自宅でおいしい燗をつけたいと思っても、「どんなお酒が合うかわからない」「道具をそろえるのが大変そう」と二の足を踏んでいる人も多いのではないでしょうか?

日常酒としてスーパーやコンビニで手軽に手に入るお酒を使っておいしい燗のつけ方を学ぼうと、神戸・灘の酒造メーカー・沢の鶴と、燗酒の若き伝道師・熱燗DJつけたろうさん、そしてSAKETIMESがコラボレーションしたスペシャルイベントが、2018年12月に開催されました。

日本酒のプロと熱燗のプロによるトークセッションや試飲会が行われ、会場には「燗酒の楽しみ方を知りたい」という日本酒初心者や沢の鶴のお酒のファン、なかには海外からのお客様も集まりました。大盛況に終わったイベントの様子をお届けします。

「熱燗をおいしくつけるにはどうしたらいいですか?」

沢の鶴ののぼり

イベント会場の前に立てられた沢の鶴ののぼり旗が目印。

吐く息が真っ白に染まるほど、寒い夜になった2018年12月13日の東京・原宿。会場となった「原宿テーブルギャラリー」には、19時の受付開始とともに続々と人が集まり始めました。

SAKETIMESのWEBサイトから応募した参加者のみなさんは、特に20~30代の若い世代の姿が目立ちます。席が次々に埋まり、会場はあっという間ににぎやかな雰囲気に包まれました。

沢の鶴の純米酒「SHUSHU」

来場者には沢の鶴の純米酒「SHUSHU」がウェルカムドリンクとして提供されました。

19時30分、最初の企画であるトークセッションがはじまりました。拍手で迎えられて登場したのは、沢の鶴の杜氏代行を務める牧野秀樹さん、熱燗DJつけたろうさん、SAKETIMES編集長小池潤の3名です。

小池編集長はファシリテーターとして、トークの進行役を務めます。

左から順に、SAKETIMES小池編集長、熱燗DJつけたろうさん、沢の鶴牧野杜氏代行。

左から順に、SAKETIMES小池編集長、熱燗DJつけたろうさん、沢の鶴牧野杜氏代行。

最初に、小池編集長が「家でお燗をつける人ってどれぐらいいますか?」と問いかけると、挙手したのは全体の半数ほど。

「手を上げていない人、つまり会場にいる半数の人たちが"お燗を家でつけること"にハードルの高さを感じているのかもしれませんね」と、トークの本題へ入っていきます。

SAKETIMES小池編集長(以下、小池):つけたろうさん、燗酒ってどうやればおいしくつけられるんでしょうか?

熱燗DJつけたろうさん(以下、つけたろう):愛情持ってつけたらいいんじゃないでしょうか?……というのは冗談で(笑)。熱燗をつけるとき、電子レンジでチンをする人が多いと思います。それでもいいとは思うんですけど、『もうちょっとおいしく飲みたいな』という方は、きちんと湯煎をした方がいいですね。湯煎をして、温めた徳利に移し替えるだけですごくおいしくなると思います。

"作法"というと堅苦しいかもしれないですが、おいしく飲むための次のステップとして、ぜひ湯煎をやってみてほしいです。

「沢の鶴」牧野杜氏代行(以下、牧野):私は『"カン(燗)"するのが大変な場合は、ぜひ"チン"して飲んでください』って言ったりしていますね。今の電子レンジって上手にムラなく温まるんですよ。

おすすめは人肌燗(35℃前後)。体温に近いので、酔うのも早いけど醒めるのも早いんです。夏だったらクーラーで冷えた部屋でぬる燗(40℃前後)を飲むのもおいしいかなと思います。

沢の鶴の杜氏代行を務める牧野秀樹さん

「家で飲むのはもっぱら沢の鶴のお酒ですが、外ではいろいろなお酒も飲みますよ」と牧野さん。

牧野さんの口から出た「レンジでチンもOK」発言に、トークを聞いていた参加者のみなさんも少々驚いた様子でした。

お二人の意見をまとめると、「燗酒を家で飲むのはハードルが高い」と思っている人は、手軽にできる電子レンジでの温めから入り、ステップアップしたいと思ったら湯煎、という段階を踏むのがよいようです。

「聞き上手」になることが「飲み上手」になるコツ

続いて、話題は会場のみなさんも気になっていた「燗酒にするお酒の選び方」について。

小池:燗酒を飲むときに『このお酒はお燗に向いてるな、向いてないな』というのをわかるようになりたいんですけど、そういったお酒の向き不向きをお二人はどう判断していますか?

