東北有数の豪雪地帯・横手の伝統蔵
東北有数の豪雪地帯であり、秋田の小正月行事「かまくら」で有名な秋田県横手市。同市に蔵を構える阿櫻酒造は、明治19年(1886年)に創業しました。
かつての主要銘柄は「かまくら」「雪の音(ゆきのね)」でしたが、2008年から、町のシンボル・横手城の別名「阿櫻城」から採ったブランド「阿櫻(あざくら)」を立ち上げて、全国展開しています。酒蔵のすぐ横からは奥羽山系の清らかな伏流水が湧き出ていて、それを仕込み水として使用しています。
山内杜氏の名工・照井杜氏が蔵を牽引
横手市は、全国五大杜氏に入る山内(さんない)杜氏の発祥地(旧・平賀郡山内村)でもあります。同蔵の杜氏・照井俊男さんも山内杜氏の重鎮のひとりで、70歳を超えてもバリバリの現役です。
山内杜氏は南部杜氏と並ぶ東北最大の杜氏集団で、現在、山内杜氏組合の会員は約150人。そのうち、杜氏の職に就いているのは約30人で、山内出身の現役杜氏はわずか5人とのこと。照井杜氏は、貴重なそのひとりです。2015年には、その功績が評価され「黄綬褒章」を受賞しています。
「飲む方に蔵人の情熱が伝わる酒」をコンセプトに、秋田流寒仕込みの伝統を貫き、照井杜氏のチェックを通った酒だけが出荷されるという徹底ぶり。近年、世代交代が進み、若手の杜氏や蔵元が増えてきていますが、みずからの官能と経験で勝負してきたベテランの職人たちが銘酒を生み出していく姿からは、学ぶべきことがまだまだたくさんあるでしょう。
伝統を守りながらも新しいチャレンジ
紹介する純米酒は秋田県産米の「秋田酒こまち」を60%精米したもの。横手という土地にこだわる同蔵らしく、秋田酒こまちは横手産、かつ蔵人が作った米なのだそう。水、米、人......すべての要素が地元につながる、日本酒流の"テロワール"と言えるかもしれません。
酵母は阿櫻定番の901号酵母を使用。麹の香りとかすかな柑橘香を感じ、口に含むと、スカッとしたガス感を堪能したあとに、酸味を中心とした旨味が感じられ、その後すぐに辛味と若干の渋味が口の中を支配します。日本酒度は+10でたしかに辛口タイプですが、アルコール感よりも、完全発酵による爽やかで鮮烈な味わいが印象的。後口は、潔くズバッと切れていきます。トラディショナルな辛口ではなく、米の旨味も味わえるバランスのとれた辛口です。燗にすると米の旨味と膨らみが増し、燗上がりします。
爽やかで重さを感じず、何杯でも呑める酒。和食には何でも合う、晩酌に最適な食中酒です。刺身であれば、白身から中トロまでどんなものでも合います。秋田らしく比内地鶏の刺身やたたき、いぶりがっこ、洋食なら蛸のカルパッチョ、ハードタイプのチーズなど、広く合わせられるでしょう。若い人はもちろん、年配の辛口好きにも納得してもらえる良酒です。