2019年5月17日(木)に、「平成30酒造年度全国新酒鑑評会」の結果が発表されました。
その結果からいろいろな話題が広がりましたが、一番の注目は、金賞常連蔵の多くが連続記録を続々と更新したことです。(※連続金賞受賞蔵の一覧は本記事下部に記載しています)
10年以上連続受賞蔵に、福島県から3蔵が入賞
16年連続金賞を受賞したのは「黄金澤」を醸す宮城県美里町の川敬商店と、「高清水」を醸す秋田酒類製造の御所野蔵です。
川敬商店は、蔵元の川名正直さんが杜氏になった翌年から14年連続で金賞を獲得。そして、平成29BY(醸造年度)には、娘の川名由倫さんがバトンを引き継ぎ、連続記録をさらに延ばしています。小さな蔵の快記録に拍手です。
12年連続金賞受賞は、以下の3蔵です。
- 「桃川」桃川(青森)
- 「天上夢幻」中勇酒造店(宮城)
- 「國権」國権酒造(福島)
中勇酒造店の蔵元、中島崇文さんの談話です。
「今季は中核だった蔵人の退職で、麹担当者と醪管理担当者が変わり、経験の浅いメンバーで造りに臨まなければならず、不安を抱えたままの出品酒造りでした。
上野和彦杜氏の苦労は例年以上だったと思いますが、搾ったお酒は前年よりも良かったので、手ごたえはありました。蔵人たちは自信をつけたと思います。来季も連続記録が途絶えないよう、安定した酒造りに取り組みます」
11年連続金賞受賞は、以下の2蔵。
- 「奥の松」東日本酒造協業組合(福島)
- 「名倉山」名倉山酒造(福島)
10年連続金賞受賞は、以下の1蔵でした。
- 「大関」大関 恒和蔵(兵庫)
10年以上連続で受賞した蔵の中に、福島県から3蔵が入賞しているのに驚きます。県としてのレベルの高さが伺えますね。
若手杜氏の活躍にも注目
松崎酒造の蔵元杜氏である松崎祐行さんは、24歳で杜氏になった年に金賞を獲得して以来、8年連続して金賞という破竹の勢いを維持しています。
松崎さんは「金賞受賞はうれしいですが、これにおごることなくコツコツと頑張っていきます」と話してくれました。
6年連続金賞受賞した辻善兵衛商店の蔵元杜氏の辻寛之さんは、興味深い話をしてくださいました。
「私は近年、鑑評会の評価の軸が甘さに寄りすぎていると感じています。本来、日本酒の良さは甘味よりも旨味にあると思っており、今回はあえて前年よりも甘さを抑えて挑戦しました。甘味が少なくても金賞を取るにはどうすればいいかを考え、酒質設計を一から見直し、米の旨味を出し、うちの蔵の持ち味である軟水からなるソフトな透明感と切れの良さに磨きをかけて出品しました。その挑戦が評価されたので、これまでで一番うれしく思います」
連続金賞受賞ではありませんが、全国最年少の杜氏が出品した大吟醸「あたごのまつ」が金賞を獲得し、宮城県の新澤醸造店も注目を集めました。平成29BYに若干22歳で杜氏に抜擢された渡部七海さんは今回が初めて出品です。渡部さんは次のように話してくれました。
「うちの蔵は究極の食中酒を目指して酒造りをしていて、鑑評会に出すような香りが高く甘いお酒は合わないということで長年、出品してきませんでした。それでも、『鑑評会で金賞を取れる技術を磨くことは、普段の市販酒造りにもフィードバックできるに違いない』という社長の判断で出品することになりました」
「山田錦の大吟醸酒で出品することになったのですが、40%精米の山田錦も、出品用の芳醇な香りを出す酵母も使ったことがなく、大吟醸のための袋吊りも初体験と、なにからなにまで初めて尽くし。そのため、宮城県内の多くの酒蔵さんのご厚意で情報やアドバイスなどをいただきながら手探りで造りました。
仕込みタンクを2本立てましたが、1本目は自分たちも首を傾げるレベルにとどまり、おおいに焦りました。2本目は宮城県の先生などの指導もあって、よりよいお酒に仕上がりました。金賞受賞は素直にうれしいですが、課題が山ほど見つかりました。来季も出品できるのであれば、もっと酒質を改善したいと思っています」
新しい造りに積極的に挑戦する杜氏たち
鑑評会で金賞を受賞する多くの蔵は、酒米に山田錦を使い、香り立ちのよい酵母「きょうかい1801号」で醸し、最後に醸造アルコールを添加する造りを採用しているところが多いと言われています。
現在でもこのスペックで出品している蔵は多く見受けられますが、6年連続金賞受賞の辻善兵衛商店のように、最近はいろいろな可能性に挑戦しながら金賞を獲得する蔵が増えています。
あらたな傾向のひとつは、醸造アルコールを添加しない純米大吟醸での出品です。「純米に切り替えて3年目でようやく金賞が取れました」(山形県・小嶋総本店)、「初めて純米大吟醸で出品して金賞を獲得できて素直にうれしいです」(長野県・湯川酒造店)と、成果をあげる蔵が増えています。