つけたろう:外で熱燗を飲むときに良いチョイスをする一番の方法は、店員さんに聞くこと。やっぱりプロに話を聞くのが一番いいです。『熱燗好きなんですけど、どのお酒がおすすめですか?』と聞いて、一旦お店に任せます。

何本か飲んでいくうちに自分の好きな熱燗の傾向がなんとなくわかってくるので、すると次は『この前飲んだ、こういう感じの熱燗が好きだったんですけど、おすすめありますか?』と聞けるようになる。"聞き上手"が"飲み上手"になるコツだなと思いますね。

牧野:私はその質問を待っていました。ずばり、全部おいしいです(笑)。

たとえば、人からいただいたお酒や、自分で買ったものでも『ちょっと買いすぎちゃったな』『あまり好みじゃないな』と思ったお酒は、ぜひ燗にしてみてほしい。冷やしたときと比べて、燗にするとすごくおいしくなったりすることもあるんです。

細かい温度帯の差はありますし、加減も必要ですが、どんなお酒でも燗酒にしてもいいのではないかと思います。

左から順に、SAKETIMES小池編集長、熱燗DJつけたろうさん、沢の鶴牧野杜氏代行。

燗酒トークを弾ませる3人。後ろの壁には沢の鶴のSAKETIMES連載記事が貼り出されています。

小池:『大吟醸とか生酒は燗にしちゃダメ』とよく聞きますが、実際はどうでしょう?

牧野:私は生酒を燗にすることもありますよ。大吟醸などは香りが変わるとお酒のコンセプトが変わってしまうので、燗がおすすめできないお酒もありますけど、もともと香りが穏やかなお酒であればぬる燗でもいいですし。

つけたろう:僕も大吟醸や生酒も燗にします。あまり気にしなくていいと思いますね。

小池:なるほど。つけたろうさんが熱燗をつけるときに、一番気にするポイントはどこですか?

つけたろう:大事にしているのは『このお酒が熱燗になったら一番ポテンシャルが発揮できるだろうな』と思うポイントを考えることですね。

コーヒーを想像してもらえるとわかりやすいんですけど、ホットコーヒーの方が香りや甘みは感じやすくて、アイスコーヒーだとたくさんガムシロップを入れたくなりませんか?

熱燗も、温度を変えると味わいや香りを感じやすくなるので、ちょうどよいバランスを見つけることが大事。温めていくと『こんなにおいしくなるんだ!』というタイミングがあるので、それを探すのが楽しいんです。

杜氏代行が語る酒造りへのこだわり

当イベントでは、つけたろうさんが燗をつけた沢の鶴『米だけの酒』の熱燗も試飲できます。牧野杜氏代行にあらためて、商品へのこだわり、酒造りへのこだわりをうかがいました。

牧野:『米だけの酒』はもともと燗映えすることを意識したお酒ではなく、ここ数年で『お燗で飲むとおいしい』と言われるようになりました。2017年から生酛ブレンドになって、より燗が映えるようになったんです。

小池:パック酒というと普通酒や本醸造が多いですが、パック酒の純米酒は挑戦的ですよね。

牧野:私も最初はそう思いました。パック酒というと、昔は『紙のにおいが気になる』なんて話もあったんですが、現在はすごく技術が進んでいてまったく気になりません。

手軽に買いやすいし、持ち運びやすいし、保存しやすい。そういう良い面がたくさんあるので、今もパック酒を造り続けています。

会場に設置された沢の鶴「米だけの酒」フォトスポット。

会場に設置された沢の鶴「米だけの酒」フォトスポット。カメラやスマホで写真撮影をする人の姿が多く見られました。

小池:パック酒は呑み終わった容器を捨てやすいのがとてもいいと思います。家で飲むときも重宝しますし、外で飲むときに持って行ってもパッと畳んで持ち帰れるのでいいですよね。

さて、沢の鶴さんは、もともと300年前に米屋から始まったということをSAKETIMESの連載の中でもご紹介していますが、あらためて米へのこだわりを牧野さんからお話いただけますか?

