国内屈指の人気を誇る「上善如水」を中心に、新潟県・湯沢の良質な"水"を活かした酒造りを続ける白瀧酒造。SAKETIMES連載の10記事目を数える今回は、白瀧酒造の海外展開について特集します。
白瀧酒造の海外進出は遡ること15年ほど前、2001年から始まりました。香港、韓国、台湾、シンガポールなどのアジアマーケットをメインに、アメリカ、オーストラリアなど世界約30カ国に輸出。会社の総売上の11%を海外輸出が占めており、他社と比較してもかなり注力している酒蔵と言えます。「上善如水」シリーズ以外にも、「魚沼」「湊屋藤助」「真吾の一本」などを海外に展開していますが、輸出量の大半は「上善如水」となっています。
そんな白瀧酒造の海外展開について、海外営業としてアメリカ、オーストラリア・ニュージーランド等を担当する坂大(ばんだい) 洋介さんにお話を伺いました。
海外進出から15余年、世界30か国に展開するまで
──2001年から海外に進出されたそうですが、日本酒のニーズは拡大してますか?
坂大さん(以下、坂大):おかげさまで輸出量は順調に伸びてきています。進出当初は日本酒自体の説明から始めなければいけなかったと聞いていますが、最近は「日本酒を知らない」という方にはほとんど出会いません。
最初は商社や問屋を使った間接的な輸出から始めて、現在では海外の輸入業者や代理店との直接取引を行うようになりましたが、いずれにしても足で稼ぐ営業であることには変わりありません。言葉や商習慣、当たり前の事の基準が違うので、辛抱強くコミュニケーションを取りながら徐々に良好な関係を築くことに今でも苦労しています。訪問することを予め伝えていても、レストランの仕入れ担当者の方が不在だったりすることも多くて…。でもこれからは、地道な営業をベースに据えつつも、多角的な戦略を打っていくつもりです。
またエリアとしては香港、韓国、台湾、シンガポール等のアジアマーケットに注力してきて、今後はオーストラリアやニュージランドを含むオセアニアやアメリカ、ヨーロッパへの輸出をさらに伸ばしていきたいと思っています。
──アメリカなどの欧米を足掛かりにする酒蔵が多いなか、注力する先としてアジアを選んだ理由は何でしょうか?
坂大:白瀧酒造が輸出に本腰を入れ始めたとき、すでにアメリカの日本酒市場には他の酒蔵さんが進出していたので、あえて逆を張って競争が激しくないエリアを狙ったと聞いています。当社の主力銘柄である「上善如水」は、もともとは中国の言葉ですし、漢字がわかるアジア圏の方にはなじみやすかったのかもしれません。
──国によって商品の売れ行きや、嗜好の違いなどはありますか?
坂大:定番商品の純米吟醸はどの国にも輸出していますが、やはり国によってニーズは違います。
たとえば、北米やオーストラリアでは「濃醇魚沼 純米」のような力強くコクがあるタイプの人気が高まっているように感じます。キレのある軽快な味わいの純米吟醸は物足りなく感じるのかもしれません。そういった海外のお客様の嗜好に合わせて「上善如水 純米」という海外限定商品を展開しています。アルコール度数は17〜18度と通常よりも高め。かなり辛口で現地の好みに合った酒質になっていると思います。
一方、アジア圏の方からは「熟成の上善如水 純米吟醸」や「上善如水 純米大吟醸」が支持を得ています。無色ではなく酒に色が少し付いていることや、「熟成」というワードが効いている気がします。またほどよい酸味が現地の料理と合うのではないかと思っています。
──現地の料理との相性も関係してきますよね。具体的にどのようなお料理と合わせて飲まれるのでしょうか?
坂大:海外の日本食イメージの定番である寿司、刺身、天ぷらのほか、味の濃い照り焼きソースを使った料理やステーキなどと合わせるお客様も多くいらっしゃると思います。
海外ならではのユニークなマリアージュとしては、イタリアンやフレンチと日本酒を合わせる動きもあるようです。チーズと日本酒は、同じ「発酵」というプロセスを経ている事もあり相性が良いと言われています。上善如水を購入していただいているアメリカの得意先にイタリアンピッツァレストランのお客様がいらっしゃるのですが、そちらでは4種類のチーズがのったクワトロフォルマッジピザとのペアリングで上善如水をお勧めしていただいています。
ですが、冷やしておいしい純米吟醸や純米大吟醸でも、海外では温めて「HOT酒」として飲まれることもあるようです。もっともっと、日本酒を最大限においしく味わっていただく方法を伝えていきたいです。
海外展開でも重要な消費者との接点づくり
──販売代理店や輸入業者と直接やりとりされるというお話がありましたが、海外での主な卸先は日本食レストランでしょうか?
坂大:一部、日本食以外のレストランでも取り扱っていただいていますが、居酒屋のような日本食レストランがメインです。日本酒が浸透してきたとはいえ、ご家庭で飲まれる方はまだまだ少ないので小売店よりもレストランに卸されることがほとんどです。
アメリカではワインを販売する酒販店で日本酒を扱っていただく事も多く、レストラン以外だと、そういったお店や日系スーパーに置いていただいております。主な輸出先である香港や台湾では、日系スーパーの「そごう」や、現地の高級スーパー「City Super」など、比較的大きな量販店に卸されています。
──消費者に直接のプロモーションする機会は少ないのでしょうか?
坂大:今のところあまり多くありませんが、昨年の12月31日にアメリカで「上善ハウスパーティー」という企画を行いました。
「ハウスパーティー」は、企業の販促活動を支援するプラットホームを運営するアメリカの会社名です。一般の消費者に商品を提供し、実際にホームパーティーを行っていただいて、その感想をSNSなどで拡散していただくという仕組みです。白瀧酒造では100のホストを募集して、日本酒とスナック、それに福笑いを入れた"Party Pack"を各家庭に無料で配りました。参加していただいたホストのみなさんに感想を正直に書いてもらうので決して良いレビューばかりではないのですが、TwitterやFacebookでかなりの反響があり手ごたえを感じました。
また、飲食店やリカーストアなどの経営者やバイヤーが来場される業界のお客様向けの展示会や、デパート催事での試飲販売会、日本の祭りを海外で再現する企画など、一般のお客様に日本酒を知って楽しんでいただけるイベントにも参加しています。
──海外展開における今後の展望を教えてください。
坂大:目下の目標は、アメリカへの輸出を更に伸ばすことです。そして、現状では売上全体に対して輸出が占める割合は11%ほどですが、いずれ25%くらいまで伸ばしていきたいと思っています。ただ、現地ディストリビューターの数や競合商品も多く、またアメリカで日本酒を現地醸造する企業も出てきているので、急激に伸びることはないでしょう。じっくりと腰を据えて取り組んでいきたいと思っています。
マーケティング発想で「上善如水」をさらに世界へ
先代よりマーケティング視点を経営や商品開発に取り入れ、日本酒業界における自分たちの位置づけを常に俯瞰して考えてきた白瀧酒造。その視座の高さは、海外戦略にも行き届いていました。
競争率の高いアメリカへの本格的な進出は順風満帆とはいかないかもしれません。しかし、業界でも珍しいほどに緻密なマーケット分析のお話を伺っていると、「総売上の25%を海外輸出に」という高い目標が叶う日も、そう遠くない気がします。
(取材・文/佐々木ののか)
sponsored by 白瀧酒造株式会社
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