しるべのような存在になりたい。2番手、3番手と、他の酒蔵さんに続いてチャレンジしてもらえたら、より業界に広がりが生まれると信じています」(山本さん)

平和酒造が先頭を走り続け、その背中を見せることで次のチャレンジャーが生まれる。これが平和酒造がコラボを進める原動力であり、業界をより良い方向へと導くのでしょう。

「今回のコラボは、本質的なところは酒造りと違うかもしれません。しかし、遊び心は大事。ためらわずにアクセルを踏んでいきたい」と言い切れるのは、酒造りに真摯に向き合っているから。

酒造りに対して真っ直ぐな思いが根底にあるからこそ、ファイティングポーズをとり続けることができるのでしょう。

ロケットの打ち上げは7月13日!

「紀土 純米大吟醸 宙へ!!」を燃料としたロケット「ペイターズドリーム MOMO4号機」の打ち上げは、7月13日(土)。

日本酒を燃料にするほか、宇宙から紙飛行機を飛ばすなど、ロマン溢れるミッションが詰まっています。山本さんは、どんな気持ちでその日を待っているのでしょうか。

「日本酒業界にとって、おもしろい出来事になればいいと思っています。もともとは遊び心、おもしろそうという単純な発想から始まりました。童心に帰ってこのコラボを楽しんでほしい。そして、みんなと共有したいですね」(山本さん)

平和酒造の代表取締役社長・山本典正さん

2018年は「キットカット 梅酒 鶴梅」の発売、2019年は宇宙事業とのコラボ。続いて、2020年の展開を伺うと「自ら仕掛けることをやってみたいですね。自分たちの挑戦というより、業界への挑戦です」と、未来を見据えた眼差しで語ります。

以前の記事で、山本さんは「平和酒造だけではなく日本酒の酒蔵全体を、より近代的なものに変えていきたい」と話し、常に改革と躍進を続ける平和酒造。今後の展開にも、期待が高まります。

「私たちのコラボを楽しんでほしい」という山本さんの思いを受け取り、「紀土 純米大吟醸 宙へ!!」を飲みながら、打ち上げの日を楽しみに待ちましょう。

(取材・文/まゆみ)

sponsored by 平和酒造株式会社

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