「エンタメ化経営」をコンセプトに、さまざまな種類の日本酒を発売してきた、岐阜県飛騨古川市の渡辺酒造店。「色おとこ」「Sakeday Night Fever」「超ドS」など、従来の日本酒にはない新しいネーミングの商品も多くラインナップしていますが、国内外の日本酒コンテストで高く評価されている実力派の酒蔵です。

渡辺酒造店が獲得した日本酒コンテストのトロフィーや賞状

2023年は、渡辺酒造店の最高峰商品である「蓬莱 純米大吟醸 極意傳」が岐阜県新酒鑑評会にて主席知事賞を、名古屋国税局酒類鑑評会の「純米吟醸酒の部」にて名古屋国税局長賞を獲得しました。その年の日本酒コンテストの受賞実績をポイント化して集計する「世界酒蔵ランキング」においては、第5位に入賞しています。

今回は、そんな渡辺酒造店の定番商品「蓬莱 家伝手造り 純米吟醸」に注目。数々の日本酒コンテストで高く評価される実力をもった渡辺酒造店は、どのようなこだわりで定番商品を造っているのか、杜氏の北場広治(きたば・こうじ)さんに話をお伺いしました。

出品酒も定番商品も、同じ意識で造る

北場杜氏が渡辺酒造店に入社したのは、2017年。当時から、渡辺酒造店は国内外の日本酒コンテストに積極的に出品していました。しかし、北場杜氏はコンテストに出品することに対して、「あまり前向きに考えていなかった」と話します。

全国の酒蔵がさまざまな日本酒を造っている中で、それらに優劣や順位をつけることに疑問を感じていたのだそう。しかし、渡辺酒造店に入社し、コンテストに対する渡邉社長の話を聞いて、その考えを改めました。

「私たちの日本酒を飲んでいただいているお客様に、受賞を報告することでさらに喜んでいただけること、そして、愛飲する日本酒をさらに誇りに感じていただけることが大事なんだと社長に教えられたことで、自分の中で納得できたんです」

渡辺酒造店の杜氏 北場広治さん

渡辺酒造店の杜氏 北場広治さん

実際に、コンテストで受賞した商品は、それ以前と比べて売上が伸びる傾向にあるといいます。さらに、コンテストへの出品は、「より美味しい日本酒を造りたい」という蔵人たちのモチベーションにも良い影響があるのだとか。

渡辺酒造店は、全国の酒蔵が最高峰の日本酒を出品する全国新酒鑑評会にも毎年挑戦し、2023年は通算11回目の金賞を受賞しています。その一方で、北場杜氏は「出品酒もそれ以外も、同じ意識で造ることが大事。出品酒を通して得られた技術を普段の酒造りに落とし込んでいかなければ、そもそもコンテストに出品する意味がない」と断言します。

「例えば、麹を造る工程の中で、以前は麹を『冷やす』という考え方を持っていましたが、出品酒を造った時に『冷やす』だけではなく『水分を飛ばす』必要があるとわかりました。麹の水分を飛ばすことで、醪(もろみ)の工程で水の吸収が良くなり、酵素が活発に働いて、甘味が出るようになるんです。

この時に得た知見は、その他の商品にも活用されています。コンテストに出品するたびに、今後の酒造りに活かせそうなポイントが見つかりますね」

“味がにぎやか”な定番商品「蓬莱 家伝手造り 純米吟醸」

日本酒コンテストを通して培われた技術が活かされた商品のひとつが「蓬莱 家伝手造り 純米吟醸」です。主に県外への出荷が多く、「渡辺酒造店といえば『家伝手造り』」と言っていいほどの定番商品です。

国内外のさまざまな日本酒コンテストで評価され、2014年の「ワイングラスでおいしい日本酒アワード」で最高金賞を獲得した時は、副賞としてANA国際線のファーストクラスでも提供されました。

