伝統の清酒「甲子正宗 (きのえねまさむね)」が有名な千葉県・南酒々井の飯沼本家は、300年続く日本酒の酒蔵。伝統をしっかりと受け継ぎつつも、アンテナショップ、レストランにギャラリー、酒蔵ツーリズムなど、フレッシュな発想と新しい取り組みへの挑戦が特色です。今や、日本はもちろん、世界中のSAKE好きから熱い注目を集めています。
先駆的な一手を打ち続ける飯沼本家ですが、最近とある試みが話題になりました。
その試みとは、「日本酒ヌーボー」プロジェクト。ボジョレーヌーボーにならい、今年初物となる純米大吟醸を、"搾ったその日"にお届けするというプロジェクトです。
その"日本酒ヌーボー"の銘柄は、「酒々井の夜明け」。過去12年間提供してきた純米酒「今朝しぼり」を2016年にリニューアルした新しいお酒です。原料のお米は、千葉県の「ふさこがね」を使用。50%まで磨き上げた、贅沢な純米大吟醸酒として生まれ変わりました。
本企画はクラウドファンディング「makuake」のプロジェクトとしてはじまり、日本酒関連のプロジェクトとしては過去最大となる1000万円を越える支援を獲得。大きな話題となりました。
しかし、なかには疑問に思う方もいらっしゃるはず。
今回注文があったのは、個人のお客さん、さらに酒屋さんや業者さんも含めて9,164本。そのうち7,432本が"当日お届け・お渡し"の予定になっています。それだけ大量のお酒を一晩のうちに搾り、その日のうちに届けることなどできるのでしょうか。
そんなみなさんの疑問を解決すべく、日本酒ヌーボー「酒々井の夜明け」の製造現場にお邪魔させてもらうことに。一体どんな方たちが、どんな風に商品をつくっているのか、その全貌を明らかにします!
11月12日深夜 飯沼本家・瓶詰め場
日本酒ヌーボー「酒々井の夜明け」が届く予定となっている当日の深夜、蔵に飯沼本家の社員・スタッフが集まってきました。辺り一帯の方々が寝静まるこの時間から、作業が始まります。
この日は15時に通常業務を切り上げて仮眠をとったり、身体を休めたりと万全の体制で臨んでいるとのこと。
搾り、瓶詰めし、梱包し、出荷する、その数は9,164本。通常は新酒でも2~3ヶ月かけて行う工程を一晩で行ってしまうというのですから大変。みなさん、気合いが違います。
飯沼一喜専務による「頑張るぞー!」の一声に合わせ、拳をあげて団結力を見せるみなさん。緊張感がある中にも、文化祭のようなアットホームな雰囲気が感じられ、普段の仕事ぶりが垣間見えた気がします。
最初の工程は、瓶の「洗浄」。瓶を箱から出し、ベルトコンベアーの上に乗せて、洗浄機にかけていきます。
それにしても、うず高く積み上げられた箱の山。これをすべて開封し、瓶を取り出すと考えると、途方に暮れてしまいそう。
外にもまだこんなにありました。
このセクションを担当した社員さんも「残りの箱の数はあまり考えないようにして、黙々とやるだけです」と苦笑い。
確かに9,000本を越える量の箱となると、遠目で見てもかなりの迫力です。
洗浄が済み、きれいになった瓶に搾りたての「酒々井の夜明け」が充填されていきます。このとき辺りに漂うお酒の華やかな香りに、思わずうっとり。
しかし、現場のみなさんはうっとりなんてしていられません。光を当てて異物が混入していないかを確認し、キャップを閉め、次々と箱に詰めていきます。その表情は真剣そのもの。
箱に詰めたお酒はリフトで一度倉庫に運ばれ、仕分けをされます。仕分けが終わったら、別の倉庫へ移され、今度は発送用のラベルを貼る作業。
このあたりでわたしたちは仮眠をとらせてもらいましたが、飯沼本家はまだまだ眠りません。
11月12日 AM3時 出荷庫
目が覚めると3時を回ったころでした。5時を目安に宅配便のトラックが来始めるとのことですが、果たして集荷に間に合うのでしょうか。
倉庫にお邪魔してみると、人手がかなり増えており、みなさん絶賛発送作業中。ラインをつくり、声を掛け合いながら行う流れ作業は、まさにチームプレイです。結末が気になるドラマのように目が離せず、取材そっちのけで作業を見守ります。
実は今回のプロジェクトは、締め切り数日前になって駆け込みでの注文が相次ぎ、急遽箱を買い足すなどして対応したのだそう。最終的には、想定を大きく上回る注文数となりました。
