2020年の「IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)」Sake部門で、平和酒造(和歌山県)の「無量山 純米吟醸」が最優秀賞である「チャンピオン・サケ」の栄冠に輝きました。また、同社は2年連続となる「サケ・ブリュワリー・オブ・ザ・イヤー」も獲得しました。
国内外で高い評価を得ている平和酒造ですが、その背景には代表取締役社長の山本典正さんが率いる、高い「チーム力」があります。和歌山県海南市にある酒蔵を訪問し、成果を生み出すチーム力について、話をうかがいました。
世界的な日本酒コンテストでの快挙
「IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)」は、世界で最も大きな影響力を持つと言われているワインの品評会です。Sake部門は2007年から始まりました。
ブラインドテイスティングによって、9つのカテゴリー「普通酒」「純米酒」「純米吟醸酒」「純米大吟醸酒」「本醸造酒」「吟醸酒」「大吟醸酒」「スパークリング」「古酒」でそれぞれトロフィー賞(部門最高賞)を選出し、その中から最優秀賞「チャンピオン・サケ」を決定します。
さらに、出品したすべての日本酒で高評価を得た酒蔵には、「サケ・ブリュワリー・オブ・ザ・イヤー」という賞が与えられます。
「2019年にサケ・ブリュワリー・オブ・ザ・イヤーをいただいたので、2020年はチャンピオン・サケを目指していました。純米大吟醸酒の部門で『紀土 純米大吟醸 精米歩合四十』が、純米吟醸酒の部門で『紀土 無量山 純米吟醸』がトロフィー賞に選ばれたので、チャンスがあるかもしれないと思っていました」
そう話すのは、平和酒造の代表取締役社長・山本典正さん。山本さんは、IWCについて、「世界一の日本酒を決めるコンテストとして重視している」といいます。
「2020年は新型コロナウイルスの影響があり、『全国新酒鑑評会』の金賞の審査会や『SAKE COMPETITION』が開催されず、IWCに望みを託していました。サケ・ブリュワリー・オブ・ザ・イヤーを2年連続でいただけるとは思っていませんでしたし、チャンピオン・サケを同時受賞するとも考えていなかったので、正直驚きましたね」
サケ・ブリュワリー・オブ・ザ・イヤーの連続受賞、サケ・ブリュワリー・オブ・ザ・イヤーとチャンピオン・サケの同時受賞は、Sake部門が設立されて以来、初めての快挙です。
「開催地のロンドンに行けなかったので、Zoomで発表会に参加しました。ネガティブな時世の中で、明るいニュースをいただけたのはうれしいことですね。チャンピオン・サケの受賞は蔵全体の目標としていたので、みんなで喜びを分かち合いました」
全員の力が結集した「チーム平和酒造」
快挙を成し遂げられた理由を尋ねると、山本さんからは「社員力」と回答がありました。
「特に2019年くらいから、社員同士のチームワークが向上していました。日々の酒造りについてみんなで改善策を提案し、ディスカッションする動きが生まれていたんです。酒質もどんどん良くなっている実感がありましたね」
山本さんは、経営者として、社内でフラットなコミュニケーションが行われるように努めているといいます。
「杜氏がトップにいて、その下に蔵人がいる組織ではなく、全員が横並びになっているイメージです。社内の情報が『横』に流れるように心がけています」
杜氏の柴田英道さんは、今回の成果について、「とにかくていねいにやっただけですよ」と話します。
「新しく変えたことは特にありません。ただ、昨シーズンから『チーム平和酒造』が完成しつつあると感じていました。杜氏や蔵人が注目されがちですが、ラベルを貼ってくれるパートの方々も含め、全員の力がなければ、お客様にベストなものを提供することはできません。
社長が『紀土』を広め、お客様からの『おいしい』というリアクションを還元し、その酒造りに関わっていることを全員が誇りに思う。そんな良い循環がありました」
中小企業としての酒蔵の経営論を紹介した書籍『個が立つ組織』(日経BP)を出版している山本さんに、「良い組織」の条件をたずねました。
「成果を上げるべき人が成果を上げ、評価されるべき人が評価される組織が『良い組織』だと思います。ここでいう成果とは、社会的に良い評価を受けること。つまり、自分のつくった商品が売れ、そしてリピートしていただけることです」
