世界を見回すと、それぞれの国で豊富に採れる原料を使ってさまざまな酒が造られ愛飲されています。醸造酒でいえば、ワインやビール、日本酒などがそれに当たります。

原料によって異なる醸造酒の造り方

醸造酒といっても、その造り方はさまざまです。

ワインは、原料となるぶどうにアルコール発酵に必要なブドウ糖が含まれているので、ぶどうの果汁をそのまま発酵させます。糖化をせず、発酵の工程だけでアルコールを生み出すことを「単発酵」と言います。

ビールの原料である麦芽には糖分が含まれていないため、このままではアルコール発酵ができません。そこで麦芽の糖化酵素を使って、麦のでんぷんを麦芽糖に変える必要があります。その後一旦搾り、その麦汁に酵母を添加して発酵させます。このように、糖化のあとに発酵を行わせる方法は「単行複発酵」と呼ばれています。

日本酒は、蒸した米に麹菌を繁殖させ、麹を造るところから始まります。この麹に蒸米や水、酵母を加えてできるのが酒母。麹菌が米のでんぷんを糖化させつつ、酒母の中で育った酵素がその糖分をアルコールに変えていきます。原料の蒸米を一気に加えると酵素の力が弱まってしまいますから、糖化とアルコール発酵のバランスをみながら麹、蒸米、水を投入します。三段仕込みと呼ばれる手法ですね。

米のでんぷんをブドウ糖に変える糖化と、そのブドウ糖をアルコールに変える発酵が、並行して進むことから「並行複発酵」と言われています。

麹を発酵させて造る「どぶろく」

日本における酒造りの歴史をみると、山ぶどうなどを使った果実の酒も散見されますが、酒造りは縄文時代後期に大陸から渡来した、水田稲作による米が原料で麹を使うどぶろくのような酒から始まり、本格的な酒造りは大化の改新(645年)以降の律令時代に始まったとされています。

養老4(720)年に書かれた『日本書紀』には、大化2(646)年に農民の飲酒と魚食の禁令が出されたことが書かれており、それ以前から、農民の間では春の国見行事、春秋の歌垣、神祭りの直来(なおらい)などの際に、盛んに酒が造られ、飲まれていたことがわかります。

酒の中に蒸米と麹を入れて造る「醞(しおり)法」

平安時代には酒造りを専門とする「宮中酒の司」が置かれ、宮中行事などに欠かせない特別な酒の他、その使用目的や季節によって異なる造り方の酒や料理酒のようなものまで多様な酒が造られました。

その中には、酒の味を甘く濃くするため、一度搾った酒の中に蒸米と麹を入れて再び発酵させる「醞(しおり)法」をはじめ、麹の量を多くしたり、水の代わりに酒を使ったり、甘みを増すために高温糖化法を使ったり、糖化と発酵を充分進めて熟成させたりなど、実に10種以上もの造り方があったようです(1973年に醸造試験所で開発された貴醸酒はこの醞法によるもの)。

中世になると、寺院などで盛んに酒が造られるようになりました。注目すべき点は「法」が廃れ、まず酒母を造ってその中へ蒸米と麹を仕込む「酘(とう)方式」に変わったことです。

室町時代の酒造技術書『御酒之日記』によれば、「酘方式」による酒造りとは以下のようなものでした。

良く蒸した1斗の白米に6升の麹をまぶし、1斗の水を加えて保温しながら6日ほどおくと、酵母が増殖します。そのタイミングで、さらに水1斗と麹6升を加えた上、1斗の蒸米を添加して仕込みは完了。醪が沈まないように撹拌をしながら発酵を進めると、およそ7~10日程度で酒ができあがるそう。

この仕込みの特徴は、酒母に近いものを造って酵母を増やし、その上に麹と蒸米を仕込む、いわば一段仕込みであること。あらかじめ酵母を大量に増やした酒母を造るところに新しさがあり、醞法と比べると、生成する酒の量が増えると同時に、アルコール度数も格段に高くなったと思われます。

現代の酒造りに近い「二段仕込み」と「諸白」

室町時代に天野山金剛寺で醸されたという僧房酒の天野酒。基本的な造り方は、先の『御酒之日記』と変わりませんが、『御酒之日記』では追加の蒸米、麹、水の添加を1回で行うのに対し、天野酒は2回に分けて添加しました。いわゆる二段仕込みです。

二段仕込みでは『御酒之日記』にみる方法と比べると、蒸米の量に対して麹歩合が少なくなる反面、添加する水の量がより多くなっていることなどから、酸やアミノ酸が少なく、アルコール度数がより高い酒ができていたと思われます。

戦国時代の後半にかけて書かれた『多門院日記』では、麹米・掛米ともに精米された白米を使う「諸白」による酒造りが登場しています。

玄米だけで造っていたどぶろくのような酒造りが始まって以来、時代の経過とともに、麹は玄米のままで造り、掛米となる蒸米だけを白米とする「片白造り」が出現。続いて麹米・掛米とも白米で仕込む「諸白造り」へと発展し、酒の質をより高めるとともに、現代的な酒造りへとさらに近づいていきました。

(文/梁井宏)

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