牧野:日本酒の中でも、純米酒というのが米の味が一番ストレートに出ますから、造り手の勝負どころなんですよね。酒米は高いお米もあれば安価なお米もあり、それぞれの特性を把握して『さあ、どうやっておいしい酒を造ってやろうか』と考えるのが我々技術者の楽しみなんです。

たとえば同じ山田錦でも、昨年と今年ではお米の特徴は異なります。酒造りのたびに初めてのお米に触れるようなものなので、毎回新しいチャレンジをしている気持ちです。

蔵のメンバーには、『自分がおいしいと思える日本酒を醸そう』とよく言っています。『米だけの酒』はたくさんの量を造るので、すべての工程で手作業というわけにはいきませんが、単なる工場製品ではなく、どの工程にも力を入れてやっていますよ。

熱燗トークを弾ませる3人。後ろの壁には沢の鶴のSAKETIMES連載記事が貼り出されています。

牧野杜氏代行から日本酒にまつわるクイズを出題。お酒好きの皆さんにとっては楽勝!?

トークセッションの終盤には、来場者が参加するクイズ大会が行われました。題して「牧野杜氏代行からの挑戦状」。

これは沢の鶴のホームページやFacebookページで月に1回、牧野杜氏代行が出題している日本酒にまつわるクイズ。正解者の中から1名に豪華賞品がプレゼントされているネット人気企画のリアル版です。

出題されたのは以下の2問(正解はこの記事の最後でご紹介しますので、ぜひ考えてみてください)。

【第1問】
日本酒には「冷や」「人肌燗」「ぬる燗」といった飲用温度ごとの呼び名がつけられています。では、その中でもっとも温度が高い55℃前後のお酒を何と呼ぶでしょうか?

【第2問】
日本酒の単位として一合、一升、一斗などがあります。一合は180ミリリットル、一升は1.8リットル、一斗は18リットル、では180リットルは何という単位で呼ぶでしょうか?

牧野杜氏渾身の出題、のはずでしたが、会場に集まっているのは日本酒好きのみなさんばかり。中には余裕の表情を浮かべている方も、ちらほら。

正解がわかった方に挙手して答えてもらうと、どちらの問題も見事に正解されました。牧野杜氏代行は「もっと難しい問題にすれば良かったかな」と苦笑気味でしたが、会場は大いに盛り上がりました。

つけたろう:日本酒はいろんな温度でいろんな楽しみ方ができるのがすごく魅力的。温度によってすごく味が変わる面白いお酒です。体にもやさしいというのも熱燗の魅力かなと思います。

牧野:私たちは気軽に買えるお手頃のお酒もたくさん造っていますが、どんな酒でも米の味を最大限引き出せるようがんばっています。それは沢の鶴だけではなく他の酒蔵さんもみんな同じ想いのはず。今回こういう場でお話できてとてもうれしいです。この後もぜひお酒を楽しんで、お話ししたいことがあったら気軽に声をかけに来てくださいね。

心も体も温まる、大盛況の熱燗試飲会

トークセッション終了後は、お待ちかねの熱燗試飲会&交流会がスタートしました。

「米だけの酒」を熱燗で提供してくれるのは、もちろんつけたろうさん。つけたろうさんがキッチンに入って準備を始めると、熱燗を今か今かと待ちわびる来場者で長蛇の列ができました。

