丸本酒造株式会社は岡山県で慶応3年(1867年)から続く歴史ある酒蔵。原料となる酒米のすべてを自社栽培しているのが大きな特徴です。近年、酒米の自社栽培に取り組もうとする酒蔵が増えてきましたが、丸本酒造はなんと今から30年以上も前、1986年から自社栽培を行なってきました。
育てている米はすべて山田錦。岡山県の気候・風土を生かし、酒造りに最適な米を作るため、日々研究を重ねています。9月に行われた丸本酒造の報告会にて、自社栽培にかける思いをうかがいました。
「等級の高い米=良い米」は間違い!?
丸本酒造はなぜ酒米の自社栽培に取り組み続けるのでしょうか。代表の丸本仁一郎氏から、丸本酒造の酒米に対する考え方について詳しい説明がありました。
「日本酒は、精米された米を使って造られます。米を磨く理由は、お酒をおいしくするため。米の外側にはたんぱく質が多く含まれていて、これが雑味のもとになるのです」
米の等級は粒の大きさによって決まります。等級が高い、つまり粒が大きい米のほうが、たんぱく質の少ない芯の部分を多く使えるのではと考えることができそうですが......丸本氏によると、それは間違った考えなのだとか。
「米の粒を大きくするために必要なのは肥料です。たくさんの肥料を与えれば、粒が大きくなり、結果として米の等級は上がります。等級の高い米は高く買い取ってもらえるので、多くの農家は粒の大きい米を育てようとするのです。
しかし実際、肥料の成分は米粒の中にたんぱく質として蓄積されていきます。ただ、ほとんどの人たちはこの事実を知りません。『等級の高い米=絶対的に良い米』だと思っているのです。粒の大きい米は、そのぶん雑味のもとになるたんぱく質が多く含まれている可能性もあるのですが、そのこと知らずに購入してしまいます」
肥料をたくさんあげた米には、酒質に影響を与える場合もあるたんぱく質が蓄えられているんですね。粒が大きいからといって、酒造りに適した米とは一概に言えないのかもしれません。
1枚ずつ異なる、田んぼの個性を知る
「等級が高い米のすべてが良い米ではない」という考えをふまえ、丸本酒造では掛米と麹米、それぞれに適した米を分けて収穫しているのだとか。長年積み上げた知見から「掛米にはたんぱく質の量が少ない米、麹米には心白発現率の高い米が適している」というひとつの答えを導き出したのです。では、どのようにして栽培を分けているのでしょうか。
田んぼはいくつかのエリアに分かれているため、まずそれぞれの田んぼについて土壌分析を行い、そのデータを元に最適な肥料の量などを設計していきます。一般的な農家では、田んぼ1枚1枚の特徴を解析し、目的別に分けて栽培・収穫することはほとんどないのだそう。
丸本氏は「ワインと異なり、原料に酒質を合わせるのでなく、酒造りに合わせた酒米づくりが一番大事」と力を込めます。だからこそ、等級に左右されることなく、米の特徴をしっかりと分析することができる自社栽培は、丸本酒造の酒造りにおいて大きなメリットなんですね。
目指すのは、味わい深い食中酒
米づくりからこだわる丸本酒造さん、お酒そのものを単独で楽しんでほしいと考えているのでは?と思いましたが、丸本氏いわく「日本酒はあくまで食中酒」という考えなのだとか。
今回の報告会では、丸本酒造の竹林シリーズに合わせた食事の提供もありました。
「竹林 ふかまり 純米酒」は濃い旨味があり、肉やチーズなどの素材に合うとのこと。今回はレバーパテを載せたバケットとともにいただきました。しっかりとした味わいですが、レバーの風味を崩すことはなく、お酒と合わせることでお互いを補完し合っています。
シャインマスカットの生ハム巻は「竹林 たおやか 純米大吟醸酒」「竹林 かろやか 純米大吟醸酒」のどちらにも好相性。「たおやか」とのペアリングでは、お酒の甘みや旨味がより引き立つように感じられました。
日本酒の主原料である米を日々研究し、おいしい酒造りのために、よりより米づくりに取り組む丸本酒造。自社栽培のパイオニアとして、今後の日本酒業界を引っ張っていってくれるでしょう。
(文・写真/嘉手川瑞姫)
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