日本酒ファンの間で人気の高い蔵元が集まり、東京湾を巡るクルーズ船上で楽しむ日本酒パーティー「TOKYO SAKE CRUISE 2019 by 日本酒オーシャンズ」が2019年9月8日に開催されました。5回目の開催となる今年は、台風が接近していたことから船は出港できず、埠頭に接岸したままでの開催です。

このイベントの魅力は、なかなか会う機会のない人気蔵元がブースを離れて飲み手とともに語り合い、彼らの素顔を目の当たりにできることです。東京湾の夕景と極上のお酒、料理も加わり、参加者は大盛り上がり。その様子をレポートします。

日本酒業界を牽引する、12人の蔵元たち

蔵元グループ「日本酒オーシャンズ」の代表を務めるのは、山形県・亀の井酒造の今井俊典さん。イベント開催のきっかけを次のように話します。

「日本酒オーシャンズ」代表、亀の井酒造の今井俊典さん

「日本酒オーシャンズ」代表・亀の井酒造の今井俊典さん

「きっかけは2011年に発生した東日本大震災でした。東北地方の太平洋に面した酒蔵が甚大な被害を受けましたが、それ以外の地域でも古い蔵などが倒壊したり、傾いたりした酒蔵がたくさんありました。そこで、なにか元気が出るようなことはできないかと考えたんです」

今井さんは、意欲的な挑戦をしている同世代の仲間を募り、まだ誰も開催したことのない日本酒イベントを企画します。それが、クルーズ船を会場にした日本酒パーティー「TOKYO SAKE CRUISE」です。

日本酒オーシャンズのメンバー

今年の参加蔵元は、以下の通りです。

  • 今井俊典さん(亀の井酒造/山形県) 代表銘柄「くどき上手」
  • 薄井一樹さん(せんきん/栃木県) 代表銘柄「仙禽」
  • 大西唯克さん(木屋正酒造/三重県) 代表銘柄「而今」
  • 大沼健さん(大沼酒造店/宮城県) 代表銘柄「乾坤一」
  • 田中克典さん(白糸酒造/福岡県) 代表銘柄「田中六五」
  • 冨田泰伸さん(富田酒造/滋賀県) 代表銘柄「七本槍」
  • 宮坂勝彦さん(宮坂醸造/長野県) 代表銘柄「真澄」
  • 山田昌弘さん(山忠本家酒造/愛知県) 代表銘柄「義侠」
  • 吉田泰之さん(吉田酒造店/石川県) 代表銘柄「手取川」
  • 渡邉康衛さん(福禄寿酒造/秋田県) 代表銘柄「一白水成」
  • 小牧伊勢吉さん(小牧醸造/鹿児島県) 代表銘柄「一尚」
  • 佐藤祐輔さん(新政酒造/秋田県) 代表銘柄「新政」

昨年は11人の体制でしたが、今年から新たなメンバーが加わりました。革新的な酒造りで日本酒業界をリードする、秋田県・新政酒造の佐藤祐輔さんです。

佐藤さんをメンバーに誘った理由について、今井さんは次のように話します。

「若い人たちを中心として日本酒に興味を持つ人が増え、最近はさまざまな日本酒イベントが開催されています。そのなかでも、人気銘柄を造る蔵元を厳選した『TOKYO SAKE CRUISE』を、最も発信力のあるイベントにしたいんです。これまでも充実したメンバーで開催してきましたが、新政酒造の佐藤さんが加われば、ますます魅力的なイベントになると考えてお誘いしました」

新政酒造の佐藤祐輔さん(写真左)

新政酒造の佐藤祐輔さん(写真左)

一方、声をかけられた佐藤さんは、参加した理由について次のように話します。

「イベントの趣旨に賛同して参加しました。お客様もひとりひとりが情報発信をしていて影響力を持っている人が多く、将来性があるイベントだと感じたんです。そんな客層を考えて、提供するお酒はうちのラインナップのなかでも個性的なものを選びました」

もともと人気が高いイベントですが、今回のチケットも順調な売れ行きだったそう。最終的には、350名ほどの参加者が船上に集まりました。

蔵元といっしょに、上質な時間を楽しむ

参加者と記念撮影をする蔵元たち

イベントはメンバーの挨拶からスタート。お目当ての蔵元を撮ろうと、すぐに写真待ちの列ができあがります。

大沼酒造店の大沼健さん

開会後はメンバーが部屋ごとに分かれて、ブースでお酒を振る舞ったり、ブースを離れて参加者と交流を深めていました。

蔵元トークショーの様子

今年の注目は、新たに企画された「蔵元トークショー」です。

参加者のなかには蔵元に声をかけられない方もいるので、このような形で蔵元の声を聞けるのはうれしいものです。トークショーが始まると、お酒を片手に人だかりができました。

トークショーのなかでは、「どこか気になる酒蔵はありますか?」という質問も。日本酒蔵を挙げる蔵元が多いなか、新政酒造の佐藤さんは「岩手県の遠野でどぶろくが大きな動きを見せている」、冨田酒造の冨田さんは「京都の宮津にあるお酢メーカーの活動から目が離せない」など、異業種の醸造業界についても注目している様子でした。

特に盛り上がったのが、「みなさんが造る日本酒は、どんな鮨ネタと相性がいいですか?」という質問です。

「而今」はウニかエビ、「七本槍」は煮アナゴ、「一白水成」はイクラ、「新政」は白身魚、「乾坤一」はアナゴの白焼きと煮アナゴ、「手取川」はカッパ巻きと合わせるのがおすすめだそう。各蔵の個性を反映した回答に、参加者からは大きな拍手と笑いが起きていました。

船上で談笑する蔵元と参加者たち

当日は台風が接近していましたが、幸いにも雨は降らず、イベントの終盤には多くの人たちがデッキに出てきて、高層ビルやレインボーブリッジの眺めを堪能していました。

次回の開催について今井さんに伺うと、「まだ決まっていませんが、東京オリンピックの開催年にふさわしく、特別感たっぷりのクルーズパーティーにしたいと考えています」と話してくれました。

船上で人気蔵元と交流を深めることができる特別なパーティー。次回はどのような内容になるのか、今から期待が高まります。

(取材・文/空太郎)

この記事を読んだ人はこちらの記事も読んでいます