イベント参加者と談笑する熱燗DJつけたろうさん

笑顔で接客するつけたろうさん。熱燗を求める列が途切れず大忙しです。

前回の記事でもご紹介した、つけたろうさん考案のベストレシピ「75~80℃の燗床に、デカンタージュしたお酒を耐熱ビーカーで51℃まで温め、平盃で飲む」というスタイルでいただく熱燗は、まさに「米だけの酒」のポテンシャルを最大限に活かした飲み方。舌から喉へスッとなじんでいき、飲み干すとホッと体が温まります。

つけたろうさんが一人ひとりに熱燗の入った徳利を渡すと、会場のあちこちで来場者同士お酌し合う姿が見られました。

イベントで提供された特製おでんとさつまあげ

フードメニューとして提供されたおでんとさつま揚げ。ますますお酒が進みます。

つけたろうさんがこの日のために用意した熱燗に合うおでんと、沢の鶴の地元である兵庫県から取り寄せたさつま揚げも絶品!おでんはよくしみ込んだだしの味が熱燗と相性抜群。さつま揚げは生姜の風味がピリッと効いていて、どちらも大好評でした。

イベント参加者と談笑する牧野杜氏代行

リラックスした様子で来場者との会話を楽しむ牧野杜氏代行

ほろ酔い顔でイベントを楽しんでいる参加者にお話を聞くと「沢の鶴のお酒が好きだから」「つけたろうさんの熱燗を飲んでみたくて」など、理由はさまざまですが、みなさん思い思いに「米だけの酒」の熱燗を楽しんでいました。

イベント参加者(会社内で結成している「酒部」のメンバー)

会社内で結成している「酒部」のメンバーだというみなさん。

「今日は日本酒好きのメンバーで参加しました。印象に残っているのは、牧野さんがレンジでチンの燗酒を推奨していたこと。今までは『レンジでいいのかな?』という罪悪感があったんですけど、次から堂々とチンできます(笑)。つけたろうさんの熱燗は香りが立っていておいしいです。飲みやすくてスイスイと飲めます!」(写真右端の男性)

牧野杜氏代行とも積極的にお話をし、楽しんでいる様子が見られました。

イベント参加者(沢の鶴ファンの親子)

「自宅に『米だけの酒』を常備しています!」という沢の鶴ファンの女性は、息子さん(写真右)と一緒にイベントを楽しんでいました。

「家でお燗をつけることがないので、どんな風につけたらおいしくなるのかなと興味を持って参加しました。息子が来年社会人になるので、お酒の場での知識を持っておいて損はないかなと思って一緒に来たんです」(写真左の女性)

「いつも日本酒の温度とか気にしてなかったんですけど、話を聞いた後で飲むと、たしかに温度によって味わいが違うなって感じました」(写真右の男性)

「沢の鶴×熱燗DJつけたろう」の熱燗イベントの集合写真

気づけばあっという間にイベント終了の時間に。参加者全員で記念撮影をした後、一人ひとりに沢の鶴からのお土産が渡されて、楽しい一夜は終わりを迎えました。

熱燗と沢の鶴のお酒の魅力に触れたひととき。会場を後にするみなさんからは「楽しかった」「おいしかったね」という言葉が聞こえてきました。大役を果たしたつけたろうさん、牧野杜氏代行もホッとした様子でした。イベントをきっかけに、熱燗がより身近に感じられる人が増えたことは、間違いないようです。

(取材・文/芳賀直美)

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◎「牧野杜氏代行からの挑戦状」の答えあわせ

【第1問】
日本酒には「冷や」「人肌燗」「ぬる燗」といった飲用温度ごとの呼び名がつけられています。では、その中でもっとも温度が高い55℃前後のお酒を何と呼ぶでしょうか?

正解:飛びきり燗
「日向燗」「飛びきり燗」という表現に対する温度の定義づけは沢の鶴発祥であるということを牧野杜氏代行が話すと、会場からは驚きの声が上がりました。

【第2問】
日本酒の単位として一合、一升、一斗などがあります。一合は180ミリリットル、一升は1.8リットル、一斗は18リットル、では180リットルは何という単位で呼ぶでしょうか?

正解:一石(いっこく)
「最近はあまり一石、二石という数え方は聞かなくなりましたが、酒蔵の人間にはおなじみの単位です」(牧野杜氏代行)

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