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現役蔵人が語る。話題の遠心分離機、その特徴とは?

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今回は"究極の搾り機”ともいえそうな、話題の遠心分離機を取り上げまず。

その前に「上槽」について簡単におさらいしましょう。

米が溶けた醪(もろみ)を透明な酒と粕に分けることを上槽といいます。上槽には、大きく分けて「袋吊」「槽(ふね)」「ヤブタ式」「遠心分離」といった4種類の方法があります。

それぞれの上槽方法の特徴

大吟醸などを搾る際に行われる「袋吊」は余計な圧をかけないので、きれいな酒ができます。

しかし、労力がかかる上になかなか酒を搾りきれず、吊るす袋の中に酒が残ってしまいます。我が蔵では9人がかり、早朝4時半集合で取りかかっています。ひとりでも足りないと効率が悪くなるため寝坊厳禁です。

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「槽」は、袋の中の粕に圧をかけ、しっかり搾りきる方法で、現在でも広く使われています。

油圧や天秤など圧のかけ方もさまざまですが、3トン仕込などになると手間がかかりすぎてなかなか対応できません。袋は袋吊に使うものと同じものを使います。2人で数時間かけて、槽に酒の入った袋を敷き詰める作業は技術と体力を要します。

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「ヤブタ式」は効率よく搾ることができ、今ではほとんどの大規模・中規模蔵で採用されています。酒を入れてしまえばほぼ自動的に搾れます。

効率も良く、粕と酒をしっかり分けることができるのですが、布の素材にもよって香りが付いてしまうことがあるのがネックでした。近年の吟醸ブームのように精米歩合が低く、味や香りが重視されてくると、布を通さない搾り方が研究されるようになってきました。

そこで登場したのが「遠心分離」による酒の上槽です。

全国的にも貴重!酒本来の香味を活かせる遠心分離機

遠心分離機を所有しているのは、秋田県内では試験場の他に2蔵のみで、全国的にも珍しいのではないかと思います。作業をしていた担当技師の説明も交えつつ紹介します。

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この大きな釜のような機械が遠心分離機です。2トントラックの荷台に載るかな?といったサイズでして、大きなモーターも乗っています。数千万円の機械です。

バケツに水を入れてぐるぐる回しても水が落ちてこない様子を思い浮かべてください。遠心分離はこれと同じ原理で、容器に醪を入れて高速回転させることで、遠心力によって重い粕が底や側面に張り付き、上澄みが取れます。一通り回した後は澄んだ酒をポンプで取り除いて、粕を除去していきます。

布を通していないので布由来の雑味は付きません。酒本来の香りや味を活かせるうえ、回転数や回転時間を変えることでにごり酒も造れます。

実際、回転させる時間が長いと良い香気成分も飛んでいってしまうので、若干濁った状態で上澄みをとって、数日タンクに入れて沈殿する滓(おり)を取ってから瓶に詰めることが多いです。

sake_g_enshimbunri_4 機械を開けて、洗浄をしている様子

搾った酒を飲んでみると、やはり香味は良く仕上がっています。カプロン酸エチルの香りがいっぱいに広がります。コクという面では劣るかもしれませんが、乾杯や食事の前半にあう、ちょうどいい酒ができそうです。

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作業効率の悪さは蔵泣かせ・・・だからこそ味わってほしい

蔵で造っている酒を全部遠心分離機で搾れば良いのでは?と思ってしまいそうですが、実は非常に効率が悪い機械で、1回に400リットルほどしか搾れません。

1500キログラム仕込や3トン仕込が主流である現在の酒蔵事情からすると、1日に3回遠心分離機を回したとしても1200リットル程度しか搾れず、非常に効率が悪いです。以前の記事で紹介しましたが、3トン仕込の場合、醪は3500リットル前後で、できあがる酒が3000リットル程度です。酒は毎日搾っていますから、効率も大事なのです。

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おまけに粕が普通の板粕とは違い、糊状なので洗うのも一苦労です。板粕はそのまま整形してお店に出せますが、この状態では粕としての商品価値はありません。あとで圧搾機などで酒を出しきってから、踏込粕(押し粕)とするくらいしかないようです。

作業効率と酒の香味が"必ず正相関する”というわけではありませんが、遠心分離機を使うとなかなか美味しいお酒ができあがります。お店で遠心分離をウリにしている酒を見つけた時はぜひチェックしてみてくださいね。

(文/リンゴの魔術師)

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リンゴの魔術師

札幌生まれ、弘前大学人文学部に入学するも農学生命科学部を卒業。今は秋田で杜氏を目指し修行中。夏は技師、冬は麹室助手をやっています。造りを通して見た日本酒というものを書いてゆきたいと思います。お酒って、飲んでも考えてもおもしろいですよね。趣味はお絵かき、リンゴ彫刻、鉄道、雑魚釣り、花いじり、猫いじりなどなど。