愛知県名古屋市にある金虎酒造は、全国新酒鑑評会で4年連続金賞受賞した「虎変(こへん)」に加え、2020年の「ワイングラスでおいしい日本酒アワード」メイン部門で「大吟醸 名古屋城本丸御殿」が最高金賞を受賞するなど、注目を集めている酒蔵です。
蔵のテーマは「名古屋を醸す」。地元・名古屋が誇るエンターテインメント歌舞伎「ナゴヤ座」とのコラボイベントや、年1回テーマを決めて少量仕込みで新しい味にトライする「金虎チャレンジタンク(KCT)」など、さまざまな挑戦を続けていることでも知られています。
そんな金虎酒造が2020年の行った新企画が「金虎総選挙2020」です。酒蔵だけでなく、酒販店や飲食店まで巻き込んだイベントについてレポートをします。
金虎酒造のファンがイチオシの銘柄を決める
「金虎総選挙2020」とは、金虎酒造のウェブサイトに掲載している全商品22種類を対象とした人気投票企画のこと。このなかから金虎酒造のファンのみなさんがイチオシの銘柄を選び、順位を決めます。投票は、特設ウェブサイトやSNS、飲食店や酒販店に配布された投票用紙を使って行われました。
このイベントを企画した金虎酒造の水野専務にお話をうかがいました。
「コロナ禍でいろいろなイベントが中止になるなか、金虎のファンのみなさんと交流できればと思い企画しました。おかげさまでファンの方々を始め、飲食店さんや酒販店さんなど、たくさんの方々が後押ししてくださり、楽しいイベントになったと思います」
今回の企画の特徴といえるのが、飲食店や酒販店も一緒になってイベントを盛り上げている点です。
投票期間中には、各店舗が全22種類の中からイチオシのお酒を選び、動画を通じてその理由や楽しみ方などをあわせて応援演説をしていました。それらの応援動画は、金虎酒造のYouTubeチャンネルから視聴ができます。
名古屋をはじめ、東京や北海道にも店舗を展開する純米酒専門のスタンディングバー「YATA」伏見店・原田さんのイチオシは「特別純米 虎変」でした。
「虎変」は、虎の毛が美しく生え変わる様子を指す言葉で、「変革を続ける日本酒になるように」との想いで造られたもの。しっかりした味わいにも関わらず、フルーティな香りが楽しめるところが女性にも人気です。
たくさんの応援演説がありながら、各飲食店のイチオシ日本酒がそれほど偏らなかったというのは驚きです。それだけ金虎酒造の日本酒がバラエティに富んでいて、それぞれの良さがある証でしょう。
投票期間の中盤には、水野専務と木村杜氏のランキング予想動画も公開されました。
このときの水野専務の予想は「虎変シリーズが上位を独占」、木村杜氏の予想は「投票開始直前に販売した『純米大吟醸 名古屋城』が1位に、季節限定で地元ファンの多い『金虎 初しぼり』が3位になる」というものでした。
「金虎総選挙2020」のベスト5はこれだ
「金虎総選挙2020」は約2ヶ月間(7月6日~8月31日)の投票期間を経て、9月20日に生配信で投票結果の発表が行われました。
配信会場には、事前募集で集まった一般参加者も十分な新型コロナウイルス感染症の対策をして参加。司会を務めるZeppFMのナビゲーター・MEGURUさんの掛け声とともにスタートしました。
映像はYouTubeを使ってリアルタイムに配信、金虎酒造全22種類の日本酒のなかからベスト20が発表されました。ここでは上位5銘柄と金虎ファンから寄せられたコメントをお伝えします。
第5位:「大吟醸 虎変」(総得票数 599票)
第5位の「大吟醸 虎変」は、味わいは華やかながら料理に負けないしっかりとした味わい。新酒の時期がピークではなく、どんどん味が深まっていくのが特徴です。
「このお酒を醸している時の木村杜氏は、もろみとの会話に没頭し過ぎて人間との会話を忘れるほど」と話す水野専務。金虎ファンから「これぞ名古屋を代表するお酒!」というコメントが寄せられました。
第4位:「特別純米 虎変」(総得票数 720票)
第4位は、虎変シリーズの中でも食中酒にピッタリの「特別純米 虎変」です。飲食店さんのメニューに多く採用されていることもあり、飲食店の応援演説動画からネット投票が伸びたようです。
