日本には、花見酒や雪見酒など、季節の移り変わりを愛でながらお酒を楽しむ文化があります。月見酒は、平安時代の貴族たちが名月を眺め、宴をし、水面や杯に映る月を愛でたとされる習慣です。
2017年には、月桂冠株式会社が中秋の名月の日を「月見酒の日」として一般社団法人日本記念日協会に登録申請したところ、記念日として正式制定されました。毎年変わる中秋の名月の日、2020年は10月1日がそれにあたります。
そこで、今回は秋の月の美しさを楽しむ月見酒にぴったりな3つのレシピとお酒をご紹介します。
月の神の名持つ日本酒と「冷凍黄身の醤油漬け」
日本神話に登場する出てくる神様「アマテラス(天照大神)」には、「ツクヨミ(月読命)」という弟神がいます。月を神格化した、夜を統べる神で、もともとはアマテラスとツクヨミが天を統治していましたが、とあることがきっかけで二人は別れ、昼と夜ができたと言われています。
そんな月の神「ツクヨミ」の名が付いた日本酒が、「金宝芙蓉(きんぽうふよう) 純米吟醸 Tsukuyomi」です。
フルーティーな香りのあと、アルコールと穀物の香りが遅れてやってきます。口当たりは滑らかでふくよか。飲み口は甘めですが、さわやかな酸によってバランスよく整えられていて、後半はちょっとした苦みとほどよい甘さの余韻があります。
このお酒に合わせるおつまみは、「冷凍黄身の醤油漬け」。作り方はとても簡単です。
「冷凍黄身の醤油漬け」の作り方
1.生卵を殻そのまま冷凍庫に丸1日入れて、凍らせます。
2.冷蔵室に移し、1時間ほどかけて解凍します。
3.殻を割り、白身と黄身に分けます。黄身を醤油に2~3時間ほど浸けます。
できあがった冷凍黄身の醤油漬けは冷蔵庫で2~3日間で保存可能です。中秋の名月にあわせて早めに作っておいてもいいですね。一度冷凍された卵の黄身はムチムチの食感でヤミツキになること間違いなしです。
秋の訪れを告げる“ひやおろし” と「ふわふわ月見そば」
秋になると「ひやおろし」と書かれた日本酒を見かけることが増えます。「ひやおろし」の語源は“冷や”で“卸す”から。春先にできあがったお酒を火入れしてひと夏の間貯蔵し、外気温と蔵の貯蔵庫の温度がちょうど同じくらいになった秋になって、火入れを行わずに「冷や(=常温)」で「卸ろす(=出荷)」ことから、このように呼ばれるようになりました。
今では技術や設備の向上により生酒や生貯蔵が当たり前のように飲めたり、四季醸造で1年中搾りたてが出荷されたりできるようになりましたが、やはり「ひやおろし」のラベルが貼られた日本酒が店頭に並ぶのをみると心が踊ります。
季節によってラベルの色が変わる「天吹 純米吟醸 金色」は、紅葉を思わせるチェック柄の秋バージョンです。
天吹酒造といえば花酵母を使うことで有名ですが、この「天吹 純米吟醸 金色」の使用酵母はアベリア酵母。アベリアは夏から秋にかけて咲く、とても可愛らしい小さな花です。この花から分離したアベリア酵母で醸されたお酒は、蔵内での低温熟成期間を経て出荷されたものです。
先ほどの「冷凍黄身の醤油漬け」を使って、もう1品、「ふわふわ月見そば」を作りましょう。
「ふわふわ月見そば」の作り方
1.「冷凍黄身の醤油漬け」で残った卵白をあわ立てます。
2.茹でた蕎麦に、1.と「冷凍黄身の醤油漬け」を乗せ、めんつゆをかけ、好みで薬味を散らします。
しゅわっと溶ける卵白が蕎麦に絡まって新しい食感です。貯蔵庫で静かに熟成した「ひやおろし」は、搾ったばかりの荒さが取れて口当たりが丸くなり、柔らかく穏やかな味わい。まろやかにとろけあう黄身と「ひやおろし」は好相性です。
オーク樽熟成酒と「究極のたまごかけご飯」
熟成酒と聞くと、あまりなじみがなく苦手意識を持っている方も多いかもしれません。新酒が喜ばれることが多い日本酒ですが、熟成酒には、新酒とは違った恍惚とする素晴らしさがあります。
「ORBIA LUNA」は、仕込み水の代わりに日本酒を使う貴醸酒と同じ製法で仕込まれ、オーク樽で熟成させたお酒。熟成酒が初めての方も、熟成酒を飲み慣れている方もおいしいと感じられる1本です。月が描かれたラベルで月見酒もにぴったりですね。
ハチミツやバニラのような濃厚な甘みと白ワイン樽由来の独特の香り。しかし、想像以上にスッと口に入っていきます。甘さと酸のバランスが抜群で、きれいな余韻に浸れる一杯です。
最後は、「究極のたまごかけご飯」で締めましょう。
「究極のたまごかけご飯」の作り方
1.「冷凍黄身の醤油漬け」で分けた卵白をあわ立てます。
2.温かいご飯に1.と黄身の醤油漬けを乗せて、白ごまを散らします。
醤油漬けで使った醤油を、お好みの量を垂らしてどうぞ。口どけのよい卵白と濃醇な黄身を白米が受け止め、さまざま味わいが楽しめるたまごかけご飯です。ナッティな香りは熟成酒に合うので、白ごまをパラリとかけるのもおすすめです。
お月見と日本酒は、古くから楽しまれてきた日本の文化。まだまだ気軽に外で飲んだり、大勢と会ったり、国内ですら移動を制限されているような状況ですが、月を眺めることは、世界中のどこからでもできます。今年のお月見は、日本酒を片手に、ゆっくりと月を眺める時間を楽しんではいかがでしょうか。
(取材・文/まゆみ)
※この記事は「#新しいお月見」プロジェクトに参加しています。