2018年11月、あるニュースが日本酒業界をにぎわせました。それは、酒蔵の増設に関連する規制を緩和する「日本酒特区」の設立を政府が検討しているというものです。

日本酒を造るために必要な清酒製造免許の取得条件はとても厳しく設定されています。年間の最低製造見込数量など、細かい条件が複数定められ、同一の法人でも醸造場の所在地ごとに免許を取得しなければなりません。

「日本酒特区」が承認されることで、日本酒業界にどのような影響があるのでしょうか。今回の特例措置を推進する内閣府地方創生推進事務局に話を伺いました。

「日本酒特区」で目指すのは、地域活性化

インタビューに応じていただいたのは、内閣府地方創生推進事務局の参事官補佐である新納怜(にいろ りょう)さん寺田康裕(てらだ やすひろ)さんです。

─ 「日本酒特区」の概要を教えてください。

構造改革特別区域法における酒税法の特例で、新規に清酒製造免許の取得を目指す方々ではなく、すでに清酒製造免許を保有する酒蔵に向けた制度です。

特区内では、製造体験を行う施設を増設する場合に限って、既存の酒蔵とその施設を合わせてひとつの製造場としてみなすことができます。つまり、製造体験を行う施設でも、清酒を製造することができるのです。

<酒税法抜粋>

第7条 酒類を製造しようとする者は、製造しようとする酒類の品目別に、製造場ごとに、その製造場の所在地の所轄税務署長の免許を受けなければならない。
2 酒類の製造免許は、一の製造場において製造免許を受けた後一年間に製造しようとする酒類の見込数量が当該酒類につき次に定める数量に達しない場合には、受けることができない。
一 清酒 六十キロリットル

(関係条文:酒税法 第7条 第1項、第2項)

─ この制度の目的は何ですか。

今回の制度は地方創生の一環です。日本酒は古くから地域の経済や文化の発展に貢献してきました。地域の特色を反映させた付加価値を向上させることや交流人口の増大など、地域活性化を目指しています。

─ なぜ、体験型の施設に限定しているのでしょうか。

その地域の魅力が増進されるような施設で、地域に根ざした日本酒の製造体験をしていただくことで、地域の方々や文化に触れていただき、地域の特色ある日本酒や地域そのもののファンが増えることを期待しています。

─ 制度のスタートはいつごろになりそうでしょうか。

酒税法の特例を創設する方針が政府で決定され、これから国会で法案が審議されます。法案が順調に成立した場合には、申請の受付を年内に始められるよう準備していきます。

─ 最後に「日本酒特区」への期待を教えてください。

これまで2003年に「どぶろく特区」、2008年に「ワイン特区」、2017年に「焼酎特区」を創設してきました。これらは製造免許にかかる最低製造見込数量の基準を緩和し、地方を活性化させる政策です。これまでに計画単位でおよそ270件の適用があり、多くの地域で活用されています。

「日本酒特区」には、地域に強く根ざしたブランドの付加価値向上、新たな産業の創出や人々の交流が活性化することによる経済の発展、および生活の向上を期待しています。

清酒特区の概要

酒蔵からの期待

新潟県佐渡市にある尾畑酒造は代表銘柄「真野鶴」を醸造する本蔵とは別に、廃校をリノベーションした「学校蔵」と呼ばれる仕込み蔵を運営しています。

学校蔵では、地元産の酒米や再生エネルギーを使った酒造りだけでなく、大学・新聞社・通信会社など、業界の枠を越えた連携プロジェクトや「学校蔵の特別授業」と呼ばれるワークショップを開催して注目されています。

桜が咲き誇る学校蔵

酒の製造は本蔵の仕込みが終わった春から夏にかけて、仕込み部屋を冬の気候になるように温度管理して行っています。清酒製造免許で規定する60キロリットルの最低製造量を確保できないため、本蔵で取得済みであったリキュールの製造免許を移転、純米酒を製造し、工程の最後で佐渡産の杉を漬け込み、清酒に副原材料を浸漬して香味を付けたリキュールとして販売しています。

学校蔵では酒造りを学びたいという方々を1週間以上の滞在を前提に受け入れ、近年は海外からも参加者が来島しているのだそう。今回の「日本酒特区」について同社の社長・平島健さんに話を伺うと「より本格的な"日本酒"の製造体験を提供することで、日本酒への理解を図るとともに佐渡のファンづくりにつなげて交流人口の増加に貢献したい」と、期待を寄せていました。

学校蔵

「学校蔵」のケースだけでなく、「日本酒特区」が制定されることで、全国の酒蔵が閑散期である夏場にも体験者を受け入れられ、施設そのものが雇用を産出するなど、さまざまな効果が期待できるでしょう。

地方活性化への強力な切り札となりうる「日本酒特区」。今後の動向に注目です。

(取材・文/内記朋冶)

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