金虎ファンからは「万能」「長く付き合えるお酒」「口当たりは淡麗なのに後味は奥行きがあり飲み飽きない」などの声が上がりました。唐揚げなど、濃いめの味付けにも負けない旨みを楽しめるのでオススメです。
第3位:「KOTORA-citric」(総得票数 804票)
第3位は、2018年のKCT(金虎チャレンジタンク)の高評価を受け、2020年に季節商品として生まれた「KOTORA-citric」。
白麹を使いクエン酸を引き出した味わいは白ワインのような爽やかさです。夏の暑い日に飲みたくなるような日本酒で今までにない味わいで人気があったようです。
木村杜氏は、「本当に美味しい瞬間のお酒を飲んでもらいたいというのが出発点。でも、開栓してから一日で味が変わってしまう難しいお酒でした。どのように流通させるかと考えたことが実り、この評価をいただいたと感じます。今後は通年販売出来るようにしたいです」と、次のチャレンジに目を輝かせていました。
第2位:「純米大吟醸 名古屋城」(総得票数 856票)
第2位は、2020年6月に販売され、名古屋のシンボル・名古屋城の名前を冠した「純米大吟醸 名古屋城」です。
このお酒は既存銘柄の「名古屋城 本丸御殿」と対で楽しんで欲しいと思い、徹底的に差別化に取り組んだもの。2種類の酒米を複雑に組み合わせた手法で醸しているのが特徴的です。この製法とお酒の銘柄を踏まえて「石垣製法」と名付けられました。
金虎ファンからは「華やかで、フルーティ!」「甘みもあるけど、辛みやコク、酸味のバランスが素晴らしい」という声が集まりました。
第1位:「純米吟醸 虎変」(総得票数 858票)
「金虎総選挙2020」第1位に輝いたのは、約10年前に水野専務が酒蔵に戻ってから、コンセプトづくりから手がけたお酒「純米吟醸 虎変」です。ファンからは「スッキリして飲みやすい」と人気が集まりました。
木村杜氏は、「自分が蔵に入る前の年に初めて醸されたお酒で、日本酒を初めて飲んだ人でも飲みやすいお酒をコンセプトにして造られたと聞いています。その軸はブラさないように意識しています。飲む場所、合わせる料理など、どんなシーンにも合わせられる懐の深いお酒です」とのことでした。
造り手、売り手、飲み手を結ぶ「三方良し」のイベント
水野専務は、今回の開票結果について以下のように話してくれました。
「『金虎総選挙2020』は、酒販店や飲食店のみなさまのご協力をいただき実施できました。そして、投票をいただいた多くの金虎ファンのみなさまの存在がとても身近に感じられ、その声が直接聞ける貴重で幸せな機会でもありました。
造り手としてそれぞれのお酒にコンセプトを持たせて世に出してきましたが、こちらの意図どおりに伝わったコメントに喜んだり、また意外な感想に驚いたりと、集計期間中はとても楽しかったです。
応援演説で取り上げられていない『上撰』などの地元流通メインの日本酒にも多く投票があり、長く飲み続けてくださっている地元の金虎ファンの方々が多いことにもあらためて気づきました。本当にありがたいことだと思います」
木村杜氏にも、イベント全体を振り返っての感想をお聞きしました。
「想いを込めて世に出した日本酒たちが、予想以上に良い受け止め方をされ、おいしい楽しみ方を見つけていただいていて驚き、ファンのみなさんの日本酒愛を感じました。
お酒への感想を直接うかがう機会は少ないので、ひとつひとつの投票コメントが励みになり、本当にいろいろな学びや気づきがありました。今までぼんやりとしていたところが、コメントを読んでクリアになったので、次の酒造りに活かしていきたいと思います」
金虎ファン、酒販店、飲食店を巻き込んで開催された「金虎総選挙2020」は、こうして幕を閉じました。
造り手、売り手、飲み手にとって大きな学びをもたらした「三方良し」の企画だったようです。この結果を受けて金虎酒造の酒造りがどのように進化するのか楽しみですね。
これからの金虎酒造の新たなチャレンジに注目しつつ、ランキングに入った日本酒を飲み比べてみてはいかがでしょうか。
(取材・文:spool/編集:SAKETIMES)