渡辺酒造店の定番商品「蓬莱 家伝手造り 純米吟醸」

使用している酒米は、飛騨地方を中心に栽培されている酒造好適米「ひだほまれ」。しっかりとした味わいになりやすいのが特徴です。

「ひだほまれを使った『家伝手造り』は味のバランスが良く、どんな食事にもよく合います。一般的な純米吟醸酒は、どちらかと言うとすっきりとした印象のものが多いですが、この『家伝手造り』には深い旨味があり、飛騨地域の方言でいえば『にぎやか』な味わいです。その特徴が、さまざまなコンテストで評価されている点なのではないかと思います」

2020年には、イギリスで開催されている世界的なワイン品評会「International Wine Challenge」のSAKE部門と、アメリカの日本酒コンテスト「全米日本酒歓評会」でも、金賞を獲得しました。

国内外の関係者から高く評価され、たくさんのファンから支持されている「家伝手造り」ですが、実は「良い意味で味が変化し続けている商品。先代や先々代の杜氏が飲んだら、怒られてしまうかもしれません」と、北場杜氏は笑います。

渡辺酒造店の酒造りの様子

「世代が異なれば、それぞれの『美味しい』と感じる味覚も異なります。定番商品だからこそ、その時代に合わせた味に少しずつ変化していかなかればなりません。変わらないから定番商品なのではなく、進化し続けるから定番商品なんだと思います」

そのように語る北場杜氏は、現代の「美味しい」を追求するために、若い蔵人の意見も積極的に採用するようにしているといいます。

「私たちのような年配の人間だけで話し合うよりも、これからの飲み手でもある若い蔵人の声を取り入れたほうが、絶対に良いと思うんです。

ひとつひとつの作業においても、うちの若手は指示されたとおりに動くだけではなく、自分たちから新しいアイデアを出してくれます。原料の割合や温度の管理など、基本のレシピは共有しているので、必要な作業をやってくれれば、あとは自分たちがやりやすいようにやってほしいと思っています」

特に最近は、スマートフォンを活用した遠隔のデータ管理など、酒造りの現場でもデジタル化が推進されているため、逆に若手から教わることも多いのだとか。将来的に杜氏を目指している若手もいるそうで、「成長が楽しみですよ」と話してくれました。

二口目、三口目でも美味しいお酒を目指して

北場杜氏に「家伝手造り」をどんなシーンで飲んでほしいかと尋ねると、「日々の晩酌で飲んでいただいて、かつ、人生の節目となる特別な時にも選んでもらえる日本酒でありたい」という答えが返ってきました。

渡辺酒造店の定番商品「蓬莱 家伝手造り 純米吟醸」

実際に、ご自身の娘さんの結婚式で「家伝手造り」がふるまわれたときは、杜氏として、父親として、とても感慨深かったと振り返ります。「『お父さんの造るお酒が一番美味しい』」といって、披露宴で出してくれたんですよ」と話す北場杜氏の目には、うっすらと涙が浮かんでいました。

日常生活の中でも、人生の特別な機会でも飲んでいただくためには、常に高いレベルの品質を維持しなければなりません。その背景には、北場杜氏が大事にしている考え方があります。

そのひとつが、ある酒蔵の杜氏に言われた「一口目が美味しいのは当たり前。二口目、三口目でも美味しいものこそ良いお酒だ」という言葉。もうひとつは、別の杜氏に言われた「技術は墓場には持って行けない。伝承してこそ技術だ」という言葉です。

どちらも「酒造りに対する考え方を変えてくれた」というほどの印象的な言葉で、渡辺酒造店の若手蔵人たちにも、定番商品の「家伝手造り」の酒造りを通して、その教えを伝えていきたいと話しました。

渡辺酒造店の酒造りの様子

今回の取材を通して、渡辺酒造店の定番商品である「蓬莱 家伝手造り 純米吟醸」の美味しさの背景には、国内外の日本酒コンテストへの出品で培われた酒造りの技術や蔵人のモチベーション、そして北場杜氏の哲学があることがわかりました。

より良い美味しさを追求し続ける「蓬莱 家伝手造り 純米吟醸」がこれからどのように進化していくのか、注目していきましょう。

(取材・文:芳賀直美/編集:SAKETIMES)

sponsored by 有限会社渡辺酒造店

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