また、酒米も山田錦などの全国的に使われている品種ではではなく、都道府県ごとに育てられた地域の酒米で金賞を獲得する蔵も出てきました。
埼玉県の小江戸鏡山酒造は、数年前から地元の農家などと連携しながら、埼玉県の酒造好適米「さけ武蔵」で出品をしてきましたが、今回、ついに金賞を獲得。また、栃木県が開発し、2018年に登録したばかりの酒米「夢ささら」で出品した井上清吉商店と虎屋本店が、金賞を獲得するという快挙も起きています。
入賞しやすいと言われるスペックで出品するのではなく、様々なチャレンジを通して自らの腕を磨こうとする蔵が増えており、全国新酒鑑評会の意義も変わりつつあるのかもしれません。
最後に、都道府県別の金賞受賞数をまとめてみました。こちらは福島県が7年連続トップを守りきりました。上位10都道府県は以下の通りです。
- 1位 福島県 22蔵
- 2位 秋田県 18蔵
- 3位 兵庫県 16蔵
- 4位 新潟県 15蔵
- 5位 長野県 14蔵
- 6位 宮城県 13蔵
- 6位 山形県 13蔵
- 8位 茨城県 12蔵
- 9位 栃木県 11蔵
- 10位 京都府 8蔵
- 10位 広島県 8蔵
昨年13位だった茨城県が6蔵から12蔵へと受賞数を伸ばし、躍進したのが目立ちました。
受賞酒の飲み比べができる「全国日本酒フェア」は6/15(土)開催
6月15日に東京・池袋で開かれる「第13回全国日本酒フェア」では、全国新酒鑑評会の入賞酒と金賞受賞酒が一堂に会し、そのすべてをきき酒することができます。
製造関係者のほかに酒販店や飲食店の関係者も来場する催しですが、一般の方の入場も可能です。今年の日本酒選びの参考として、ぜひ参加してみてはいかがでしょうか。
(取材・文/空太郎)
◎イベント情報
- イベント名:日本酒フェア2019
- 期日:2018年6月15日(土)
- 会場:池袋サンシャインシティ
- 時間:
「平成30酒造年度全国新酒鑑評会 公開きき酒会」
第1部 10:00~13:00 (入場は12:00まで)
第2部 15:30~18:30 (入場は18:00まで)
「第13回全国日本酒フェア」
第1部 10:00~13:30 (入場は13:00まで)
第2部 15:30~19:00 (入場は18:30まで)
※ 完全入れ替え制 - 入場料:
「日本酒フェア2019」両イベント共通券
前売り券:3,500円 (オリジナルお猪口・冊子付き)
当日券 :4,000円 (オリジナルお猪口・冊子付き)
「第13回全国日本酒フェア」のみ参加の場合
1,500円 (当日券のみ)
◎「平成30酒造年度全国新酒鑑評会」連続金賞受賞蔵
16年連続受賞
- 「黄金澤」川敬商店(宮城)
- 「高清水」秋田酒類製造 御所野蔵(秋田)
12年連続受賞
- 「桃川」桃川(青森)
- 「天上夢幻」中勇酒造店(宮城)
- 「國権」國権酒造(福島)
11年連続受賞
- 「奥の松」東日本酒造協業組合(福島)
- 「名倉山」名倉山酒造(福島)
10年連続受賞
- 「大関」大関恒和蔵(兵庫)
9年連続受賞
- 「十四代」高木酒造(山形)
- 「惣譽」惣譽酒造(栃木)
- 「極聖」宮下酒造(岡山)
- 「雨後の月」相原酒造(広島)
8年連続受賞
- 「廣戸川」松崎酒造(福島)
- 「会津中将」鶴乃江酒造(福島)
- 「真澄」宮坂醸造真澄諏訪蔵(長野)
- 「白鶴」白鶴酒造旭蔵(兵庫)
7年連続受賞
- 「福小町」木村酒造(秋田)
- 「萬代芳」白井酒造店(福島)
- 「月桂冠」月桂冠大手二号蔵(京都)
- 「土佐鶴」土佐鶴酒造北大野工場千寿蔵(高知)
- 「文佳人」アリサワ(高知)
6年連続受賞
- 「上喜元」酒田酒造(山形)
- 「燦爛」外池酒造店(栃木)
- 「桜川」辻善兵衛商店(栃木)
- 「國盛」中埜酒造國盛蔵(愛知)
- 「但馬」此の友酒造(兵庫)
5年連続受賞
- 「金冠喜久泉」西田酒造店(青森)
- 「如空」八戸酒類五戸工場(青森)
- 「日高見」平孝酒造(宮城)
- 「阿櫻」阿桜酒造(秋田)
- 「一白水成」福禄寿酒造(秋田)
- 「榮四郎」榮川酒造磐梯工場(福島)
- 「旭興」渡邊酒造(栃木)
- 「文楽」北西酒造(埼玉)
- 「喜楽長」喜多酒造(滋賀)
- 「月桂冠」月桂冠昭和蔵(京都)
- 「福壽」神戸酒心館(兵庫)
- 「三諸杉」今西酒造(奈良)
- 「桜吹雪」金光酒造(広島)
- 「庭のうぐいす」山口酒造場(福岡)