スタッフへの給料を業界内の他社と比較して高めに設定しているのも、働き手のモチベーションを維持するための工夫といえるでしょう。
「大卒新卒のみの採用を始めたとき、彼らが同窓会へ参加したときに胸を張れるようにしたいと思いました。『特殊な道に行ったから給料が少ないのは当たり前』と思われないように。そのかわり、一人あたりの売上高を重視し、少数精鋭のチームにこだわっています」
現在、平和酒造の正社員は17名。パートも含めた約50名のスタッフが一丸となり、酒造りに取り組んでいます。
「任せること」が、主体性を育む
酒造りをマニュアル化してスタッフ全員で共有し、生産性の安定を図る平和酒造。一方で、蔵人それぞれが主体的に酒造りに取り組めるよう、仕込みタンク一本を蔵人一人が担当する「責任仕込み」も行っています。その意図を柴田杜氏にうかがいました。
「通常、新入社員は掃除などの基本的な仕事を任されるので、モチベーションが下がりがちです。私が新人のころは、酒米の蒸しで3年、酛造りで3年。15年経ってようやく純米酒を造らせてもらえる世界でした。いまの平和酒造では、1年目から酒造りのすべての工程に携われるんです」
毎年、酒造りが始まるころに蔵人全員でミーティングを行い、目指す酒質について話し合うほか、常に情報はこまめに共有しているそうです。
「全員がマニュアルにそって同じレシピで造るのに、どのタンクも違う味になるんです。ものづくりっておもしろいですよね」と柴田さんは微笑みます。
山本さんはこうした取り組みについて、このように解説してくれました。
「世の中の企業は『上司』が権限を持ちすぎているケースが多いので、各社員へ権限を移譲するようにしています。自由になると同時に『責任』が生まれ、本人の創意工夫や努力が求められる状態になるんです」
平和酒造の採用枠は毎年数名と限られていますが、毎年1,000〜2,000人の応募が集まるのだとか。「優秀な人材が集まるような企業にしたい」と意気込む山本さんですが、結果としてモチベーションが高く、主体性のある人が選び抜かれています。
そんな平和酒造が徹底して行っているのが、掃除とメンテナンス。木造の酒蔵は年に一度、屋根や壁の隅々に至るまで、従業員全員で柿渋を塗り込めています。
「最高の日本酒を突き詰めるために、蔵の中の清掃を徹底しています。無菌室のような清潔さというよりは、美しく整えられた日本庭園のような静謐さでしょうか。それは、酒質に表れていると思います」(山本社長)
自分たちの信じる日本酒を突き詰める
海外輸出にも力を入れ、非日系の星付レストランなどでも導入されている平和酒造ですが、「ワインの飲み手を意識した酒質を目指すようなことはしていない」と言います。
「日本酒は繊細な飲み物と言われますが、ワインに負けないくらいの世界に通用するポテンシャルを持っていると思います。そのポテンシャルをどこまで出し切れるかが、これからの課題です」
「自分たちの理想とする日本酒を突き詰めていけば、世界の名酒と対等に戦える。『ワインに負けないように』という考えが先にあるわけではなく、私たちが信じている先にある日本酒を突き詰めれば、グローバルな市場でも充分に戦えると考えています」
26歳で酒蔵を継いでから16年。山本さんは今の局面を「ファーストステージの集大成」としてとらえています。
「『紀土』シリーズの上位にあるのが『無量山』シリーズであり、『無量山』を確立することによって、『紀土』ブランド全体が完成します。これを仕上げながら、新しい取り組みも進めていく予定です」
その姿勢は、中田英寿さんがプロデュースした「キットカット」とのコラボ商品を開発したり、堀江貴文さんが出資するベンチャー企業が開発した観測ロケット打ち上げプロジェクトに参画したり、各業界の著名人との柔軟な交流にも現れています。
「たとえば、コラボの提案があったとき、ふつうは一度持ち帰って考えると思うのですが、私は即決。そうすると話が進んでいきやすく、その結果として次の扉も開けていく。これまでの日本酒業界の成功モデルを踏襲するのではなく、新しい形での成功を目指したいですね」
ファーストステージの集大成を迎え、セカンドステージに突入する平和酒造。目標としていた「チャンピオン・サケ」受賞を達成し、「来年も再来年も、またおもしろいことに挑戦したい」と微笑む、山本さんのその瞳が見つめる未来に、期待が高まります。
(取材・文:Saki Kimura/編集:SAKETIMES)
sponsored by 平和酒造株式会社