神戸・灘の酒造メーカー・沢の鶴株式会社による記者発表会が2月上旬に行われました。沢の鶴とヤンマーが共同で進めている「酒米プロジェクト」から、新商品「沢の鶴 X02(エックスゼロツー)」の発売が明らかになったのです。
複数品種の米をブレンドして造った第一弾商品「X01」からさらに進化し、原料処理のしやすい厳選された単一品種を使用した「X02」。日本酒業界初となる最先端のトレーサビリティ管理によって、種子の開発から栽培、醸造にいたるまでの"見える化"を実現しました。お酒の仕込み量も増え、「X02」の販売量は「X01」のおよそ5.5倍を見込んでいます。
「新しい酒米を作る」という前代未聞の取り組みが着実に進歩していく様子に、沢の鶴の西村社長は「日本の農業を変えたい。日本酒の未来を変えたい。この思いでプロジェクトは進化していきます」と話します。
この"進化"というキーワードは、「X02」の白を基調とした近未来を思わせるボトルデザインにもつながっています。このデザインに込められた思いとは、どんなものなのでしょうか。
「X02」のデザインを手がけたヤンマーの担当者に、完成までの道のりを伺いました。
"これまで"と"これから"を繋ぐデザイン
話を聞いたのは、ヤンマー デザイン戦略室の海道未奈さんと山元真弥さんです。
海道さんは酒米プロジェクトの第一弾商品「X01」のメインデザイナーを務め、昨年、同室長の土屋さんとともにデザイン完成までの経緯を語っていただきました。海道さんは当時を振り返りながら、「X02」のデザインに取り組んだ際の新たな変化を語ります。
「新しい商品をゼロからデザインするのは、商品のテーマや想いが明確なのでやりやすいんです。しかし、第二弾の商品というのは、第一弾を意識しながら、第三弾以降の可能性も考えなければなりません。より大きく強いブランドを育てていくために、『X02』では山元をはじめとする若手のメンバーを引き入れて、チームで動いていこうと考えました」(海道さん)
山元さんは、雑誌などのエディトリアルデザインを専門としてきたデザイナー。数年前にヤンマーへ入社し、さまざまな同社製品に携わってきました。海道さんは「他業界から来てくれた、自分たちとは違う引き出しをもっている大事な仲間」と話します。
そんなふたりを中心にチームとして挑んだ「X02」のボトルデザイン。白を基調に「X02」の商品名とQRコードを大きく配置し、沢の鶴のコーポレートロゴである「※」マークを赤で入れました。シルバーの外装は、180mlでは筒状、720mlでは箱型が用意されています。2018年度のグッドデザイン賞を受賞した「X01」の洗練されたイメージを引き継いだ仕上がりです。
「お酒が完成していない段階で制作を始めたため、中身を想像しながら作業を進める必要がありました。造り手のみなさんも『こういう感じの味になるんじゃないか』という想像はできるけれど、確証はありません。だから、前回と今回の違いは何か、『X02』の強みは何か......沢の鶴のみなさんやヤンマーで酒米を研究しているメンバーとともに、みんなで話し合いを重ねました」(海道さん)
QRコードは、すべてが見える酒造りの証
「X02」のデザインテーマは"進化"。両社での話し合いを進めていくなかで、その進化を包み隠さず表現することが決まりました。そのねらいをもっとも強く表現しているのが、ラベルに大きくプリントされたQRコードです。
QRコードを読み取ると、「X02」に使用された酒米や醸造に関する情報が閲覧できる「酒米醸造トレーサビリティ」のページにアクセスできます。
酒米にはどんな特徴があるか、どんな生産者によって栽培されているのか......あらゆる情報を包み隠さず提供するのは、「X02」に、そして酒米プロジェクトに込めた両社の誠実な姿勢だといえるでしょう。
「『X01』のときから、QRコードを入れてほしいという沢の鶴さんからの要望がありました。QRコードからサイトに飛び、商品についてもっと詳しく知ってから購入してほしいという意図です。ただ、バランスを間違えると商品の世界観を壊してしまうので、デザインに取り入れるのは難しいと思いました。
しかし、それを逆手にとって、本来は目立たない配置にするQRコードをもっとも目立つところに置いたんです。商品に対する自信を表現し、チームの強い意気込みを見せようというアイデアで作ったのがこのラベルですね」(海道さん)
QRコードには、沢の鶴の「※」マークとヤンマーのコーポレートロゴが盛り込まれています。
アイデア段階では、さらにいろいろなイラストを取り入れる案もあったのだそう。しかし、ボトルの形に沿ってQRコードが湾曲してしまい、読み込みの精度が下がってしまうために断念。QRコード自体の色や箔押しの加工など、さまざまなパターンを試したといいます。
「遊び心をどこまで入れられるか、とにかく検証しました。ミリ単位でサイズや位置を変えて、何度も調整しましたね。平面であれば読み込めるけれど、ボトルに巻くと上手くいかなくて諦めたパターンもたくさんありました」(山元さん)
「イラストを入れるのをやめようかとも思いましたが、チームとしての思いを表現したかった」と振り返るふたり。ちなみに、QRコードには両社のロゴマーク以外にも、「絶対に入れたい!とこだわった」というお猪口と徳利のデザインが隠れています。
黒から白へ、進化の過程が見える
「X01」はシックな印象の黒いボトルでしたが、「X02」では情報を包み隠さず表現するという商品コンセプトに合わせて、混じりけのない白が採用されました。
「ボトルの色が白に決まったとき、沢の鶴の西村社長に言われたのは『黒いボトルがただ白くなっただけと思われないように』ということでした。だからこそ、質感にはとてもこだわりました。陶器のようなつるっとした素材にしたり、スチールを使ってみたりとさまざまなパターンを試しました」(海道さん)
ボトルの形はシンプルですが、QRコードなどのテクノロジーや未来への可能性を表現するため、外装パッケージにはメタリックなシルバーを採用しました。
沢の鶴の「※」マークや「X02」のロゴは、大きさや位置を変えずに「X01」から踏襲。白とダークグレーだけでは平面的な印象を与えるので、「※」を赤にしてアクセントを加えました。
また、「X01」と「X02」を並べて置いたときの雰囲気も重視。「X01」を知っている人には「X02」への進化がわかるように、「X02」で初めて商品を知った人でも新しさを感じてもらえるようなデザインが完成しました。
まろやかでキリッと─ お酒の味をボトルで表現
こうして完成した「X02」のパッケージデザイン。
沢の鶴からは「かっこいい」「新鮮」という好反応が返ってきたといいます。海道さんと山元さんも「自信のないものは出せない。すてきなデザインになったと思いますね」と誇らしげです。ほどなくして完成したお酒を試飲し、その自信は確固たるものになりました。
「まろやかで甘味のある味わいですが、後味がキリッと締まる。『X01』とはまた違う美味しさです。そのまろやかさがボトルの質感と似ているように思えて、このデザインにして良かったと思いました。お酒の味がデザインに表れた理想的な形だと思います」(海道さん)
先進的な技術を取り入れ、「新しい酒米を作る」という目標に向かって前進を続ける酒米プロジェクト。洗練されていくお酒の味わいはもちろん、商品のパッケージデザインにもその進化の様子が反映されています。
3月1日より全国で一般販売されている「沢の鶴 X02」。ぜひ商品を手に取って、沢の鶴とヤンマーがチーム一丸となって挑んでいく熱意にふれてみてください。
(取材・文/芳賀直美)
sponsored by 沢の鶴株式会社