それでもスムーズにライン作業が進んだ背景にあるのは、1週間ほど前から何度も行ってきた予行演習。みなさん一人ひとりのていねいな仕事はもちろん、大枠での仕組みづくりにこれだけの本数をさばく秘密があったんですね。
そんな矢先、トラック第一弾が到着! それでも動揺することなく、自分が担当する作業を黙々と続けていきます。
一方、トラック付近では飯沼本家から宅配便業者へと商品をバトンタッチ。運転手がリフトを使い、できるだけ多くの箱を運べるように工夫しながら荷積みをしていきます。
「昨年までの"今朝搾り"もすごかったけど、今年は特に多いね。うちの会社にとっても毎年恒例の大イベントですよ。これは大変だ」
そう話しながらも、運転手さんは満面の笑み。来年以降も引き続き、宅配業者にとっても「風物詩」になりそうです。
宅配便の方が到着後、酒屋さんも続々到着。まだ外は暗い5時過ぎ、一番乗りに来た酒屋さんは84本分をトランクに積んで帰っていきました。搾りたて、詰めたての日本酒が飯沼本家を離れ、各地に飛んでいきます。
その間、交代をしながらも従業員さんたちが完全に手を休めることはなく、
空は明るくなり、
酒々井の夜がだんだんと明けていきました。
11月12日 AM6時
集荷の車が来てから1時間後、社長の表情にも余裕が出てきました。「あと少しだ、頑張ろう」と励ましながら、自身も手を動かしながら、完全発送に向けてスパートをかけます。
みなさんの顔にも徐々に笑顔が。あと少しです!
午前7時を回ったころ、荷積みが完了。
搾りたての「酒々井の夜明け」が入った、全国各地に向けて走るトラックを見送り、飯沼本家さんの仕事は終了。あとは無事届くのを待つのみです。
作業が終了し、最初に円陣を組んだ工場に社員さんたちが集合します。交代で休憩をとりながらではあるものの、夜を徹しての真剣作業に、やはりみなさんお疲れのご様子。
そんなみなさんに社長は労いの言葉をかけ、拍手を以て解散。飯沼本家の長い夜は完全に明けたようです。
11月12日 PM18時 自宅にて
ヒューマンドラマの超大作を見終えたような気分になり、すっかり満足して帰宅しましたが、まだ使命が残っているのを忘れていました。それは「その日じゅうに商品が届くのか」を見届けること。
ドキドキしながら、時計の針が18時を回ったころです。
届きました! 飯沼本家のみなさんが一夜を徹して詰めた、搾りたての日本酒を当日中に自宅で受け取ることができました。
意外とアナログな作業が多かった工程。みなさん一人ひとりが手を動かしていることを知っていただけに喜びもひとしおです。
早速箱を開け、搾りたての一杯をいただきます。
「酒々井の夜明け」は、"その日"に搾ったばかりの生酒。瓶の中でまだ発酵が続いているため、口に含むとプチプチと心地よい発泡を感じます。香りにはほどよいフルーティーさがあり、味わいは驚くほどにフレッシュ。生原酒ながらあまり重みは感じず、むしろ飲みやすい印象です。搾りたての瑞々しさにあふれた、上質な味わいでした。
さらにこの「酒々井の夜明け」、なんと海を越えてシンガポール・イギリスの2ヶ国にも運ばれました。冷温での航空輸送が可能な「三菱倉庫」のロジスティクスに乗せて空輸されたお酒は、シンガポールで3店舗、ロンドンで1店舗のレストランに届けられたそうです。特にシンガポールのお店では、出荷から24時間以内でお客様のもとに渡ったのだとか。海外でも"搾りたての日本酒"が味わえるなんて…ちょっと驚きですよね。
シンガポールの日本食レストラン「 Maguro Donya Miura Misakikou Sushi & Dining 」にて
日本酒ヌーボーは、飯沼本家の風物詩に
その日に搾った新酒を、その日中に届ける「日本酒ヌーボー」。飯沼本家では、来年以降も11月の"恒例企画"にしていくそうです。また、同じコンセプトを他の酒蔵に広げていくことも考えているそう。
ふだん日本酒を飲む人も飲まない人も、年に1度しか飲めない特別な日本酒体験を、ぜひともご堪能ください!
(取材・文/佐々木ののか)
sponsored by 株式会社飯沼本家
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