栃木県の東部にある市貝町で酒造りを始めて約150年。惣誉酒造は栃木の地酒であることに誇りを持ち、高い品質の酒を醸してきました。

蔵の名前を冠した銘柄「惣誉」は、生産量のほとんどが県内消費。まさに地元に愛されているお酒です。

品質へのこだわりと高い醸造技術を持っていることは、鑑評会での連続受賞という結果にも表れています。全国新酒鑑評会では2011年から9年連続で金賞を受賞(※1)。また、2020年は第91回関東信越国税局酒類鑑評会にて史上初の2部門(吟醸酒の部・純米吟醸酒の部)で最優秀賞を受賞するという快挙を達成しました。

そんな数々の実績を積み上げてきた惣誉酒造は、2020年12月に新商品「帰一(きいつ)」を発表。なぜこのタイミングで、新しい商品を発表したのでしょうか。

専務取締役の河野道大(こうのみちひろ)さん

専務取締役の河野道大(こうのみちひろ)さん

次期6代目蔵元となる専務取締役の河野道大(こうの みちひろ)さんに、「帰一」にかける想いをうかがいました。

(※1)2020年は決審が実施されず入賞。入賞は20年連続。

原点回帰で誕生した新商品「帰一」

「帰一」は兵庫県吉川産山田錦を原料とし、精米歩合35%まで磨いた純米大吟醸酒を熟成させることで誕生した一本。2015年から毎年「帰一」の仕込みを行い、年度の異なる「帰一」を貯蔵しています。

帰一

(左から)「惣誉 帰一 2015 生酛仕込 純米大吟醸」(11,000円/税込)、「惣誉 帰一 しずく 2015 生酛仕込 純米大吟醸」(16,500円/税込)

そして今回、満を持して今回発売するのは、初年度となる2015年に仕込んだもの。2種類のラインナップが用意され、「惣誉 帰一 2015 生酛仕込 純米大吟醸」は11,000円(税込)、雫取りの「惣誉 帰一 しずく 2015 生酛仕込 純米大吟醸」は16,500円(税込)と、惣誉酒造のこれまでの商品の中でも最高額です。

「帰一」が誕生した経緯について、河野さんは次のように話します。

河野道大さん

「惣誉酒造が目指している『深みのある香りと凝縮された上質の旨み』を追い求めていく中で、『今持っている技術をすべて注ぎ込んだ日本酒を造ろう』と話が持ち上がり、2015年から企画がスタートしました」

「帰一」という名前の由来は、禅語の「万法帰一(ばんぽういちにきす)」から。探求の中で、さまざまな手法をとるが、最終的には集約され、原点にたどり着く。原点に立ち返ることで最高の一品ができることを伝えたいとの想いが込められています。

より良い一本を目指して、「生酛」を追求する

生酛造りに注力する惣誉酒造を象徴するかのように、「帰一」も生酛で醸されています。

惣誉酒造は1971年まで続けていた生酛造りを、2001年に復活させました。当時の背景について、河野さんは次のように話します。

「1995年に就任した杜氏が、生酛造りの高い技術を持っていたんです。そこで、その技術を活かそうと、1998年から山廃酛を仕込み始め、2001年には生酛造りにも挑戦しました」

山廃酛と生酛、完成したお酒を飲み比べてみたところ、惣誉酒造の目指している酒質を表現するには生酛のほうが適していると感じ、生酛の復活を決めたのだそう。

惣誉酒造の酛すりの様子

以降、惣誉酒造では「生酛ルネサンス」 というスローガンを掲げて、生酛の探究を続けてきました。

「生酛ルネサンス」とは、日本酒の伝統的な製法である生酛特有の深みのある味わいと現代的な吟醸造りをかけ合わせ、エレガントな酒質を追及していくこと。「ルネサンス(復活)」という言葉のとおり、復活させた生酛に磨きをかけて、さらに洗練された造りを目指しています。

「今の惣誉の酒質は、自分たちのイメージしている味わいになっています。ただ、さらに追及し続けなければならないとも感じています。ふくらみとハリがあり、それでいて繊細な味わいを求めていきたいです」

もちろん、「帰一」も「生酛ルネサンス」の精神のもとで醸されています。それぞれの味わいについて、「『帰一 2015』は、惣誉の生酛の特徴である繊細さと軽やかさを保ちながら、5年という歳月を経た熟成感、そしてふくらみを感じさせます。『帰一 しずく 2015』は上品な香りをまとっており、生酛の凝縮された味わいと透明感のある果実味が特徴です」と河野さんは話してくれました。

より良い生酛を造るために、製麴の細かい時間配分や仕込み配合など、さまざまな変数を調整しなければなりません。しかし、「ひとつずつ丁寧に検証していきたい」と今後の探究にも強い意欲を示す河野さん。このような熱意が、惣誉酒造が造る日本酒の品質につながっているのです。

作業中

また、「生酛の酒は抗酸化性が高く、熟成に向いている」と河野さんは話します。

現在、海外への輸出も積極的に行っている惣誉酒造。アメリカを中心に、香港、イギリスなどに輸出しており、星付きレストランにも導入されています。

「今は海外醸造も増えているため、フレッシュさが特徴のお酒は現地でも楽しむことができます。一方で、熟成による落ち着いた味わいは、国内で造るお酒の強みと言えるでしょう。輸出を考えると、熟成により品質が向上するお酒であることは重要です。生酛の酒は付加価値の高い日本の酒として、海外からの認知度がますます高まっていくと考えています」

河野さんは、「今後、『帰一』も海外の星付きレストランへの導入を目指していきたい」とも話します。輸出に適した生酛でありながら、熟成という付加価値も兼ね備えている「帰一」。国内はもちろん、海外でも評価されるポテンシャルを秘めていることは間違いありません。

生酛の熟成を武器に、新たな市場へと挑む

生酛の復活を果たした惣誉酒造。そして、その生酛の頂点を目指す「帰一」。これは地元の支えがあってこそ成り立っている挑戦だといいます。

「ありがたいことに、地元のみなさんには 『惣誉のお酒は本当においしい』 と言っていただいています。『地元に認められている』という心の支えがあるからこそ、胸を張って新しい挑戦ができる。ファンの存在は蔵としての自信になっています」

飲み手と造り手の信頼関係があり、地元でしっかりとした地盤を固めてきたからこそ、高価格帯の「帰一」を発売するという決断ができたのでしょう。

「『帰一』は、惣誉の生酛造りの結晶と言えるお酒です。酒造りのはじまりである原料米の精米から仕上げの熟成に至るまで、5年2ヶ月という歳月が経過しました。ぜひ、その味わいを体験していただきたいと思っています」と話す河野さん。「帰一」に確固たる自信を持っていることがうかがえます。

河野道大さん

「まずは、日本酒の魅力をより多くの方に知ってほしい。安くておいしい日本酒はたくさんありますが、安いからこそ機会を失っている部分もある。産業をさらに発展させるためにも、高価格帯市場に挑戦することを決めました。『帰一』を通して、新しいファンに日本酒の魅力を知ってもらい、生酛についても知ってもらえたらうれしいです」

惣誉酒造が探究してきた生酛の技術を注ぎ込んだ「帰一」が、どのように日本酒の世界を広げてくれるのか。今後に期待しましょう。

◎商品情報

  • 商品名:惣誉 帰一 2015 生酛仕込 純米大吟醸
  • 容量:720ml
  • 価格:11,000円(税込)
  • 発売日:12月23日(水)
  • 商品名:惣誉 帰一 しずく 2015 生酛仕込 純米大吟醸
  • 容量:720ml
  • 価格:16,500円(税込)
  • 発売日:12月23日(水)

(取材・執筆:まゆみ/編集:SAKETIMES)

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